© 2016 Secret Films Limited

監督も知らない、役者も知らない。  
ひと足先に試写会で、観て感じたまんまをいけしゃぁしゃぁと映画評。   
筆/さそ りさ 
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始まってしばらくの間、白髪の老婦人のシーンが続く。

リーフレットには、ラブストーリーのような表現がなされていたが、どうもそうではないようだ。
嫌々、そういうことでもなさそうだが。
若い男女のダンスの様子が映し出され、ひとりの若い女性と親しく踊りたいと願う男と神父が彼女に迫る。

若い女性の名は、ローズ。

老婦人は、40年後のローズだった。そう、その彼女は、取り壊しが決まっている聖マキノ精神科病院に居る。
40年前に自分の赤ちゃんを殺したことで精神障害犯罪者として強制的に収容されてしまっていたのだ。

40年前の第二次世界大戦中、北アイルランドの都会から叔母のいる田舎町に疎開したローズ。
垢抜けした彼女の振る舞いは魅力的で、神父さえも虜にした。
挙げ句にローズは、スキャンダラスなもめ事に巻き込まれてしまい、山奥のコテージに隔離されてしまう羽目に。

物語は徐々に深まっていくのだが、その前に、アイルランドの宗教的な背景と女性のおかれていた立場を予め知っておくとこで作品の奥深さを理解できる。
1940年代、宗教的にアイルランドではプロテスタントが少数派ながらも支配者層だった。
ローズは、プロテスタントである。
対して、カトリックは大多数でありながらも被支配層で、登場する神父がそうであることを頭においておくと良い。
また、第二次世界大戦において、イギリス側にはつかず中立の立場であったことも。

山奥に隔離されていたローズは、そこでイギリス軍機の墜落で瀕死の重傷を負ったパイロットを助けコテージに匿す。
やがて、二人は牧師に祝されて結婚したものの、夫は地元の義勇兵として従軍していたため、
アイルランド共和軍から追われ、とりあえず逃げることで二人は離れ離れになってしまう。
ローズのお腹には赤ちゃんがいたのだが、しかし40年後、老いたローズには身寄りがない。
ましてやその赤ちゃんを殺した罪で取り壊し間近の病院から転院を迫られているのである。
気丈に無実を訴える続けるローズ。正気の沙汰ではないと訴えを認めない神父を含めた病院側。
実はローズは、自分の意識を保つために聖書に日記を綴り、無実の意志を貫いていたのである。
物語は、核心に迫る。

作品全体に重さと暗さまでも感じるが、響くピアノ主題曲とベートーベンの『月光』が陰湿さを取り除いてくれる。
そして、最後の最後の一頁に老婦人の顔が赤みを帯びかすかに微笑んだように思える。


この作品には、ローズの貫き通した信念と自立心、それを歪めてしまおうとする圧力を描き出すことで
感動以上の強いメッセージが込められていることに気づかされる。

2018.1.16試写/C

2018年2月3日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、ほか全国ロードショー

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