
この分野でフェミニズムの議論をすることは正直とても難しいと感じる。「音楽にジェンダーはあるのか論争」に、みんなが真摯に体験談や円グラフで回答する。それはどちらかを選ぶしかないのだろうか?
ジュディス・バトラーを読んで、「音楽にジェンダーはあるのか」とかいうきわめてくだらない問いに答えるのは、もうやめたいと思った。そんな問いが出てくること、その構造自体に目を向けたい。
だって考えてみれば、なぜそれにわたしたちが答えなくてはならないのだろうか?(あるいは、そんなことを考えなくても済むのは誰だろうか?)
——「プロローグ」より
■マガジンについて■
「個人的なことは政治的なこと the personal is the political」は第二波フェミニズムにおける有名なスローガンです。女性の私的領域のことが「個々人のもの」として共有されることなく隠されてきたこと、「政治に値しない」ものとして扱われてきたこと、すなわち「公私の線引き」の恣意性が問われました。
こと西洋芸術音楽は、公私の線引きをする意識が強く、そうした境界を滲ませることが難しい表現領域・業界であるとも言えます。「私の音楽と私が女性であることは関係ない/ある」という永遠に終わらない議論から抜け出して、「そもそもそうした言説を私たちが発しなければならないのはなぜか」から問い直し、連帯すること。
jwcm(女性作曲家会議)マガジンvol.2となる今号では、そのキーとして「公私領域」を据え、さまざまな視点から考察しました。(2025年4月出版、日英併記)
◆書誌データ
書名 :This is (not) my lullaby
著者 :平野みなの、森下周子、渡辺裕紀子、渡辺愛、長田ポンシリ・アリサ
頁数 :184頁
刊行日:2025/04/20
出版社:女性作曲家会議
定価 :2,200円(税込)
購入先リンク:https://jwcm.site/this-is-not-my-lullaby
*本誌は、東京藝大「 I LOVE YOU」プロジェクト (〈みずほ〉×キュレーション教育研究センターによる 「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト)の助成を受けて刊行されました。
*女性作曲家会議・・・
「現代音楽家と社会」をテーマにしたリサーチコレクティブ。渡辺裕紀子の呼びかけにより8名の現代作曲家が参加した2018年8月開催のシンポジウム『中堅女性作曲家サミット(PPP Project主催)』をきっかけに、 2019年6月に正式に発足した。
オランダ、インドネシア、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ等国外での在住体験を踏まえ、 「ジェンダー」「フリーランス」「国籍やエスニシティ」「キャリアと結婚」など女性作曲家を取り巻く環境について議論や調査を重ねる。