エッセイ

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上野千鶴子 配達されない手紙

2012.07.29 Sun

和子さん、

そう呼んでも、あなたはもう応えないのね。

あなたのしごとについてはたくさんの人が書いてくれるだろうから、わたしは他のひとのあまり知らない、あなたの生活者としての面について話しましょう。

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そしてそれにどんなに舌を巻いたかも。

山の家がお互いに近かったせいもあって、わたしたち、休み毎に往き来したわね。

時にはわたしが手料理を、また時にはあなたが腕をふるってご馳走してくれました。

いろんなひとが完璧主義と呼ぶあなたの凝り性は、お料理にも発揮されて、行くたびに懐石かと思うようなお料理が出てきました。

だからお招きを受けて出かけるのが楽しみでした。

今となってはあなたの手料理を食べる幸運にあずかることのできた限られた人たちのひとりだったことが、ほんとにうれしい。

びっくりしたことのひとつは、あなたがメカに強いこと。わたしが自分のクルマをあなたの山荘の前の排水溝に派手に脱輪したときのこと。

管理所のおニイさんが来てくれてこともなげにひきあげてくれたあと、なにげなく言ったあなたのことばに驚きました・・「アラインメントもチェックしてもらったほうがいいわよ」

クルマのメカについては何も知らず、アラインメントという用語すら初めて聞いたのに、それが何を指しているかはわたしにもわかりました。

そんなことを考えつきもせず、専門用語も知らなかったわたしに対して、何気なくくれたアドバイス。

まるでクルマの調整さえ自分でやってしまいかねないような口ぶりでした。PCだって自在に使いこなしていました。

あとで理科系の出身だと知ったのだけれど、このひとは何をやらせてもスーパーな人なんだ、と感心したのを思い出します。

闘病の半ば、小康状態だったころ。

いまこそ、やりたいしごとがある、こんなに苦しんだからこそ、わたしにしか書けないものがある…とメイルが届きました。

誰も見たことのないどんな景色を見せてくれるのだろう、とわくわくしました。

…それを遺さずに逝ってしまったあなた。

もう少し元気でいて、書いてほしかった。

いったい何を見せてくれたんだろうか、ほんとうに読みたかった…残念です。

カテゴリー:竹村和子さんへの想い / シリーズ

タグ:フェミニズム / 竹村和子 / 上野千鶴子 / 追悼

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