エッセイ

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晩ごはん、なあに?(1)貧乏サヴァラン、WAN・パスタ・パーティに参加する あすか

2011.01.01 Sat

2010年12月22日、ライトアップの美しい京都タワーを望む鴨川沿いにあるMさんのお宅で行われた、パスタ・パーティに参加した。「WANメンバー以外もウェルカムみたい。興味があれば、行ってみませんか?」という友人からのメールに、ためらうことなく返信をした。産まれた時から食いしん坊の私である。初めて会う方々に対する緊張がないわけではなかったが、胃袋はより欲望に正直だったのだ。

A-zensai夜7時、朝から準備を整えていた胃で、いざ出陣。笑顔でお迎えくださったMさんと、台所の女神として鍋を振るっていたB-WAN担当・シェフのOさんにご挨拶をしてテーブルに座ると、前菜のカプレーゼとルッコラのバルサミコ酢ドレッシングのサラダ、ドライトマトとハーブのペーストがテーブルの上で私を待っていた。大好物を目の前に、人数がそろうまで箸を納めて待っている時間はこの上なく贅沢だ。一度目の乾杯で、赤ワインと共につまんだ一口は、待った期待を裏切らないものであった。切られたてのモッツァレラチーズがトマトと絡んで、口の中でオリーブオイルが香る。ドライトマトのペーストを切りたてのフランスパンにのせていただくと、程よい塩気とトマトの酸味がたまらない。「今日はパスタが7種類あるから、パンの食べすぎには気をつけてくださいね」と、Oシェフはおっしゃっていましたが、・・・この味を前にして、それは無理な話だろう。

A-jenobeze次第に人が増え、早速パスタの第一陣。ズッキーニとブロッコリーのジュノベーゼ。バジルをちぎるところから作られたというソースは、薫り高くペンネに絡む。じゃがいものホクホク感と、しっかりした歯ごたえのあるズッキーニ、その間をブロッコリーの粒が踊っている。そして、もちもちのペンネ。ジュノベーゼをペンネで食べるのは初めてだったのだけれど、この食感を楽しむには断然ペンネだ。

A-ikasumiジュノベーゼの皿が空くとすぐに第二陣、イカ墨パスタが登場した。普段よく食べるイカ墨パスタとは違い、仄かな酸味が舌に残る。それもそのはずで、ベースのトマトソースを普通のレシピよりも少し多めに使用しているとのこと。イカの身にも味がしっかりとついていて、ムチムチとした食感が楽しい。パスタがなくなった後も、余ったソースをパンにつけて、ぺロリ。先ほどのOシェフのお言葉は、もはや彼方に消え去っている。

A-kaki続く第三弾は牡蠣とまいたけのクリームソースパスタ。クリームソースに牡蠣のだしがしっかりと出ていて、クリームパスタによくあるしつこさが全くない。まいたけの歯ごたえと、牡蠣の身のやわらかさがソースとマッチして、柔らかな味を出している。こちらもソースをパンにつけて最後までおいしく胃に納めた。

A-agenasu食休めとして出された揚げ茄子とトマトのバルサミコソースは、その出番まで冷蔵庫で冷やされていた。ワインとパスタで温まった体においしい冷たさは、ぎゅっと実のしまった茄子と、トマトの酸味を引き立てて、まったりとした口の中を落ち着かせてくれた。

A-Asariパスタ第四陣は、あさりと春菊のボンゴレビアンコ。あっさりとした塩味は、まさにこのタイミングで欲しかった味。シャキシャキとした春菊はアサリを引き立てて、アサリはぷりぷりとおいしく、白ワインと一緒にいくらでもおなかに入る。事実、いくらでもおなかに入った。

A-fishパスタ・パーティと聞いていたのだが、本格派・Oシェフの料理はパスタだけにとどまらなかった。魚料理の登場である。大きなお皿に、更に大きな鱸がドドンとのせられて登場したとき、会場は大きく盛り上がった。ローズマリーの匂いが部屋中に充満する。鱸の香草焼きは、皮はカリカリ、鱸の身はふわふわだ。しかも、ふわふわしているのに、噛み締めるたびにジュワッと味が染み出る。自分の席と、鱸の置かれた中央のテーブルを何度往復しただろう。丸々と太った鱸一尾が、アッという間に骨だけになった。

A-Ikawata続くパスタ第五陣目は、イカワタのパスタ。鱸の香草焼きのローズマリーの香りにも負けないほど、鼻孔をくすぐる甘い香りは、バターだ。まったりとしたイカワタのソースはとろりとおいしく、濃い目の味付けが後を引く。隠し味は卵黄らしく、このレシピはOシェフが東京レストランでレシピをこっそり教えてもらったものだとか。山のようにかけられた小ねぎがその濃い味を打ち消すように口の中を落ち着ける。4本あったはずのフランスパンは既に無く、それでもソースをあきらめられなかった私はスプーンですくって最後まで味を堪能した。

A-watariそして第六弾、渡り蟹のパスタである。皿からはみ出すほど、これでもか、と盛られた蟹は身がぎゅっと詰まっていて、ソースにはふんだんに蟹味噌が入っている。蟹味噌の甘さだけでなく、ぴりりと引き締まる味は、隠し味に使われたアンチョビだ。パスタを堪能し、両手でつかんだ蟹の身をしゃぶる。指先までなめてソースを堪能していたら、肉料理が登場した。

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夜11時。丸々としたローストチキンがオーブンから取り出された。トングとナイフで切り分けていくと、中から次々に肉汁があふれ出てくる。パックリと開かれたチキンの腹から出てきた香草の香りが、再び部屋を包む。切り分けられる過程すらご馳走だ。ナイフの音、香草の香り、手づかみで頂く贅沢さ、パリパリに焼けた皮と、柔らかな肉。五感で食べるとはまさにこのこと。こんなに贅沢なチキンを食べたのは生まれて初めてだった。肉汁を残すのがもったいない、と話をしていたらゆでたポテトが登場。そのポテトに肉汁たっぷりを絡めていただいた。

既に12時を回っていながら、皿に手が伸びるスピードは衰えない。チキンの後に、食休めでイチゴやチーズ、ドライイチジク等をつまみながら、ワインが喉をすべる。暖かい部屋、楽しい会話、おいしいご飯とお酒。ジタバタしたくなるくらいの、幸せ。

A-karubonaraそして、「パーティのシメは、いつもコレなの」と、Oシェフが笑顔で運んできたのは、カルボナーラ。トロリとしたソースはチーズの味がぎゅっと詰まっていて、ベーコンは甘く、薫り高いブラックペッパーが後味を引き締める。濃厚な味は、確かにシメに相応しい。熱々のカルボナーラを堪能して、恥ずかしながら皿までなめた。

パウンドケーキを切り分けながら、食べた料理に思いを馳せる。聞いたところでは、3キロのパスタが消費され、10本以上のワインが開いたらしい。もう、終電の時間はどうでもよかった。午後7時から午前1時半まで6時間に亘っての贅沢。その後、二時間ほどワインを堪能し、会場を後にした。朝の空気はほろ酔いの肌に気持ちよく、深夜のテンションで人気の無い車道を闊歩した。

おいしい食事を更においしくさせる要素は、楽しい会話である。レポートの内容は「食」に始終したが、もちろん会話もすばらしかった。
おいしいご飯と素敵な時間を、ありがとうございました。
ご馳走様でした。

カテゴリー:晩ごはん、なあに?

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