2012.11.03 Sat
このシリーズは、事実婚・非婚・おひとりさま・セクシャルマイノリティといった方々に対し、「法律婚夫婦+子」を基本概念として作られている現状の各種法制度の中から、活用できる制度がないかを提案していくものです。
◆テーマ・その1:遺言書で大切な「者」を守る
第2回 勝手に開けちゃダメ? 遺言書には種類がある!
●遺言書は大きく分けて3種類
前回は「相続だけはどうにもならない!」と題し、「法律婚夫婦+子」といった枠組みの中では生きていない私たちのようなマイノリティにとっては、大切な「者」を守るには「遺言書」がなによりも大事な武器であり防具であることを述べました。
さあ、今回は、その「遺言書」について具体的に見ていきましょう!
「遺言書」というとみなさん、まず何を思い浮かべますか? やはり、封筒に入った自筆の遺言書が見つかって、かたずを飲みながら遺族がそれを開封するといったシーンではないでしょうか?
実は、このシーンには大きな間違いがあります。何でしょうか?
ご存じない方も多いかも知れません。法律上、封のしてある手書きの遺言書は、遺族が勝手に開けてはいけないんです!
自筆の遺言書は「自筆証書遺言」といって、民法第1004条で、家庭裁判所に届けて「検認」という手続きを経て開封しなければならないことになっています。勝手に開けると、5万円以下の過料※となります。そして、この「検認」を受けていない場合、遺言の執行を行なってはいけないことになっているのです。
※過料とは、金銭を徴収する制裁のひとつです。
「検認」については、裁判所のホームページに詳細が掲載されていますので、下記をご参考に。はっきりいって、かなり面倒です! 残された遺族がこの手続きを行うのは、お金も手間も掛かります。
■遺言書の検認(裁判所)
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html
というわけで、封のされた自筆の遺言書を勝手に開けると、後で5万円以下のお金を払わなければいけないことになります。5万円といえばちょっとした大金ですよね。気をつけないといけません。
一方で、この検認の手続きを経ずに、開封していい遺言書もあります。こちらは「公正証書遺言」と呼ばれるものです。
「自筆証書遺言」も「公正証書遺言」も<普通方式>と呼ばれる遺言書になります。このほか、<普通方式>の遺言書には「秘密証書遺言」というものがあります。
そして<普通方式>の遺言書があれば、当然<特別方式>の遺言書もあるわけですが、<特別方式>の遺言は緊急時等に作成されるものですので、この連載では割愛いたします。
このようにいろいろと種類のある遺言書ですが、簡単にまとめると以下となります。
【遺言書の種類】
<普通形式>
1.自筆証書遺言
2.公正証書遺言
3.秘密証書遺言
<特別方式>
(割愛)
それでは、それぞれの遺言書の詳細を見ていきましょう。
●自筆証書遺言 ─ 手軽にいつでもどこでも書ける
恐らく、遺言書といえばこの「自筆証書遺言」を想像なさる方が一番多いと思います。自分で手書きして作成した遺言書です。「え? それ以外の遺言書なんてあるの?」って思う方もいらっしゃるかもしれませんね。そのくらいポピュラーなのがこの遺言書です。
「自筆証書遺言」は、文字通り「自筆で証書にした遺言」です。用紙やペンに決まりはありませんが、「自筆」なのでパソコンやワープロなどで文面を作ってはいません。全文、最初から最後まで、自分で書く必要があります。
いつでもどこでも気軽に作れ、お金もかからないのがこの「自筆証書遺言」なのですが、決まりごとが多くあります。日付を入れて、署名・捺印をきちんとしていないといけません。内容についても、法律に反していたり、あいまいな記述だったりすると遺言書そのものが無効になってしまいます。
また、せっかく有効な自筆証書遺言を作っておいても、紛失してしまったり、後で改ざんされたりする恐れもあります。
そして「自筆証書遺言」は、前述のように、家庭裁判所での「検認」が必要となります。遺言書があるのにすぐに内容を確認できないのでは、遺族も落ち着かずやきもきしてしまいますね。
●公正証書遺言 ─ プロにまかせて安心
「公正証書遺言」は、これも文字の通り、「公正証書」にした「遺言」です。「公正証書」とは、公証役場という官公庁で公証人という方に作ってもらうことにより、私文書を公的なものにした証書のことです。
「自分の遺言書を他人に作ってもらうの?」とびっくりなさるかも知れません。もちろん、公証人が勝手に作るわけではなく、作りたい内容を私たちから丁寧に聞き取って、法律的に有効なきちんとした遺言書を作ってくださいます。ですので、せっかく作った遺言書が法律に合っていなくて無効になってしまうということがありません。
そして、「公正証書遺言」は、原本が公証役場に保管されますので、改ざんの心配もありません。万が一、紛失してしまっても再発行してもらえますし、故人が生前に「公正証書遺言」が作成していたかどうかを全国のどの公証役場でも検索・照会してもらうことができます。
また、公証人という法律のプロが作ったお墨付きの遺言書、かつ、改ざんの恐れがないということで、家庭裁判所での「検認」は不要です。「公正証書遺言」であれば、遺族がすぐに開封し、遺言書の内容を確認することができるのです。
このように至れり尽くせりの「公正証書遺言」ですが、公証役場に支払う手数料(財産の金額や相続人の人数によって異なります)が必要になります。また、証人が2名必要となります。証人を守秘義務のある士業等に依頼する場合は、その費用も必要となります。もちろん、公証人や証人に遺言書の内容が知られてしまうので、内容を秘密にはできません。
●秘密証書遺言 ─ どうしても内容を秘密にしたい
「秘密証書遺言」とは、自分で作成した遺言書に封をし、公証役場に行って、公証人と証人2名にその遺言書の存在を証明してもらうものです。メリットが少ないため、用いられることがほとんどない方式です。
公証役場で手続きをしますが、公証人が遺言書の内容を確認するわけではないので、法律的に有効な遺言書であるかどうかは保証されません。また、「秘密証書遺言」は自分で保管することになりますので、紛失の恐れがあります。家庭裁判所の検認も必要です。
●で、結局、どれがいいの?
以上より、「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」のどちらかで遺言書を作成するのが無難ということになります。「秘密証書遺言」は、どうしても内容を秘密にしたい場合以外、メリットがほとんどありません。
では、「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」か、ですが、手間もヒマも時間もお金も掛かりますが、私たちのような、「法律婚夫婦+子」以外の立場であれば、やはり「公正証書遺言」で遺言書を作成しておくことを強くおすすめします。
実の親きょうだいの間でも争いが起こるのが珍しくないのが相続です。第1回の「相続だけはどうにもならない!」でお話したように、大事な者とあなたの意志を守るための武器・防具である遺言書は、法律的に有効なものでなくては意味がありません。そして、残された大切なパートナーが「遺言書を改ざんした!」などというあらぬ疑いをかけられることも断じて避けなければなりません。おひとりさまの場合も、悪意のある者が遺言書を改ざんしたり破棄したりしてしまうこともありえます。
武器や防具はプロに鍛えてもらうのが一番です。そのためにも、ぜひ遺言書は「公正証書遺言」で作成しましょう。
とはいえ、例えばあなたがレズビアンやゲイで、見ず知らずの公証人にそのことを話して遺言書の相談にのってもらうのは抵抗があるという場合は、公証人との間にワンクッションおいて、セクシャルマイノリティにフレンドリーな行政書士や弁護士等の士業にまずはご相談なさるのもひとつの手だと思います。
行政書士や弁護士に遺言書のご相談をしていただければ、あなたの代わりに公証役場に赴いて公証人と打ち合わせをいたします。最終的に「公正証書遺言」を作成する日には、遺言書を作るご本人に公証役場に行っていただく必要がありますが、それ以外は公証役場に行く必要がありません。
また、公証役場はいわゆるお役所ですので、平日しか開いておりません。お仕事などでなかなか公証役場に行く都合がつかない場合にも、行政書士等の士業がお手伝いできます。
さらに、公正証書は、どこの公証役場で作っても大丈夫です。例えば、あなたが東京に住んでいたとしても大阪の公証役場で「公正証書遺言」を作ることも可能です。少し遠くても、事実婚・未婚・セクシャルマイノリティ等にフレンドリーで実績のある公証役場を見つけておくことも大切かもしれません。もちろん、どの公証役場も偏見や差別はない(はず!)ですが。
以上、今回は、遺言書の種類について見てまいりました。一口に「遺言書」といっても、作成するには決まりごとがあること、大きく3種類があること、そしてお金は掛かるけれどもぜひ「公正証書遺言」で作成しておこうということがポイントになります!
さあ、大切な者を守るために、遺言書を作る心の準備はできましたでしょうか?
心の準備はできた! では必要な「もの」の準備はどうでしょうか?
次回は、「遺言書を作るのに必要もの」をご紹介します。
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【文】
金田行政書士事務所
行政書士 金田 忍(かねだ しのぶ)
http://www.gyosyo.info/
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