
「健気で、かわいそうな母親」でなければ「声」は認められないのか?
本書は、経済的に困窮する子育て世帯がどのような言説空間に置かれ、いかなる権力関係を経験しているのかを、報道機関からの取材機会を手がかりに聞き取り、考察したものです。
■ 「規範的当事者像」と条件付きの承認
子育て世帯の貧困問題を語る際、社会は当事者に何を求めているでしょうか。
世間が納得する「健気な母親像」「頑張っている子ども像」から外れれば、即座に「自己責任」と叩かれる。「かわいそうな姿」でなければ支援や共感を得にくいことを、当事者は様々な日常の場面から肌で感じています。調査協力者であるシングルマザーは「そのままでいたらバッシングされる」と語りました。
■ 当事者を「受け身の存在」から「能動的な主体」へ捉え直す
これまでの貧困研究や言説において、当事者は「受け身」の存在として平板に評価される傾向にありました。しかし本書は、報道機関の取材を経験した28人(シングルマザー18人、子どもの立場10人)への質的調査を通して、その像を覆します。彼らは切り取られるだけの存在ではありませんでした。取材者や社会からの不条理な眼差しに対し、抗議、説得、戦略的対応など、自らの足場を確保しようとする「主体」であったことを、実証しています。
■ 記者時代の経験と葛藤を土台に
著者は長く新聞記者として、貧困問題の取材の現場に立ってきました。「報道の使命」と「当事者の声の扱われ方」という葛藤を経て、いったん休職し、2023年にアカデミズムの世界から、本書につながる研究に取り組みました。結局、2026年、記者を辞め、研究の道へ一歩踏み出しました。
貧困は、制度や権力の偏在によって生み出される政治的・社会的なものです。単なる困窮度の比較を超えて、「誰が、誰の声に、どのように発言権を与えるのか、与えないのか」を当事者サイドから切り込もうと試みました。
◆目次
まえがき
序 章 研究の目的と背景
第1章 貧困と報道、当事者の「声」に関する研究の動向と方法
第2章 調査の概要
第3章 当事者はなぜ、何を、伝えたのか、伝えなかったのか
第4章 当事者はどのように「声」を伝えたのか
第5章 当事者の「声」を取り巻く日常と他者化
第6章 当事者が「声」を伝えることの意味
終 章 貧困と表象のポリティクス
あとがき
◆書誌データ
書名:『子どもの貧困をめぐる表象のポリティクス 当事者はどう「声」を伝えたのか』
著者:中塚久美子
頁数:240頁
刊行日:2026/9/15
出版社:かもがわ出版
定価:2600円(税別)









