2013.05.24 Fri
『声なき叫び』角田由紀子弁護士トーク付き試写会レポート
5月17日、(株)パンドラ主催、カナダ映画『声なき叫び』(アンヌ・ポワリエ監督、1978)のトーク付き試写会が東京都内で行われた。強姦が女性の心身に致命的な影響を与えることを被害女性の視点に寄り沿う形で指摘し、強姦法のあり方とその運用実態(被害者に対する医師・警察・裁判官の姿勢・言動)を鋭く告発したこの映画は1979年カンヌ国際映画祭で上映後、大きな反響を呼んだ。本国カナダでは劇場公開に続きTV放映もされ、州政府が学校教材として活用するなど、4年後に強姦法が改正される上で原動力となった。日本では、1982年、「強姦」が新聞禁止用語だった時代に、女性グループの運動によって東京で自主上映され、その後、全国各地に上映の輪が広がった。1983年、日本で初めて東京・強姦救援センタ―が設立されたことも、女性たちを中心とする運動の成果であったといえる。
「私の映画は政治的」と語るポワリエ監督、そして日本で上映運動に取り組んだ女性たち―振り返れば、女性たちが映画というメディアの力を通して社会問題に取り組んだ試みとして、このかつての上映運動は記録・記憶されるべきだろう。それは映画の力が今よりずっと大きかった時代の話でもあるのだが―
それが、今、30年の時を経て、公共での上映権付きDVDとして、かつて運動に関わった中野理恵さんが代表を務めるパンドラより発売され、また、長く性暴力事件に関わってきた角田由紀子弁護士のトーク付き試写会として、再度、世に問われることになった。となれば、「映画と女性と社会」をつなぐことをモットーにWAN映画欄を担当することを引き受けた者としては、この試写会の記録をWANに残すことでささやかなりと貢献できるのではないか―などと、実は、思えばまったく浅薄というほかはない動機で参加した試写会であったが、上映後の角田弁護士のトークを聞き、今回の試写会の新たな意義を思い知らされた。以下、反省と共に、試写会レポートを送る。
まず、角田弁護士は、鋭く、今回の試写会の根本に関わる問いかけを、つめかけた女性たち―私も含め多くが声もなくぐったりと椅子に沈みこんだままだったと思う―に問いかけた。それは無知な私にとって、思わぬ問題提起だった。
この映画が提起した問題は実はもう古い、ところが私たち日本ではいまだ新しい問題であり続けている。それは一体、なぜなのか―?
つまりそれはこういうことだった。(以下、要約させていただく)
この映画が作られて4年後の1983年、カナダでは強姦法に関する規定が改正された。しかし、日本では、1907(明治40)年に制定された刑法が今も変わらず生きており、強姦に関する法改正が実現していない。これが、欧米の女性運動がもたらした成果との大きな違いだ。たしかに1980年代初頭より強姦を告発する女性運動が始まり、2008年には、「性暴力禁止法をつくろうネットワーク」も発足し活動を行っている。にもかかわらず、そうした日本の女性運動は、いまだ、法改正を求める社会的機運を作り出すには至っていない。そのため、この映画が指摘する問題がいまだ古びてみえないのだ―それどころか、先の従軍慰安婦問題に関する橋下大阪市長の発言ではからずも再び表面化したとおり、日本ではいまだに国際的に見ても女性の人権に関する意識が著しく低い。この映画が提起する問題が、いまだ現実のものとして存在しているのだ。世界的に見てもかなり特殊な、この日本の状況をどうとらえ、行動すべきなのか? 女性の人権が置かれた状態を正しく知り、怒る必要があるのではないか。歴史認識と今の問題は深いところでつながっている――
角田弁護士は、長くこの問題に専門家として関わってきた人ならではのすごみのある抑制された口調で、つめかけた観客に、この映画を今、日本で見ることの意義について再考を促したのだった。
角田弁護士のトーク概要は(株)パンドラのHPをご覧ください→ こちら
かつて上映運動に関わったパンドラ代表の中野理恵さんも、角田弁護士と同様の危機感を持ち、このDVD版『声なき叫び』をたとえ一部でも上映し、各地で勉強会を開くなど、この問題に取り組んでほしいと願っている。
今秋には、ドメスティック・ヴァイオレンスと性犯罪という二つの大きなテーマを柱とし、女性の権利の置かれた状況について考える角田弁護士による連続講義も始まる。上映予定作品は以下の通り。
『パパ、ママをぶたないで』(ノルウェー/20分)
『私を守る~DV被害と女性たちの証言』(アメリカ/30分)
『レイプカルチャー』(アメリカ/30)
WANでは今後、この連続講義のレポートを掲載してゆく予定。 (文責 川口恵子)
カテゴリー:新作映画評・エッセイ
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