2012.10.18 Thu
【打越さく良の離婚ガイド】NO.2-5(14) 調査官はどういうひと? どんなときにつく? 14
調停で調停委員のほかに,調査官が同席することになりました。調査官ってどんなことをするんですか?
◎ 人間関係諸科学のエキスパート
離婚や面会交流などの家事事件は,法律だけでスパッと割り切れない要素を多く含んでいます。そこで,心理学,教育学などの法学以外の人間関係諸科学の知識・技法を活用して,問題の解決を探っていくことが必要になります。
調査官は,家庭のエキスパートとして,人間関係諸科学の知識と技法と法律知識を活用して,家庭内の紛争の背後にある複雑な人間関係について分析したり調整を試みたります。なお,調査官は,非行問題のエキスパートとして,非行事件のダイナミクスを分析する役目もありますが,この連載は離婚がテーマなのでその点は措いておきます。
◎ 期日出席
調査官は,審判期日や調停期日に出席することがありますが(家事事件手続法258条,59条),これは,当事者を促し,調整して,自主的な解決に導くことが期待されているからです。
◎ 調 査
離婚調停において,どちらが子どもの親権をとるかが争わる場合があります。また,面会交流の調停において,当事者が面会交流をどのように実現するかのイメージが大きく異なっていて,なかなか歩み寄りが難しい場合があります。
どちらも,非監護親・監護親と子どもとの過去・現在の関係や今後の見通し,それぞれの心情,理解なども踏まえたほうが,柔軟な解決に至りやすいものです。ところが,調停で,対立する当事者の言い分を聴いているだけでは,なかなかそれらの事項について,確認することができません。
これらの点について,調査官が当事者に面接調査するなどし,時には助言を行いながら,双方が一応納得できる解決に辿りつけるよう,援助します。具体的には,調査官は,裁判官から,事実の調査命令(家事事件手続法258条,58条)を受けて,子どもの意向を確認したり,現在の監護状況や親権者としての適格性等について調査したりします。 面会交流が争点となっている事件では,合意する前に,家庭裁判所内の児童室で面会交流をしてその交流を観察したりする試行的面会交流を実施することがあります。
これによる結果を話し合いに活かし,本格的な実施につなげていくねらいがあります。そのためには,入念な事前準備,さらには事後の適切な対応が必要不可欠。調査官は「試行的面会交流の援助」の調査命令を受け,当事者双方に個別面接するなどして,準備と調整を進めていきます。当日も立ち会って,面会交流の実現をサポートします。 調査官が調査結果を調査報告書にまとめます。意見を付することもできます(家事事件手続法258条,58条3項・4項)。
当事者たちは,調停の場合,裁判官が相当と認めるときは,調査報告書の閲覧謄写が認められ(家事事件手続法254条6項),審判や訴訟の場合は例外的な場合を除き,原則として閲覧謄写が認められます(家事事件手続法47条3項・4項,人事訴訟法35条2項)。
当事者たちは,調査報告書を踏まえて,どのような合意が適当か,双方検討することになります。審判や訴訟で当事者たちがどうしても合意に達することができない場合,裁判官が調査官の報告と意見を参考にして,判断を下します。 調停時だけでなく,訴訟や審判でも,調査官は同様に調査を行います(人事訴訟法34条,家事事件手続法58条)。
◎ カウンセラーではない
調査官の役目は調査で,カウンセリングではありません。「心理の専門家」ということで,共感的に受容的に聴いてもらえるのでは…と思ったら,かなり突っ込んで確認されて,「一体何?」と驚くこともあるかもしれません。
しかし,カウンセラーではない調査官の役目は,あくまで調査ということを理解し,問題解決のため糸口に資する調査をしてくれているのだ…とわかれば,むやみに抵抗感や拒否的な感情を抱いて消耗することがないでしょう。
◎ 履行勧告
養育費や面会交流等の調停が成立,あるいは審判が下された場合でも,履行されない場合,困ってしまいますね。まずは,裁判所に履行勧告(家事事件手続法289条)の申し出をしてみましょう。
費用はいらず,書記官に電話するだけでもOKですが,書面で伝えると丁寧でしょう。調査官が実際の履行勧告を担当します。具体的には,義務者に対して,書面を送ったり,事情を聴取したりして,履行を促します。
カテゴリー:打越さく良の離婚ガイド
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