アメリカ・ニュージャージー州オーシャン郡。20年以上、刑事として仕事に打ち込んできた正義感の強いローレル(ジュリアン・ムーア)はある日、ステイシー(エリオット・ペイジ)という、自動車整備士として働く年の離れた若い女性に出会い、恋に落ちる。年齢も、取り巻く環境も異なる二人は、互いをかけがえのないパートナーとして関係を育み、やがて郊外の一軒家を手に入れ、共に暮らし始めた。

そんな幸せもつかの間、ローレルが末期がんを患っていることが分かり、余命半年を宣告される。ローレルは、自分がいなくなったあとにも、二人の思い出の残る家にステイシーが住み続けられるよう、彼女に遺族年金を遺そうと考えた。だが、オーシャン郡の州政府委員(郡政委員)は、同性のパートナー同士であることを理由にその申し出を認めない。二人はそのとき、すでに州で施行されていた「ドメスティック・パートナーシップ制度」に登録していたにも関わらず、財産分与は適用外として申請が却下されたのだ。ローレルは、ステイシーの愛に支えられながら、自らの正義に基づいて平等な権利を訴えるため、残された少ない時間をかけて、郡政委員の決定に対し声をあげることを決意していく―。

この映画は、2007年にアカデミー賞短編ドキュメンタリーを受賞した『Freeheld』をもとに作られた、事実を忠実になぞって作られた作品である。2006年に同性パートナーへの財産分与を承認させた二人の闘いは、その後、2015年に米連邦最高裁判所が、同性婚を含むすべてのアメリカ人の結婚を憲法上の権利として保証するという画期的な判断につながるものであり、感慨深い。

本作の監督は、今後の活躍がいっそう期待されるピーター・ソレット。主演は2015年、『アリスのままで』(2014)でアカデミー賞主演女優賞を受賞したジュリアン・ムーア。パートナーを演じたエリオット・ペイジは、2020年トランスジェンダーであることを公表した。この映画の製作では、プロデューサーとしても力を注いでいる。この二人を支える男性のキャストたちも魅力的だ。そして脚本は『フィラデルフィア』(1993年、映画大手スタジオが初めてホモフォビアとエイズに向き合った草分け的作品と言われる)を書いたロン・ナイスワーナー。なるほど、キャスト、スタッフ陣が心を寄せて作られた作品ならではの温かみと希望がある仕上がりになっている。

出会いのきっかけは、常にわたしたちの目の前に、抗えない力で差し出されるものだ。強く惹かれてしまう誰かも、自分らしく在ることを妨げる社会の壁も、〈出会い〉という点では等しく不条理に、わたしたちの目の前に唐突に現れる。ローレルの選択した愛と闘いは、どちらも、わたしがわたしとして生きるために、どうしてもやり過ごせなかった相手だったのだ。浜辺にひとり座るステイシーの眼差しの中でほほ笑む、ローレルの姿を映すラストシーン。愛も闘いも、自らと真摯に向き合った者だけが得られる、生きていることの手ざわりなのだと思えて涙が溢れた。二人が交わす信頼に満ちた視線に宿る、共に在ることへの意思を、ぜひ、たくさんの人に見てほしい。公式ウエブサイトはこちら。(中村奈津子)

2016年11月26日(土)全国ロードショー

監督:ピーター・ソレット『キミに逢えたら!』
脚本:ロン・ナイスワーナー『フィラデルフィア』
出演:ジュリアン・ムーア『アリスのままで』、エリオット・ペイジ『ジュノ/JUNO』、マイケル・シャノン『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』、スティーヴ・カレル『フォックスキャッチャー』
主題歌:マイリー・サイラス『ハンズ・オブ・ラヴ』(ソニー・ミュージックレーベルズ)
原題:Freeheld /2015/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/103分/日本語字幕翻訳:牧野琴子 配給:松竹
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