第12回WAN基金助成成果報告
波田あい子、内藤和美、亀田温子:「AKK女性シェルター」から「DV防止法」へ―1990年代フェミニズム・当事者主体の女性運動記録.かもがわ出版、2023、A5版144頁、1650円(内税150円)

本書は、1993年に、確認し得た限り日本で初めて、当事者が中心となって暴力被害女性のシェルターを開設・運営し、やがて、全国の民間シェルターのネットワーク化の担い手の一角となって、「DV防止法」の制定過程に働きかけを行っていった「AKK女性シェルター」の活動記録です。

そのシェルター活動は、当事者主導であったほか、回復支援機能を含む“エンパワーメント・シェルター”とも言うべき実践でした。また、シェルター活動からシェルターのネットワーク形成へ、そして法制定過程への関与へという、点から面への活動展開は、エンパワーメント・プロセスそのものと言い得るものでした。

本書は、こうした「AKK女性シェルター」の活動を、1990年代の日本の女性運動の典型的事例と見、「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」の施行を来年に控えたいま、再評価され、継承され、発展的に活かされていくに値する活動として記したものです。

内容はは次の通りです。
Ⅰ章「DV/シェルター」前史―女性に対する暴力への気づき
1 「アルコール問題を考える会(AKK)」に参加した女性たち
2 女性が暴力に気づき社会問題化
3 シェルター設立を目指して
4 1970年代DV離婚問題」として提起される

Ⅱ章 当事者によるシェルター運動―「AKK女性シェルター」の開設と活動
1 開設
2 シェルター運営
3 活動
4 シェルター閉所と活動の展開

Ⅲ章「女性へ暴力・駆け込みシェルター・ネットワーキング」設立から「DV防止法」制定へ
1 日本の女たちのシェルタームーブメント
2 初の大会、さまざまな立ち位置の支援者が全国から集まる-第1回大会「女性への暴力・駆け込みシェルター・ネットワークキング―札幌シンポジウム」1998年
3 DVへの対策を「大会アピール」で決議-第2回大会「全国女性シェルター・シンポジウムinにいがた―ストップ!女性・子どもへの暴力」1999年
4「DV防止法」につながった要望書「女性に対する暴力の根絶を目指して」を決議-第3回「全国女性シェルターネット2000年東京フォーラム〈私の生はわたしのもの〉-女性と子どもに対する暴力の根絶をめざして」2000年 5 サバイバーの声、命を守る法律を-「被害者の人権を守るDV防止法を!-サバイバーは発言する」2000年

Ⅳ章 エンパワーメントで読み解く「AKK女性シェルター」の活動展開
1 エンパワーメントについて
2 「AKK女性シェルター」の活動展開に見るエンパワーメント
3 「AKK女性シェルター」活動過程を書き記す意味
「AKK女性シェルター」関係年表

もとより本書の作成は、WAN「ミニコミ図書館」に「AKK女性シェルターだより」(創刊号~第29号)が収録されたことを契機に発意されました。そして、作成過程で、資料収集と健在関係者へのインタビューの実施のために第12期WAN基金の助成を頂きました。

インタビューの実施により、資料では捉え難い、ことの経緯、文脈、当事者の認識、関係者間の関係等を知り、それを記録に活かすことができました。あらためて、WAN基金のご支援に感謝いたします。