
「当事者主体の女性運動」は1990年代以降大きく進化しています。1995年の世界女性会議(北京会議)では女性に対する暴力に世界が正面から抗し、DVが課題化され、その動きは世界に、日本に拡がりました。このパネルトークでは、「当事者主体の女性運動」に焦点を当て、90年代の運動として「AKK女性シェルター」の運動を、現代の運動として2025年に緊急避妊薬の店頭販売を実現させた活動と、2022年の困難女性支援法の成立に関与していった暴力被害女性支援職の運動を、各活動に長く関わってきた3人の登壇者が語ります。パネルトークとコメントを通じて、当事者が運動の中心となることの固有の意義が明らかにされました。
●日 時:2026年10月18日(日)15:00-16:45
●開 催:オンライン
●参加者:27人
●プログラム
パネルトーク
・なぜ「AKK女性シェルター」に着目したか 本と映像による記録の作成― 内藤 和美
・緊急避妊薬を薬局で!声をつなぎ・制度をかえるー 福田 和子
・女性支援法制度の制定をめぐる女たちの運動 その軌跡と現在地 ― 小川 真理子
コメンテータ ・ 上野千鶴子
交流会
●主 催:WAN当事者主体の女性運動プロジェクト
パネルトーク
●「なぜ「AKK女性シェルター」に着目したのか」 本と映像による記録を作成した内藤和美さんの報告
・「AKK女性シェルター」は、暴力被害の当事者女性たちが中心となり、専門職等と協力して、1993年に開設された。「AKK女性シェルター」は、緊急一時保護だけでなく、初期の回復支援機能とピアサポート機能を伴うシェルター運営を行い、全国のシェルターネットワーク(1997年、現「全国シェルターネット」)づくりを主導し、ネットワークの力を「『女性に対する暴力の根絶をめざして』に関する要望書」(2000)の作成、提出、国会委員会での意見表明等、DV防止法の成立への関与に投じていった。
・利用者のニーズを身をもって知っている当事者ならではのシェルター運営、活動の中心的担い手となることを通じて培われた力を以てのネットワークづくり、法制定への関与、点から線へ、線から面への活動展開はエンパワーメントプロセスそのものである。
・当事者が活動の中心となることで実現したこの稀有な活動経験を次世代に渡していくために、図書と映像での記録を作成した。
●「#緊急避妊薬の薬局店頭販売」を実現・声をあげ制度をかえた福田和子さんの報告
・大学時代留学したスウェーデンで緊急避妊薬の薬局店頭販売をみて、日本との差にショックをうけた。調べると世界90か国以上で薬局販売がされており、若者には無償提供する国もある。日本が特殊であることがわかった。報告の最初に、2018年の「自分のからだは自分のもの」など「SHRHの新定義」をまず確認・共有した。
・留学から帰国後、仲間とともに「#なんでないのプロジェクト」を2018年に立ち上げ声をあげた。妊娠したかもしれない不安をかかえた女性たちが安心・安全に緊急避妊薬にアクセスできる社会を目指し、NPO法人ピルコン代表染谷明日香さん、産婦人科医遠見才咲子さんとともに「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロッジエクト」も立ち上げ、議員などに向けた院内勉強会を開く。実態を調査し、改善を求める署名18万筆を集めるなどネットワークを拡大し、切実な声を国や政治家に伝えた。改善を求める要望書(全国65団体の賛同要望書)を提出するなど働きかけを強め、2025年には厚生労働省の検討委員会に構成員として参加し、制度を変える場に関わった。
・世界の動きも大きな力となった。2024年には、国連のCWDAW日本審査により勧告「緊急避妊薬を含む、支払い可能な価格の現代的避妊法へのアクセスを確保すること」がだされた。それらの動きは、緊急避妊薬の処方箋なしでの薬局販売の実現(2026年2月)につながった。現在も、薬剤師の面前での服用や、一部の薬局に限られる,高額などさまざまな課題は残っており、今後も改善にむけての活動はつづく。
なぜ苦しんでいる女性がいるのにわかってもらえないのかという思い、しかし制度は空から降ってはこない。
一人の女性が社会の変革に向け行動し、声をつなげて制度を変えた力強い運動が語られた。
●「女性支援法」制定の動向をみつめ、女性相談支援員研究に取り組む小川真理子さんの報告
・売春防止法制定(1956年)から約70年にわたり、婦人保護事業の役割や課題は大きく変化してきた。2001年のDV防止法の制定では、新たにDV被害者が婦人保護事業の対象となり、その後ストーカー、人身売買「、性暴力被害者と対象者は拡大してきた。これまで女性支援を担ってきた婦人保護事業の関係者からは、多様化する女性支援ニーズへの対応の難しさが指摘されてきた。新たな女性支援への枠組みが必要とされ、2024年4月に「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(以下、「女性支援法」と記す)が施行された。
・女性支援法の制定に関わる人々には、困難を経験した「当事者」、民間支援団体、公的制度の内部で女性支援を担う相談員、研究者や行政職員、議員など、異なる立場の「当事者」が存在している。
また、相談員や支援者も、制度的な制約や労働条件の影響を受ける支援をめぐる「当事者」といえる。
・「女性支援法」制定を後押ししてきたは、全国婦人保護施設連絡協議会や全国婦人相談員連絡協議会をはじめとする直接的な支援を担ってきた施設や婦人相談員、多くの関係者である。同協議会らは、法改正のための要望書を厚労省に提出してきた。
・女性相談支援員(旧婦人相談員)を対象に2022年―2023年に初の本格的な全国実態調査を行った。調査結果によると、相談員は中高年層が主な担い手であり、非常勤職が全体の約8割を占めた。約6割が月収20万円未満であり、会計年度任用職員制度の導入により、待遇が悪化したケースなど、未だ進まない雇用・処遇の問題性を明確にした。
本報告では、「女性支援法」の制定をめぐり、これまでの女性支援を担ってきた人々や施設、制度の歩みをたどり、女性相談支援員の全国実態調査結果を通して、女性支援の現在地が明らかにされた。
コメンテーター・上野千鶴子さん
●3人の報告をうけ、コメンテーターの上野千鶴子さんは、これら当事者主体の女性運動の動きを歴史的に位置づけた。
・90年代フェミニズム最大の成果として、今回報告のDV防止法制定(2001年)が挙げられる。この法は、近代法の原則である公私の分離原則をフェミニズムが壊したという意味で、きわめて大きなパラダイムシフトであった。これがコペルニクス的転換であることを私たちは強く認識し、社会にむけて強調する必要がある。さらに、これをすすめた女性運動活動家や女性法学者、当事者女性たちの存在を明確に刻むことが望まれる。この動きは、1997年の改正均等法(セクハラ防止及び対応を企業責務とする)、さらに2022年の困難女性支援法制定につながっており、女性たちが変革の歴史を積み重ねてきた事実を次世代に繫ぎたい。
・DV防止は行政の責務となったが、限定的な予算のためDV防止相談等にあたる女性職員は経済的自立には程遠い状況におかれている。また相談業務などを担ってきた女性たちの高齢化など、バトンをどのように渡すのか、だれが受け取ってくれるのか、大きな課題が残っている。
・DV被害も性被害、ストーカーも申告が増加しているのは、それらの性暴力に対する社会的許容度が下がってきた証である。だが新たに創られた制度は多くの問題をかかえており、望んだとおりに与えられるわけではないことは、これまでの歴史からも明らかである。そうした現状の中から次のことが見えてくる。
・「権利と制度は天から降ってこない」のであり、求めても異なるものが示されることもある。「未来に向けて、闘いつづけること、使えるものは何でも使う、つながりが力になること」の指摘は、参加者に強く響いた。
90年代、そして現代の当時者を主体とする女姓運動の今回の報告から、その動きを捉えることができた。アンケートには「運動からどのように社会制度の改革につなげるのかの問いにぶつかっていたが、具体的な取り組みを知ることができた」との声も届き、運動を担ってきた人、現在担っている人、これから担う人、に、その実態を知る重要な機会・時間を共有する有効な会となった。
追加情報
『AKK女性シェルター』から「DV防止法」制定へ』の本と映像(DVD)については、下記案内サイトをご覧ください。
https://sites.google.com/view/femikiroku









