エッセイ

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それでも晩ご飯? Ja, das ist mein Abendessen! 和田享子

2013.03.31 Sun

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昔むかし、30年前の私はベルリンに滞在していた。

ドイツでは、お昼にご馳走だった日の晩ご飯には、“kaltes Essen”(冷たい食事)を穫るのが習わし。確かに外食の一人前は半端無い量で、いくら若い私でも、一人では食べきれない。

しかも食後に大きくカットしたケーキにホイップクリームをたっぷり添えていただくのが普通だから、晩ご飯までにお腹が空かないのも道理だ。

晩ご飯を、三食の中で最も手間をかけて作る日本人からすれば、とても不思議な習慣に思えた。 でも、縁あって暮らし始めた土地。毎日が新鮮で刺激的。ドイツ風を試してみない手は無い。

Onkel Toms Hütteのパン屋で買って来た、ひまわりの種や雑穀がたっぷり入った、ずっしりと重い黒パン。薄くスライスして、ハムや数種のチーズを切り分けて挟む。

黒パンといえば堅いもの、と思っていたがとんでもない!! もっちりしていて香りも豊か。へたな白パンよりずっと美味で、しかも栄養豊富。ひまわりの種、松の実、さまざまな雑穀の歯ごたえも楽しめ、噛めばかむほど味わい深い。このパン屋、近所の方から教えていただいた。やっぱり口コミは確実、何度食べても飽きない。

KC3O0033ヴィナーヴルストに始まり、フランクフルターヴルスト、ヴァイスヴルスト(白ソーセージ、さっぱりしていて美味しい)、ベルリン名物カリーヴルスト、ヴラードヴルスト、果てはブルートヴルスト(血のソーセージ)などのソーセージ類、様々なハムや、量り売りの多彩なレバーペーストも、とても新鮮で美味しい。

肉類は変わっても、“kaltes Essen”の食卓に欠かせないのは、この黒パン。日本に帰ってから、いろんなお店の黒パンをためしてみたけれど、堅いか、パサツイているか。あんなにしっとりして風味豊かな黒パンに出会ったことがない。本当にうまかった!

DONER KEBAPも、そう。

トルコ人(らしき人)が販売しているから、日本で試してみたが、あの味には出会えない、と思う。 ご存知の通り、トルコ人も多く住むベルリンでは、本格的なケバップを楽しめた。友人が住む地区へ行くと、2メートル近くもありそうな高さの串に肉を巻き付け、回しながら炙っている。バウムクーヘンの横型だ。屋内の店も、露天もあり、焼けたところから肉を削ぎ落し、小さなグローブほどの大きさのパンに挟んでくれる。キャベツの千切り、トマト、玉ねぎのスライスと野菜もたっぷり。サワークリームが華を添える。

安価なのに、ジューシーでとってもボリュームがある。一人では食べきれないが、変化を求める時には一番だった。

当時のベルリンは、まだ壁に囲まれていた。

到着してすぐに案内された日本食レストランで、マグロ丼を勧められた。誘ってくださった方は、現地に40年近く住む。刺身を出す店は、ベルリン全体で2店のみ。彼にとっては最高のご馳走でも、こちらは閉口した。

今と違って、日本食の素材で手に入る物の品質は、筋金入りの最低ライン。特に緑茶は番茶しか手に入らず、葉が完全に開ききっていて、日本では売り物にはならないだろうと思われる代物。値段はビックリするほど高くて、コストパフォーマンスなんて、別世界のお話。それでも、体が疲れた時など、小さなアジア物産販売店に立ち寄り、のり、お茶、干しうどん、醤油、味噌を手に入れ、インスタントラーメンなども、思わず買ってしまう。

412年しか住めないのだから、ドイツの料理をたくさん味わいたい、と思ってもそんな余裕の無い生活。レストランなんて、行けない。

Reichertという近所のスーパーで豚肉を特別に薄くスライスしてもらい、そのままショウガと醤油で焼く。顔見知りになると、何も言わなくても、おじさんが豚肉をスライスしてくれる。すき焼き風、回鍋肉風、青椒肉絲風と、手に入る可能な限りの調味料を駆使して料理する。そして、出来上がりを限りなく本物に近づけようとしても限界を感じる時、いつもより厚めにスライスしてもらい、Wiener Schnitzel=トンカツを作る。

詰まるところ、高級食材を手に入れる術も余裕も無い私の食事は、現地の食材を使って、ストレートに作るのが一番美味で、リーズナブルだというところに落ち着く。

若くて怖いもの知らずだった時の晩ご飯は、時間を共にした人たちとの思い出とともに、私の記憶の中でほっこりとあたたかく、キラキラ光っている。

カテゴリー:晩ごはん、なあに?

タグ: / 和田享子 / ベルリン