3月15日大谷恭子さんお別れ会祭壇・上野千鶴子撮影

 2025年3月15日日本弁護士会館で開催された弁護士、故大谷恭子さん(1950−2024)の「お別れ会」に参加して仰天した。
 会場に入ったとたん、大きなスクリーンに映し出された大谷さんの笑顔の周囲を真っ赤な花が取り囲み、参列者の献花も赤の薔薇やカーネーションやスイートピーだったからだ。案内状には「にぎやかなことの好きな大谷さんに合わせて、平服でお越しください」とあった。事実、会場には華やかな和服姿の女性や、ラフな恰好の男性など、いろとりどりの服装、そして法曹界から市民運動家、ジャーナリスト、編集者、合唱団の仲間など、大谷さんのこれまでの活動の幅広さを物語る多彩なひとびとが500人近くも集まった。
 こんな「お別れ会」見たことない...それが第一印象だった。そして二番目に大谷さんらしいなあ、と思い、三番目にこんな「お別れ会」を組織してこれだけの人々が参加するほど、大谷さんが愛され、信頼されていたのだなあ、と感じた。
 なぜだかわたしが追悼スピーチの最初のひとりに指名された。そのときのスピーチをもとに以下の追悼文を書いた。大谷さんの死を悼み、感謝を捧げたい。

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 法曹界の人間でもないわたしが、この場にいることを不審に思う方もいらっしゃるかもしれません。わたしは大谷さんの晩年の10年ほどをご一緒いたしました。2016年に設立された「若草プロジェクト」に、村木厚子さんらと共に呼びかけ人として参加しました。
 わたしが関わっております認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)のWAN基金からも助成金を出しました。
 大谷さんと知り合って仰天したことがあります。彼女が連合赤軍事件の永田洋子の弁護をしていたことは知っていましたが、弁護士の大谷さんが永田の弁護を引き受けたのではなく、永田の弁護をするために弁護士になったと知ったからです、順番は逆ではありません。他にも、日本赤軍の重信房子さんの弁護をするなど、活動家の弁護を積極的に引き受けてきました。
 弁護士としての大谷さんの業績はあまたあります。
 連続射殺事件の永山則夫裁判に関わり、死刑廃止論者として活動しました。永山の印税収入をもとに設立された永山則夫子ども基金の代表となり、基金の運用に関わりました。アイヌ肖像権裁判に関わり、先住民の権利を主張しました。脳性麻痺の小学生、金井康治の教育権保障にとりくみ、インクルーシブ教育を主張しました。大谷さんの遺著となった『分離はやっぱり差別だよ。:人権としてのインクルーシブ教育』(現代書館、2025年)に、わたしは帯の推薦文を書いています。ご紹介しましょう。

「『闘う弁護士』ということばが、大谷さんほど似合う女性はいない。
インクルーシブ教育だって、闘って得られるものだ。
手をゆるめてはならない...
それがあの世からわたしたちへのメッセージだ。」

 事実、この本の袖裏にある大谷さんのプロフィールには、最後にこんな彼女からのメッセージが記されています。

「何とかインクル推進してね。日本を変えるのはこの力だと思っているんだよ。お願いだから。みんなに託したんだよ。頑張ってね。」

 あの世から大谷さんの声が聞こえてくるようです。国連も日本の「特別養護学校・学級」のような分離教育は差別だから廃止せよと勧告しています。いまだ道遠しと言わざるをえません。
「頑張れ」と言いたくも言われたくもないわたしにしてからが、頑張ってきた大谷さんから「頑張ってね」と言われると、頑張らなくちゃと思えます。この会場にいらっしゃる多くの方も、大谷さんから後を託されたとお感じになることでしょう。

 大谷さんには、やりのこした仕事があります。
 若草プロジェクトは、大谷さん自身に言わせれば「身の丈を超えた無謀な事業」でした。児童養護施設を出た後行き場のない18歳以上の少女や、性虐待や教育虐待を受けて家にいられない少女たちを迎え入れるシェルター事業は、現場で少女たちのふるまいに翻弄されました。相手はなまものです。福祉は風俗に勝てない、と言われるこの社会で、繁華街を歩けば「キミ、いくら?」と男から声をかけられる少女たちが、「売れるものを売って何が悪い」と開き直るのを、現場のオトナたちは説得できずにいました。
「自己決定・自己責任」のネオリベラリズムの社会では、性の自己決定を性売買の自由に逆用する理論も登場します。フェミニストのあいだでは「セックスワーク・イズ・ワーク」論がセックスワーカーによりそうリベラルな態度として支持を集めています。「性労働は労働だ(したがって合法化せよ)」という議論です。この流れになんとか歯止めをかけたい、というのが大谷さんの悲願でした。浅倉むつ子さん、上野と3人で「セックスワーク論批判」の共著を出そうというプロジェクトが未完のまま、大谷さんは逝ってしまいました。その成果の一部は本日の配布資料のなかに遺稿となった「買春の可罰化に向けて---イマドキオンナノコの風俗事情」として『ジェンダー法研究』第11号(浅倉むつ子・二宮周平・三成美保責任編集、信山社、2024年12月)に掲載されています。宿題をいただいた思いです。
 福島みずほさんが『グレートウーマンに会いに行く』(現代書館、2024年)の中で大谷さんをインタビューし、「みずほチャンネル」でYouTubeに動画も上がっています。
 そのなかでいつでも大谷さんに会うことができます。みずほさん、大谷さんのインタビューを残してくださってありがとう。
 ここにご参集のみなさまはそれぞれ大谷さんの多様な活動を受け継ぎ、宿題を背負った方たちだと思います。みなさま方と共に大谷さんの遺志を受け継ぎ、がんばっていきましょう。

 *以下の書籍はWAN「女の本屋」にも紹介があります
  『分離はやっぱり差別だよ。』https://wan.or.jp/article/show/11706
  『グレートウーマンに会いに行く』https://wan.or.jp/article/show/11524