記:白崎朝子 介護福祉士・ライター
■不当な弾圧を受け続ける介護職員たち
「金の卵」と言われ、戦後日本の高度経済成長を下支えしてきた労働者の寄せ場、大阪市の釜ヶ崎。その釜ヶ崎の簡易宿泊所で暮らす生活保護受給者や、西成区内の高齢・障害者をひたむきに支援している介護職員たちがいる。彼女たちが支援しているほとんどが生活困窮者だ。彼女たちは社会医療法人山紀会が経営する、“やまき介護すてーしょん”(以下、すてーしょん)で働く職員を中心に、2013年に「ケアワーカーズユニオン山紀会支部」を結成した。それまでは、労働運動や社会運動とは無縁だった女性たちが組合員の多くを占めている。
しかし結成以来、12年の長きに渡り、「ここまでされるのか!!」という程の弾圧を法人から受けている。コロナ禍では医療用マスクも防護服も支給されず、私は全国規模のメーリングリストや友人に呼びかけてカンパを募り、医療用マスクを送り、山谷の支援者に依頼してゴミ袋で作った防護服を送って貰った。このサイトでも何度も要請してきたが、現在、すてーしょんの女性職員で運営する訪問介護事業が閉鎖通告を受けている。山紀会支部は大阪府労働委員会への救済申立てを10件以上し、多くが不当労働行為として認定されているが、山紀会は救済命令がでても態度を改めない。
2024年、法人は訪問介護の管理者・中尾さおり支部長に対し、急な異動案を提示した。さらに訪問介護事業の閉鎖通告までしてきた。山紀会支部は再び労働委員会に救済申立を行い、法人に閉鎖・異動問題を事前協議すること、経営改善会議の開催、労使の努力で問題解決することを求めた。だが法人は今年2月、全国からの100通以上に及ぶ抗議FAXを完全に無視し、2月21日、「5月末に訪問介護事業を閉鎖する」との最終通告してきている。
■優遇されている社会医療法人にもかかわらず・・・
そもそも社会医療法人とは地域医療の支援機関として、公益性の高い医療を提供する役割を担うため、税法上など様々な優遇措置を受けている。だが法人は組合との事前協議約款を守らず閉鎖を強行しようとしている。山紀会支部は、保健所などの関係機関に、「社会医療法人としての公共性があるのに不当労働行為が続いている。地域のインフラである訪問介護事業を潰してもいいのか」と申し入れた。だが、「医療法に関わる違反行為でないと、指導はできない」との返事があるのみだった。ありとあらゆる対策を講じてきたが、そもそもが労働者側をしっかりと守るシステムがないのだ。
法人内にはケアマネジャーもいるが、すてーしょんの訪問介護やデイサービスには利用者を紹介せず、すでに同じすてーしょん内にあるグループホーム2フロアのうち、1フロアが閉鎖された。高齢化率の高い西成地域に利用者がいないわけはなく、とくに訪問介護はヘルパーが足りないのは自明の理。わざと利用者を紹介せず、すてーしょんの事業を赤字に追い込み、それを理由にして閉鎖に追い込みたいのでは・・・と推察される。また法人全体では黒字だというのだから、社会医療法人ならば、訪問介護を潰すべきではない。
この理不尽な仕打ちに疑念をもった私は、赤字の特別養護老人ホームを抱えているという東京都内の社会福祉法人の常務理事に取材した。だが、「他の事業が黒字なので、特別養護老人ホームを潰す予定は全くない」との返答をいただいた。その社会福祉法人にも労働組合はあるが、山紀会とは違い組合員が不当な弾圧をされているという話は聞かない。常務理事が知り合いとはいえ、お世辞にも素晴らしい社会福祉法人とは言えないし、友人知人がたくさん働いているので、職員たちの不満もよく耳にする。それでも理事たちは山紀会のような弾圧はしないし、団体交渉にも応じている。
■利用者とともにした法人への抗議アクション・・・そして関東での連帯集会へ
昨年10月、山紀会支部はすてーしょんの利用者や全国から駆けつけた仲間とともに、集会やデモを行い法人に対する抗議の声をぶつけた。認知症や要介護の利用者までもが職員とともに抗議する例などはほとんどなく、東京から駆けつけられなかった私は利用者の想いに胸が熱くなった。そんな彼女たちに連帯しようと20〜30代の障害者ヘルパーたちが中心となり、3月15日に大阪から当該を迎えての連帯集会を企画、開催した。短い情宣期間にもかかわらず参加者は約60人。熱気と笑いに満ちた集会だった。現在、裁判や労働委員会で係争中の介護職員たちからの連帯発言も多数あった。
また介護労働問題の集会に初めて参加したという重度の障害がある女性は、「働いてもらえる状況をつくればヘルパーを確保できると思って行政交渉を頑張ってきました。でも労働に見あう賃金でないため現実は厳しくヘルパーがなかなか定着しない。特に女性ヘルパーが少ない。自分に何ができるかわからないが一人でも多くの人とつながりたい」と発言した。言語障害のある男性障害者も必死に発言してくれた。また実行委員のヘルパーたちが働く事業所の理事である車椅子ユーザーの女性が私と一緒に受付を担ってくれた。3人の車椅子ユーザーの存在が、インクルーシブな集会の在り方を示した。
予定があり参加できなかった女性たちからも、メールでたくさんのメッセージが寄せられた。色とりどりのマジックで書かれた連帯メッセージで埋めつくされた四つ葉のクローバーをもったトトロが描かれた寄せ書きバナーは大好評。最後にバナーを当該に贈呈し、記念撮影した。懇親会には、集会参加者の約半数の27人もが参加。山紀会支部だけではなく、使用者側から理不尽な弾圧を受けている介護職員たち同士で、エンパワーメントしあうエネルギーに満ちあふれた時間となった。
■仲間たちの応援を力に変えて・・・
現在、弾圧の渦中にある中尾さんは、「訪問介護閉鎖という職場ごと潰されることに辛い気持ちでいっぱいです。ともに長年働いてきた仲間、大切に守らなければならない利用者さんの尊厳を無視した法人に怒りの気持ちも抑えることができません。でも参加者の皆様のとても温かい心に気持ちが和らぐと同時に、『負けない』という強い気持ちも沸き起こりました。まだまだ闘いは続きますが、私たちを応援してくれる仲間とともに、精一杯やれることを頑張りたいと思います。本当にみなさまに感謝しています」と気持ちを語った。志賀直輝さん(すてーしょん内デイサービス管理者)は、「たくさんの人たちが支えてくれていること、本当に元気を貰いました。利用者さんと職員の立場を超えて団結していきたいと思います!!」と笑顔を見せた。
東京と大阪でこの10年以上、4〜5回程しか会っていない中尾さんと志賀さん。だが物理的な距離を越えたかけがえのない友人たちだ。何よりも生活困窮者を必死に支えてきた彼女たちの存在そのものが、生き難さを抱えた人たちの命綱なのだ。そして社会運動からも周縁化されてきた介護労働と女性労働、そして階層問題などが、彼女たちの闘いの背景には深く横たわっている。西成区は団塊世代間が75歳を超える2025年問題を先取りし、今は高齢化のピークは過ぎ人口減少しているという。
日本の社会保障や構造的な問題が凝縮した地で、利用者とともに懸命に生きているやまき介護すてーしょんの介護職員たち。彼女たちが経験し苦闘してきたことは私たちの近未来といえる。私たちはその存在から多くを学んでいく必要があるのではないだろうか・・・。
★引き続き、山紀会に抗議をお願い致します。詳細は「ケアワーカーズユニオン山紀会を支える会」のブログを参照ください。抗議FAXやオンライン署名などにご支援ください!!
https://hiroba.matrix.jp/yamaki/
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https://wan.or.jp/article/show/11769