メキシコでは、毎年9月16日の独立記念日の前夜に、ときの大統領が1810年のメキシコ独立に貢献した「英雄」を称え、その名を叫び、「Viva Mexico!(メキシコ万歳!)」で締めくくる「グリート(叫び)」のセレモニーがおこなわれます。このセレモニーはメキシコの年中行事のなかでも最も重要なものとなっています。

2024年10月、メキシコ史上はじめて女性の大統領が誕生しました。今回、そのクラウディア・シェインバウム大統領にとってはじめての「グリート」セレモニーとなり、彼女のジェンダー平等の理念が色濃く反映されたものとなっていました。

セレモニー開始時には、国立宮殿内の最高権力を象徴する場で、女性のみで構成された6名の儀仗兵から大統領に国旗が手渡されました。大統領がフェミニズムを象徴する紫色の衣装を着用し、称える対象は「歴史上の」英雄だけでなく、「無名の」女性英雄たち、現在を生きる先住民女性たち、そして移民女性・男性にも捧げられました。さらに、これまで歴史上通用している夫の姓で呼ばれていた女性英雄が、結婚前の旧姓で呼ばれました。

これまで存在しなかったものにされ、虐げられ、不当な扱いを受けてきた人々、特に女性や移民の尊厳の回復を前面に打ち出したグリート(叫び)でした。次のリンクから視聴できます。(字幕設定を日本語にするとおおよその訳をみることができます)

https://www.youtube.com/watch?v=hn6NqiBt8sM

今回のグリート(叫び)がこれまでとは異なるものとなることは予想していましたが、ここまで徹底してフェミニズムを強調し、「無名(にされてきた)」女性や先住民女性そして移民を具体的に挙げ称えていたのは想像以上でした。

そしてなにより、この「場」をみた子どもたちは、女性も大統領になれること、女性も活躍できること、そして女であるだけで将来の可能性を制限されることはないということを意識づけられていくのだろうと、そんな希望を持ちました。

わたしがメキシコに住んでいたのは20年以上前で、保守政権で男性大統領の時代でした。農村女性の地位の低さや劣悪な生活状況、フェミサイドといった問題はその当時から改善されたとは必ずしも言えませんが、それでも、政治/家が変わればここまで変わるものなのか、市民*そして政治家の意志があれば変えることができるのだと感服させられた一夜でした。

そして、選択的夫婦別姓の法制化が進まず、政治家から移民排斥の言動がなされている日本は、まるで歴史を逆方向に進んでいるような、そんなことを感じさせられました。

* 参考:「シェインバウム大統領支持率、2カ月連続で70%超」JETROのウェブサイト記事(2025年6月20日)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/06/79e37f00d3c66958.html#:~:text=2024%E5%B9%B410%E6%9C%88%E3%81%AE,%E6%94%AF%E6%8C%81%E3%82%92%E5%BE%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82

追記 1:「女性兵士」の是非については、ここでは脇に置いておきます。また便宜上、スペイン語の「Viva」を「万歳」、「heroes(ヒーロー)」「heroinas(ヒロイン)」を「英雄」と訳しました。

追記 2:伊藤滋子著『女たちのラテンアメリカ(上下巻)』(2021年、五木書房新社)で、メキシコの独立にかかわった女性について知ることができます。