エッセイ

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「旅は道草」その6 シチリアン・ブルー やぎ みね

2009.09.18 Fri

 プラトンが訪れ、アルキメデスが死んだという町シラクサ。「世界一美しいイスラーム都市」とゲーテが言ったパレルモ。シチリアは古代ギリシャ、ローマ、ビザンチン、アラブ、ノルマン、アラゴンと、多民族の「強者どもの夢の跡」が残る島。

 地中海の向こうは、もうアフリカ。海の蒼さと、淡いブルーの空を水平線が区切っていく、あのシチリアン・ブルーを見れば、誰だって、もう何でも許せるという気分になるというもの。 マルタから小さなプロペラ機で1時間。カターニャ着と同時にイタリア娘たちが一斉に拍手を送る。だが空港で荷物が出てこない。便名表示もなく、係員や放送の指示も食い違う。乗客は右往左往。やっと出てきたのが2時間後。すでに夕刻になっていた。ちなみに帰りの飛行機も出発が30分遅れ。それでも到着は時間通り。空中をスピード違反で飛ばしたのかしら?

 目指す安宿はプロセルピーナ・ホテル。テートギャラリーにあるロセッティの名画と同じだから選んだのに、なぜか見つからない。暗くなった路上で店を広げるアフリカンのお兄さんにも、通りすがりの人に尋ねてもダメ。親切な理髪店主がつれていってくれた宿は、目下、改装中。さて困った。心覚えのある近くの古い館のレジデンスで屋根裏部屋を予約。屋上に坪庭もある、おしゃれな宿なのに、なぜかお湯が出てこない。

 映画「グラン・ブルー」のロケ地タオルミーナへはカターニャからイタリア国鉄(FS)で1時間。今も噴火するエトナ山を左に、列車の窓からオレンジの香りが入ってきた。高台からイソラ・ベッラの青い入り江を眼下に、タウロ山頂にサラセン人の城壁を見上げて海と山の眺望を楽しむ。

 シラクサまでイオニア海岸をバスで1時間。さんさんと太陽が降り注ぐ乾燥地帯にオリーブがいっぱい。オルティジア島の遊歩道フォロ・イタリコで浅瀬に足を浸すと、横でラブラドールがパシャパシャと泳いでいた。

 ところが、である。シチリア滞在中、週末だったのが間違い。町外れで、近くにレストランがない。やっと見つけた店も「バカンスでお休み」の札。シエスタで時間外は開かない。仕方なく3日ともピザ屋さんで食べる。横でおばさんが、テレビに写るテノール歌手パバロッティの葬儀を指さし、「知ってる?」と聞く。そうだ、もう一度、リベンジでシチリアへ行こう。今度こそ、おなかいっぱいブイヤベースを食べようっと。

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カテゴリー:旅は道草

タグ: / やぎみね / イタリア