
がんは人生最低のギフト。でも人生は最低なんかじゃない。
NYに住むジャーナリストの著者は、四十代半ばにして皮膚がんで死に直面した時に、免疫療法の臨床試験に参加して奇跡の生還を果たしました。がん体験は、新たな人生観や生活習慣の改善のきっかけをもたらす「キャンサー・ギフト(がんの贈り物)」として、ポジティブに語られることがあります。しかし彼女は「がん患者はみな勇敢にがんと闘い、人々にインスピレーションを与える」といったポジティブなイメージに反発し、むしろ「がんは人生最低のギフト」と言い放つ主治医に賛同します。
仕事と子育てに多忙な日常で、ある日突然の「がん宣告」。幼い娘にどう伝えるか。がんをカミング・アウトした途端に去っていった友人や、他者に理解してもらえない孤独。一方で、惜しみなく愛を与えてくれる人達もいる。自分の治療は成功しても、別のがんに罹った親友は死を迎える。自分だけ生きのびた罪悪感。なぜ私なのか。なぜ私じゃないのか。
本書は著者が、自らや家族、友人、医療者の人間模様を観察し、時に残酷な、それでいてユーモラスで愛に溢れたがん体験を描いたノンフィクションです。訳者の私自身も米国在住の卵巣がんサバイバー。数年前に本書と出会い、ここに書かれたがん患者のリアルと生と死に対する著者の洞察に深く共感し、どうしても日本の方々に紹介したいと思ったのです。
著者の命を救った免疫療法薬の一つは、日本が誇る本庶佑氏の発見から生まれたニボルマブ(商品名オプジーボ)です。近年のがん治療を劇的に変えた「免疫療法」確立の過程を、著者の治験体験を通して知ることもできます。
重いテーマでありながら、タフで明るくちょっとシニカルなニューヨーカーの生活や、日本社会ではまだ「非日常」な米国の「ごく普通」が見えてくるのも本書の魅力です。例えば医療や医学研究の場でも、責任ある立場で多数の女性が活躍します。患者は医療者にはっきりと自分の希望を伝え、治療は医師と相談の上で、患者が決めます。がんになっても、働いたり、旅行したりの日常生活を続けます。家事や子育て、妻のがん治療でも、夫も積極的に行動して家族を支えます。著者の親友には、娘を持つ女性同士のカップルがいます。
がんは人生最低のギフトだと私も思います。けれど周囲の愛に支えられて生きる人生は、決して最低なんかじゃない。そう感じるために、ぜひ本書を手に取ってみてください。
◆書誌データ
書名 :『ファック・キャンサー 愛と科学と免疫療法でがんに立ち向かう』
著者 :メリー・エリザベス・ウィリアムズ、片瀬ケイ(翻訳)、中村泰大(医療監修)
頁数 :336頁
刊行日:2024/2/29
出版社:筑摩書房
定価 :2,530円(税込)
筑摩書房サイト https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480860958/
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