2010.03.18 Thu
第四回・女性史学賞は、木村朗子(さえこ)さんの『恋する物語のホモセクシュアリティ―宮廷社会と権力』(青土社、2008年)および『乳房はだれのものか―日本中世物語にみる性と権力』(新曜社、2009年)の二作品に決まりました。
その贈呈式と講演会が2010年1月9日(土)、京都キャンパスプラザで行われました。本特集では三回にわけて、講演会の内容をWANの読者の皆さまにお伝えします。レポーターは林葉子です。
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贈呈式では、まず、女性史学賞設立の経緯と選考の様子、および、女性史・ジェンダー史研究の最近の動向についてのお話がありました。
その贈呈式に続いて、受賞者である木村さんの講演と、コメンテーターである上野千鶴子さん、兵藤裕己さん、クリスティーナ・ラフィンさんの講演、さらにそれらの講演をふまえた討論が行われました。
特集の第一回目の今回は、贈呈式での女性史学賞についてのお話と、木村さんの作品の受賞決定理由、および最近の女性史・ジェンダー史の動向についてのお話の内容をお伝えします。(特集第二回目は木村さんの講演、第三回目はコメンテーターの方々の講演と討論の内容についてお伝えする予定です。)
女性史学賞とは(河村貞枝さんのお話)
「この賞は、2005年に、女性史学に関する優れた著書に賞を授け、以て、女性史のより一層の発展を図ろうという意図で、脇田晴子先生の御提唱で創設されまして、今回が第四回目です」
「昨今、日本史、外国史ともに、女性史研究者の数はまちがいなく増加しておりまして、それに比例してその成果も増加しております。その結果、女性史研究の蓄積と進展は、歴史的過去の人々の生き様に従来とは違う観点を与えて、また、より豊かで異なった歴史認識・歴史像を提供しつつあります。
とりわけここ数十年において既成のアカデミズムに真っ向から批判を挑みました女性学のラディカルな挑戦から「ジェンダー」という女性史研究にも有効な分析概念が導入されまして、その結果、女性史・ジェンダー史研究の非常に盛んな状況、活性化が続いております。
でも、そうはいいながら、いまだに社会の各分野で活躍する女性はまだまだ少数であって、昨今の政治や教育の場面ではジェンダーバッシングの動きが広がっています。女性史研究者の数は増加しても、その主たる担い手の女性が研究職に就くことが出来る割合は依然として少なく、極めて困難な状況下で研究を余儀なくされている現実があります。
そのような状況を鑑みて、第一に、歴史学研究において、もっと過去の女性の存在を明確にし、その位置づけをはっきりさせる女性史研究の展開をもって豊かな歴史学研究の進展を図らねばならないということ、第二に、女性の活躍を鼓舞し、女性の置かれた位置を歴史的な変化の中で確かめるべく、女性史研究者(男女を問わず)の育成を図る一助になるようにという抱負をもって、2005年、脇田晴子先生を中心としまして、女性史学賞選定委員会が結成された次第です。
その時から現在まで選定委員は替わっておりません(日本史関係では脇田晴子さん、武田佐知子さん、成田龍一さん、東洋史関係では岸本美緒さん、西洋史関係では河村貞枝さん)。選考委員が少ないと感じられるかもしれませんが、候補作推薦のお願いは、個人および出版社等、膨大な対象者に送付して、幅広く御意見をいただいております。」
これまでの受賞作品
第一回
金富子『植民地期朝鮮の教育とジェンダー―就学・不就学をめぐる権力関係』(世織書房、2005年5月)
第二回
内藤千珠子『帝国と暗殺―ジェンダーからみる近代日本のメディア編成』(新曜社、2005年10月)
山崎明子『近代日本の「手芸」とジェンダー』(世織書房、2005年10月)
第三回
京樂真帆子『平安京都市社会史の研究』(塙書房、2008年3月)
押山美知子『少女マンガジェンダー表象論―“男装の少女”の造形とアイデンティティ』(彩流社、2007年2月)
[b][size=medium]木村朗子さんの受賞決定理由[/size][/b](成田龍一さんのお話)
「女性史学賞の場合は、ここにお集まりの皆さまをはじめとして、広くアンケートを行いまして、候補作を挙げていただく、それからまた委員もそれぞれ候補作を持ち寄って、リストを作って検討するというところから始めております。
今年も、冊子のようになったリストを作りましたけれども、その中に、推薦理由とともに挙げられた書目が今年の場合二十数点ございました。そしてその一点一点について皆で議論をし、候補作を絞り込む。そして絞り込んだ候補作につきましては、それを複数の委員が読み、そして実際にその段階で会合をもって、候補作についてふさわしいかどうか、やりとりをいたします。この前の段階でメールでやりとりをし、実際に会って、会ったあとにメールでやりとりをし、ということを行い、そのひとつながりのプロセスを実際に一年に二回なり三回行って、決定しております。委員が東京と京都に別れて住んでおりますので、東京で会い、京都で会い、そして今年は四年目で少し余裕ができてきたのか、金沢で一泊の合宿をして、選考を決定をするという運びになりました。
候補作に挙がりましたのは、歴史学、社会学、文学研究、美術史研究、評論研究など、今年も例年のように多岐にわたる作品があり、それを四、五点にしぼりこんでいくというプロセスを行いました。例年のことですが、方法・ジャンルが多岐にわたると同時に、時期も、近代、前近代、というかたちで多岐にわたりました。これまでの一回目から三回目までの経験ですと、そのように絞り込んだときに、ジェンダー史研究・女性史研究の中において、たとえば「帝国」ということが主題になったり、あるいは「少女」ということがたくさんの注目を集めて「少女」研究が複数、候補作として挙がってきたり、あるいは占領期についての女性史、ジェンダー研究が出てきた年もありました。あるいは「良妻賢母」をめぐって比較史が話題になったことがありました。これまでの経験でいいますと、そのようにいくつかの焦点があるという傾向があったのですけれども、今回は、候補作をしぼりこんでいくときに、そうした焦点というのは、必ずしも結ばなかった。全体に関心がばらけているという印象がありました。
今年は対象が集中するというよりも、ジェンダーの方法に力点を持つ作品が多かったように思います。実際に候補作として検討いたしましたのは、たとえば宗教に関わる研究がございました。伊勢の斎宮研究ですとか、神職にかかわる女性の役割にかかわる研究。あるいは女工、繊維産業にかかわるような、女性労働者のメインストリームをつくりますような、そうしたものが候補に挙がりました。家族史は、毎年多くの優れた研究が出てきているわけですけれども、たとえば善事褒賞につきまして、今年は注目すべき研究がございました。主婦をめぐる論争をあつかった研究でも見事な研究がございました。ジェンダー史研究の方法と経緯を扱った中でも優れた作品がございまして、そのような多岐に及ぶ候補作を取り上げて議論することになりました。
対象としては、日本に集中していた傾向がございます。委員としては西洋史担当の河村さんや、東洋史関係の岸本さんがいらっしゃって、広く目配りしてもらっているのですけれども、日本の近現代史に多くの作品がございました。ただ、日本以外に居住されている方の日本研究の作品が議論の対象になったということは、これまでとは違う点でした。女性史学賞が対象としているのは日本語で書かれた作品で、翻訳も含めて視野にいれています。アンソロジーも今回、対象として考えました。多様なジャンルにわたって様々な作品を検討し、最終的に選びましたのは、木村朗子さんの二作品です。
『恋する物語のホモセクシュアリティ―宮廷社会と権力』(青土社、2008年)および『乳房はだれのものか―日本中世物語にみる性と権力』(新曜社、2009年)の二作であります。今回の選考の対象作品は、2007年4月縲・009年3月までに刊行された作品ということになっております。」
「木村さんの御本は文学研究という領域に入るだろうと思います。『源氏物語』以降に書かれた物語作品を取り上げて考察するという御本であります。日本の中世、12縲・3世紀を対象とし、文学研究の手法を保ちながら、同時に宮廷社会を考察するというお仕事です。
委員会で検討しましたときに、まず話題になったのは、この刺激的なタイトルです。『恋する物語のホモセクシュアリティ』にせよ『乳房はだれのものか』にせよ、たいへん刺激的であり、目次もなかなか刺激的な目次になっております。問題を啓発するということと同時に、古いタイプの物語研究、古いタイプの日本史研究というところからはビックリするようなタイトルが並んでいる御本ですけれども、委員会の中での検討では、次の五点から、木村さんの本を強く推すという声がありました。
まず第一点目に、この本がセクシュアリティ論として非常に優れた研究をされているということです。ジェンダーとセクシュアリティが異なった概念である、これらをわけて考える、ということが議論されるようになってきたのは、つい最近のことだろうというふうに思いますけれども、木村さんはその提起をうけて、さらにジェンダー論からセクシュアリティ論へという形で整理をされて、セクシュアリティ論をこの本の中で具体的に展開された、というのが、高く評価された点です。
そして第二に、セクシュアリティ論が論じられる場合に、実に様々な見方、接近の仕方があるなかで、木村さんの場合にはそれを権力論として展開している。そうであるがゆえに階層論、すなわちヒエラルヒーの問題、クラスの問題を組み入れて議論をされています。これが二点目。
第三に、セクシュアリティを論じていくときに、ホモセクシュアリティ・ヘテロセクシュアリティ、というかたちで、あらかじめ先見的に分離して区分するということをせずに、実際に木村さんが取り上げられた様々な物語の展開に沿いながら、それぞれのセクシュアリティを分節し、意味づけしていく、その手さばきが見事だ、ということが評価されました。つまり、理論によって裁断するのではなくて、物語に沿いながら具体的にセクシュアリティ論を展開したということです。
そしてその結果、第四に、日本中世の宮廷社会が、どのような性の配置に基づく権力であるのかを解明したということが高く評価されました。この点を補足しますと、これまでの女性史学賞受賞作品の中では、文学研究が多かったのですけれども、それはすべて「近代文学」研究の方でした。それに対して木村さんは、「前近代文学」の研究です。
この「前近代文学」というのは、私はあえてここで大雑把な言い方をしたのですけれども、それはつまり、国民国家ができあがって以降のジェンダーやセクシュアリティの問題については精緻な研究が出てきたのに対して、それ以前については、手つかずに投げ出されている。その、これまで論じられてこなかったところに焦点をあてまして、近代とは異なる中世の権力と性の問題に踏み込んでいき、それを具体的な作品として仕上げていかれた点が高く支持を得たということです。
最後に、木村さんの「性と権力」論というのは、宮廷社会の内部に入り込んでいって、たとえば「乳房はだれのものか」という論文の中では「乳房の欲望」という問題を、乳母を持ち出しながら議論を展開していって、そのことによって中世日本の宮廷社会を分析すると同時に、他の「性と権力」の関係に広がっていくような、示唆を与えるような議論を展開されている。宮廷社会論と同時にセクシュアリティ論として、さらに議論が進められているということが評価されました。
すでに河村さんからお話があったように、女性史学賞の第一回目のときは教育学のジャンルからでした。第二回目は、文学研究と美術史研究、第三回目は文学研究と歴史学研究。そして今回は文学研究ということですけれども、いずれも広い視野にたって、今回の木村さんの場合にはジェンダー理論、セクシュアリティの理論を用いながら、同時に素材としての中世の物語を扱われた作品になっています。」
(第二回目のレポートに続く)
カテゴリー:シリーズ









