
山が好きで、どこでもいいから登りたい人間ですが、さすがに高い山はきつくなってきました。この1月、歩けるうちにと、思い切ってNZのミルフォード・トラックを歩いてきました。
さすがに、世界でいちばん美しいハイキングコースと言われるだけあって、よく整備され、よく仕立てられていて、日本の山との違いをまざまざと感じさせられました。
このコースで歩く日程は4日間ですが、初日は足慣らしで1時間半ぐらいロッジの近くを歩くだけ、中身のハイキングコースは全長33.5マイル(54km)で、これを3日間で歩き通します。1日にこのコースに入れるのは、ガイド付きの50人のグループと、個人で歩く40人と計90人だけです。しかも、シーズンが初夏から秋にかけてと短いので、かなり前から予約が必要です。
ガイド付きの方は5人の若いガイドさんが、お湯などの入った大きなリュックをしょって、前になり後ろになって、50人を励ましながら歩いてくれます。個人で行く人は、費用は安いですが、食事など全部自分で作ったり、その材料をしょったりしなければならないので、荷物がとても重くなります。
さて、今回の4日間の報告です。
初日、ロッジに着いたころから雨が降り始め、その夜はロッジの屋根を叩く激しい雨の音で夜中に目が覚めるほどでした。近くを流れている川が氾濫するのではないかと恐れるほどの大雨で、あすの行程が不安でした。雨が多い所とは聞いていましたが、何とか晴れてほしいと祈りながらやってきた矢先でした。
2日目、前夜からの雨は少し小降りになってはいましたが、晴れそうな気配はありません。8時半出発の予定で雨具をつけてそろそろ出るのかと思っていると、30分遅らすと、その日のガイドのリーダーが言ってきました。しょった荷物を置いて、輪投げのようなゲームをガイドさんが始めるので所在なく見ていました。30分近く経ってさあ出かけるぞと活を入れていると、また30分延期とのこと。後で知ったのですが、道路の冠水状況をnetで調べながら判断していたのでした。結局9時半に出発です。足の速い人たちは、どんどん先に行きますが、参加者の脚具合もさまざまで、いくつかのグループが出来ていきます。支流や本流やいくつもの川を見ながら、また、吊り橋や木の橋を何度も渡りながら進みます。湿地のようなところは木道も設けられています。雨の中、木道を歩きながらまず感心したのは、木道や橋の板の表面に張られた金網です。日本の木道は木だけです。だから雨が降ったり、湿っていると滑り易くなります。ストックをつきながら用心して歩くので、自然と歩みが遅くなります。ところが、ここの木道や木造の橋は、必ず金網が張ってあるのです。滑るのを心配して恐る恐る歩く必要はありません、普通の速さで歩けます。
1時間も歩いたころから、道路が川のように水に浸かっているところが出てきました。初めは水をよけて端を歩いたり、水から出ている石を探したりして靴が濡れないように歩いていたのですが、そのうち、道路一面水浸しの所が現れてきました。もう避けるどころではありません。水深10㎝ほどの、川になった道を思い切ってびしゃびしゃと歩くしかありません。もちろん靴の中も水浸しです。水が浅くなってほっとして少し歩くと、また川になった道です。これをくり返しているうちに、冠水が10㎝どころではなくなってきて、膝までつかり、ついには腿のあたりまで水浸しです。ショートパンツの若いガイドさんたちは長い脚でずんずん水の中を歩いて行きます。おいて行かれたら大変と必死でついていきます。
旅行社の説明では、雨が多いから、防水の帽子や手袋、ザックカバー、しっかりした雨具を準備するよう書いてはありましたが、ここまで深い水の中を歩くとは思いませんでした。やっと水の難所は通り過ぎた所の小屋で昼食、そこには熱いお湯があり、ガイドさんたちがココアだのコーヒーだの、客の求めに応じて温かい飲み物を出してくれて、一息つけました。こうして何とか2日目の16㎞の行程を歩き終えて、4時すぎにロッジに到着。ここではシャワーも乾燥室も完備していて、雨に濡れた衣類や雨具も大丈夫です。ここがすばらしいところです。汗や泥で汚れた衣類を洗濯し、広い乾燥室に吊るしておくと、3、4時間のうちにすっかり乾いて明日もまた着られます。カバーをかけていても濡れてしまったリュックサックもレインコートもレインハットも乾きます。靴だけは湿り気は残りましたが。
3日目です。このコースのハイライトです。1888年にこのコースを開いたマッキノンの名前をつけた峠を越える日です。峠自体は1154mで高さは大したことはないのですが、出発地点の海抜が約400mですから、700mの高さを登らなければなりません。この日は雨もやんで登山日和、ロッジを出ると同時に緩やかな登りが始まります。重い荷物をしょった登りは楽ではありませんが、美しい景色に励まされながら1歩1歩進みます。谷を隔てた向かい側は雪を残した山肌を見せた美しい山脈が連なっています。それほど高くない山ですが雪が残っているのは、近くに氷河も残すような地形だからなのでしょう。その山からは白い滝が幾筋も流れ落ちています。日本だったら何とかの滝と名付けて名所になっているだろう見事な滝がいくつもいくつも落ちています。真っ白なデイジーも日本の山のより白くて大きくて鮮やかに咲いています。すばらしい眺めです。



あえぎながら登っているうちに、気がついてきたのは、このコースが登山者にとって絶妙な配慮で作られていることでした。50mほどきつい斜面を登ると次は歩きやすい平らな道が100mほど続き、息を整えて楽になったころに、また次の斜面が出てきて登りになります。岩が出ていたり木の根が張って登りにくいですが、それほど長くは続きません。次には花の写真などとりながら歩けるなだらかな道が待っています。登りが100mほど続くこともありますが、きつい登りと楽な道とが交互に出てくることがわかってくると登りも辛くなくなります。ありがたいコース設計です。
こうして4時間登ってマッキノン峠のマッキノンの銅像が見えた時は、やったーという気分でした。360度繰り広げられるパノラマの美しさは言うまでもありません。高山植物も咲き乱れています。ここでもガイドさんたちが、「よく登った」「頑張った」と言って熱い飲み物を勧めてくれます。後は長い長い下りです。900m下ります。岩がごつごつで歩きにくい所もたくさんありますが、何と言っても登りよりは楽です。ただ、長いのには閉口です。途中何か所か川を渡るのですが、きのうと違ってもう水浸しになる心配はありません。勢いよく流れてくる支流の水をすくって飲んだら、そのおいしいこと! 程よく鉄分が含まれて、甘露、甘露でした。この日は15km歩いて4時にロッジに到着。そして、シャワーと洗濯と乾燥。
4日目は22kmの長丁場です。でも天気が良くて快適です。周囲の景色を見たり、鳥の名前をガイドさんに聞いたり、余裕も出てきます。つい、日本の山を思い出して、ごみなど落ちていないかと意地悪な目で見るのですが、ほんとに小さな紙屑一つ落ちていません。こういう清潔な所では、ごみを捨てようなどと思う人はいないのでしょう。もし紙くずを落としたらあわてて拾うのでしょう。
ところどころに細長い箱が置かれていますが、このあたりの天然記念物の鳥を守るために、その天敵のイタチやポッサムを駆除する罠だとガイドさんの話です。このあたりの鳥は大型のが多く高く飛べないので、天敵にやられやすいのだとか。
この日のコースの植物は前の2日のと全く違います。背の高さほどもあるシダや、棕櫚を大きくしたような大木はまるでジャングルです。背の高い、大きな葉っぱの木々の間を歩くと人間の小ささが改めて思い知らされます。自然のスケールの大きさに圧倒されます。大きな湖や沼もたくさんありますが、その周囲に人工物は全く見えません。自然の保護が行き届いています。
1マイルごとに出発点からの距離を記した道標が立てられているのですが、きのうに比べると、次の道標が出てくるのが早く思われます。それだけ道が歩きやすいのです。31マイル(51km)を過ぎたころから、ゴールもそう遠くないと、楽しみが出てきます。ラストスパートをかけると言って駆け足になる人も出てきます。

ベンさんたちと
遂にサンドフライ・ポイントの小屋が見えてきました。足にまめができたり、吊り橋の金具で指を怪我したり、ちょっとした痛みはありましたが、どうにか踏破できました。まだ大丈夫、低い山ならまだ登れると自信が出てきました。大収穫です。
陽気なガイドのベンさん、なんでも今までの最高齢は83歳だったとか。背の高い彼の半分しかない小さなわたしがそれを更新したと言って、「スゴーイ」「ヤバーイ」と覚えたての日本語で私をほめてくれました。
NZに入国する時、ハイキング目的と答えると、靴は洗って来たか、ストックに何かついていないかと厳しく聞かれました。美しい自然があるから世界中の人々をひきつける、世界中からその自然を求めて歩きに来た人に、安全で程よいコースづくりで思う存分歩かせる、けれどもその環境を守るためには、きちんと制限をする。日本も観光立国です。山もたくさんあって、外国からも登りに来る人が増えています。まだまだ見習うことはたくさんあると思ったNZのトレッキング旅行でした。
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