views

1289

歌人が書いた小説『花降り』    中西豊子

2009.09.15 Tue

<p> 少し前のことになりますが、嬉しいことに小説『花降り』(講談社)を著者ご本人から頂きました。著者は道浦母都子さんです。</p>
<div class="align_left">アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.</div>
<p> 私が道浦さんに初めてお目にかかったのは、講演をお願いしたのがきっかけでした。当時、若くて斬新な歌を詠まれる新進の歌人でした。安保闘争の経験を歌にして、異色の歌人と言われていたものです。その後のご活躍は皆さまもご存じの通りです。一昨年、偶然私たち共通の友の祝賀会があり、幹事役をご一緒にすることになって、本当に久しぶりに親しくお話をさせていただきました。穏やかな微笑み、ゆったりした口調、お人柄の良さは少しも変わらず、わが身のせわしない暮らしぶりを反省させられました。<br class="clearall" /><!–more–> この作品は、彼女のはじめての小説だといいます。「ただ一度この世を生きて自らの命と思う一人に会いぬ」という、今では珍しい恋物語です。近頃はやりの、どぎつい性の表現もドラマチックな展開もありません。「失楽園」のような強烈な恋愛でもありません。でも、心にしみる愛はこちらではないかしら。読み始めたら止まらないのです。ひたすらやさしく、そして切ない純愛、それも熟年のお話です。かえって今の世の中に、新鮮な魅力があるのではないかしら。</p>
<p> 美しい桜の描写、碧い沖縄の海など、絵を見ているように目に映ります。小説の余白にたくさんの余韻を残しながら。やっぱり歌人なんだなあ、と思いました。気持が洗われたような気分で読み終えました。最近、こんな純情な人がいるのだろうかとは思いますが、道浦さんが、どうしても書きたかった恋だったのだろうと思いました。世知辛く何事もガサガサした即物的な世の中にあって、心を休めるのにいい本でした。</p>
<p> 彼女を有名にした歌集『<a href="http://amazon.co.jp/dp/4006020163">無援の抒情</a>』(岩波現代文庫)をはじめ、沢山の歌集のほか、評論 『<a href="http://amazon.co.jp/dp/4141890421">女歌の百年</a>』(岩波新書)、『<a href="http://amazon.co.jp/dp/4480813861">乳房のうたの系譜</a>』(筑摩書房)などもお薦めです。</p>







タグ: / 中西豊子