
上野千鶴子さんは、私を何度も変えてくれた。一度目は、上野さんの著書『女の子はどう生きるか 教えて、上野先生!』(岩波ジュニア新書)や『女ぎらい』(朝日文庫)を読んだときに。二度目は、オンラインで対話をさせてもらった時に。そして三度目は、本書を制作した時に。
物心ついた頃から希死念慮を抱えていた私は、「生まれてこなければよかった」という思いと共に成長した。何不自由なく育てていると認識していた両親には、そんな思いを打ち明けたり、反抗したりはできるはずもなく、彼らを喜ばすために必死に勉強しながら、裏では身体や女性性を売って10代を過ごした。
そうした日々に疲れきって、男性全般にも失望しきって、かといってまともに働ける気もせず、早くに結婚して3人の子を出産して育てた。その結婚生活で、より疲れきったり失望したりすることになるとは想像もせずに。
自分がしてきたことは、フェミニズムから最も嫌われることだという自覚があった私は、フェミニズムを恐れていたし、敬遠していた。そんな私が上野さんの本を手にとったのは、結婚生活であまりにも悲しみや苦しみが積もったからだった。
上野さんの著書は、「でもこれは私が選んだ道だし……」と「自己責任」の名の下で自分を責めて、嫌なこと全てを飲み込むしかなかった私に、そうではない考え方を授けてくれた。「全部私が悪い、ではないのかもしれない」と思えた時には、涙が止まらなくて、そこではじめて「夫に嫌なことは嫌だって言っていいのかもしれない」と思えるようになった。結婚生活18年間のうちの、14年目くらいの出来事だ。
そこからの私は、夫に適切に怒れるようになった。それまでは、私が何か言うと、ものすごい剣幕で倍返しされるので黙るしかなかったのが、適切に闘うための理論と武器を上野さんの著書から学び、伝えられるようになった。
そんな恩人である上野さんに、対話を申し込んだ。本書には、そこで語り合った内容がまとめられている。
気づきや変化は一人で起こすのは難しい。アダルトチルドレン、希死念慮界隈の私が一人で変化しようとしても、どうしてもネガティブなほうに寄っていってしまう。
上野さんの著書、オンラインでの対話、本書の制作を通しての変化は、どれもポジティブなもので、私ははじめて私を好きになれた。夫との関係も良好になったし、夫のことも以前より好きになった。
自責の念と自己嫌悪、希死念慮にまみれていた人間にとって、「自分を好きになれる」「自分を許せるようになる」「自信を持てる」ということ以上の達成はないのではないかと思う。
上野さんとの対話はそれをもたらしてくれた。本書からは、どのようにそれが起きたのかが伝わってくるのではないかと思う。ここで語り合っていることは私固有の問題でありながらも、「家族」という普遍に通じてもいる。「家族」で苦労した経験があり、自責の念や自己嫌悪、希死念慮を抱えてきた女性たちには「通じる何か」を感じとってもらえるかもしれない。
ドブに捨てたい過去やあれこれを背負っていたとしても、今も苦しみ続けているとしても、「私は私」とシャンとして歩み続けられる言葉や態度、考え方もあるのだと伝わるといいなと願っています。
◆本書の目次
はじめに 森田さち
1章 母の期待を勝手に背負って死にたくなる
2章 夜の仕事で「男のくだらなさ」を学び、生きなおすために子どもを望んだ
3章 エリート夫に命がけでキレた日から、人生が少しずつ前向きになった
4章 交通事故に遭って気づいた「ひとりで子育てしなくていい」
5章 今を生きる女の子たちへ 一緒に闘おう
おわりに 上野千鶴子
◆書誌データ
書名 :上野さん、主婦の私の当事者研究につきあってください
著者 :上野千鶴子、森田さち
頁数 :240ページ
刊行日:2025年11月
出版社:晶文社
定価 :1870円(税込)
慰安婦
貧困・福祉
DV・性暴力・ハラスメント
非婚・結婚・離婚
セクシュアリティ
くらし・生活
身体・健康
リプロ・ヘルス
脱原発
女性政策
憲法・平和
高齢社会
子育て・教育
性表現
LGBT
最終講義
博士論文
研究助成・公募
アート情報
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