「はじめて」の物語を問い直す

2026年4月20日、『日本と世界の女性科学者たち』が刊行されました。本書は、これまで十分に語られてこなかった女性科学者たちの歩みと功績に光を当てると同時に、「なぜ彼女たちは“はじめて”にならざるを得なかったのか」という問いを、読者に投げかけるものでもあります。

女性科学者の歴史は、個々の努力や才能だけで語られるものではありません。教育機会の制約、制度的排除、無意識のバイアスなど、社会の側にある構造が、誰が科学に参加できるのかを長く規定してきました。本書では、ノーベル賞受賞者を含むさまざまな女性たちの歩みを通して、科学の発展と社会の関係がどのように交差してきたのかを読み取ることができます。

構成にあたっては、分野別ではなく年代順に並べることを提案しました。これにより、時代ごとの社会状況と科学のあり方、そして女性たちの置かれた位置が重なり合い、歴史の中で何が変わり、何が変わっていないのかが見えてきます。また、現代の研究者も含め、ニューロダイバーシティの観点を含む科学者や、アジア・アフリカ・中東で活躍してきた女性科学者も取り上げています。これは「女性科学者」というカテゴリーそのものを問い直し、その多様性を可視化する試みでもあります。
本書で取り上げている人物や目次などの詳細は、出版社の紹介ページに掲載されていますので、関心に応じて参照いただければと思います。
https://www.gakuji.co.jp/book/b10166049.html

私はこれまで、学習環境デザインの研究を通して、科学と社会の関係を問い続けてきました。本書では、「どのような問いを立ててきたのか」「どのようなまなざしで世界に向き合ってきたのか」に注目する構成を重視しています。科学を単なる成果の集積としてではなく、人がどのように世界を理解しようとしてきたのかという営みとして捉え直すことが、これからの科学と社会の関係を考える上で重要だと考えています。

刊行に先立ち、研究室を整理していた際に、1985年の米国のIEEEの学会誌に掲載された「Women in Science and Engineering」に関する特集が出てきました。当時から女性と科学の問題に関心を持っていたことを思い出し、それが今回こうして一冊の本としてまとまったことに、個人的にもつながりを感じています。

本書は主に図書館向けとして刊行されていますが、多くの子どもたちや若い世代に手に取ってもらえたらと願っています。科学は誰にとっても開かれた営みであるべきです。本書が、その前提を問い直し、より包摂的な科学のあり方を考えるきっかけとなればうれしく思います。

◆書誌データ
書名 :日本と世界の女性科学者たち
副題 :「はじめて」の道を歩んだ女性たちの探究心のルーツを知る1冊
著者 :美馬のゆり(監修)
頁数 :112頁
刊行日:2026/04/20
出版社:学事出版
定価 :5,280円(税込)

日本と世界の女性科学者たち 「はじめて」の道を歩んだ女性たちの探究心のルーツを知る1冊

著者:美馬のゆり

学事出版( 2026/04/27 )