2010.01.27 Wed
子どものいる夫婦が離婚をするにあたり、直面する課題の一つに、子どもと非監護親(日本では母親が監護親、父親が非監護親となることが多い)との面会交流があります。子どもにとっては、離婚後も父・母ともに親であることに変わりはなく、離れて暮らすことになる親子が交流を続けること、そして、両方の愛情を思う存分受けることのできる環境を整えることは、とても大事なことです。
ただ、悲しいことに、離婚をした後も、強い緊張状態を続けている対立葛藤の激しい家族が一定の割合で存在します。例えば、DV被害を受けた母子にとって、離婚後も加害者から接触を迫られることは、平穏な生活の脅威となります。DVの態様は様々で、加害者は女性と子どもに対する支配を継続する手段として、面会を利用することがあるからです。 さて、昨今、非監護親と子どもの面会交流をめぐって、当事者団体や学者、法曹関係者の間で活発な論議がなされています。そのような中、昨年10月には、自民党からの提出により、大阪府議会で「離婚後の親子の面会交流に関する法整備と支援を求める意見書」が採択されています。意見書は、概要、以下の3点を国に求めるとしています。
1 単独親権を定める現行法を改正し、離婚後の共同親権制度を導入すること。
2 離婚後も双方の親が子どもへの養育に関わることができるように、面会拒否に対する強制力の付与などの法整備を導入すること。
3 離婚後の親子の交流を保障するための法整備を行うこと。
皆さんは、この意見書の内容をどう受け止められますか。
離婚後の親子の交流を保障するための法整備の必要性は言うまでもありません。離婚と子どもをめぐる法の整備が必要であることも同様です。ただ、このような法整備にあたっては、現実の母と子の置かれている状況とその声が十分に反映されなければ、間違った方向に行くのではないか、そのような危惧を私は抱いています。
その一つが「面会拒否に対して強制力をもって実施させること」を求める議論です。以前、依頼者からこのような声を聴いたことがあります。
「彼は、一度として夜泣きする子の世話をしたことがない。『なぜ、赤ん坊を泣かせるんだ!俺には明日仕事がある』と怒鳴った。病気の子のために休暇を取ったこともない。そんな夫がなぜ、離婚に直面した途端、『子どもは自分の分身、子どもに会わせろ!』なのか、そのギャップが私には理解できない」
親子の関わりは、子どもが生まれたその日から始まります。排泄の世話に始まり、食事をさせ、清潔を保ち、言葉がけをする。気の遠くなるようなケアの積み重ねです。そして、時には憎まれ口をたたかれながらも、子の人格と親の人格をぶつからせ、その絆を育むものだと思います。
そのような子育てに、父親が婚姻中対等の責任を担っていた場合、父と子の交流を母親が嫌う例は少ないように思います。むしろ、子の幸せのために、引き続き関わることを望むのが自然ではないでしょうか。もちろん、監護親の身勝手で非監護親と子の交流が阻害されている例はあります。けれども、母親が非監護親である父親の面会要求に嫌悪感を覚えるのは、「子育てへの参加」ではなく「生活への介入」と感じる何かがそこにある場合が多いように思います。
そして、その原因を探り解決することなしに、「面会拒否に対しては強制力をもって実施させる」といった方法で、問題は解決するのでしょうか。
日本の父親の育児への関わり方は基本的に母親任せ。特に手のかかる分野にはほとんどタッチしていません。男性が育児に及び腰であることは、父親の育児休業取得率が遅々として伸びない現実からも明らかでしょう。
そんな中、なぜ、婚姻中ではなく、離婚後の、養育の権利と責任だけに焦点があてられ、運動が盛り上げられようとしているのか、そのバランスの悪さを感じざるをえません。
初出:「女性共同ニュースレター」Vol.17 2010年1月13日号
(弁護士 女性共同法律事務所)
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