エッセイ

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<女たちの韓流・65>「私の人生の春の日」~臓器移植が結ぶ縁~  山下英愛

2015.06.05 Fri

 イメージ 1久しぶりに心温まるロマンスドラマを見た。
「私の人生の春の日」(全16話、MBC2014)は、妻を亡くした中年男性と、その妻の心臓を移植して助かった若い女性が出会い、惹かれあう物語。この二人を惹きつけたのが、ドナーの心臓の記憶によるものかもしれないという“細胞記憶”を素材として取り入れている。描き方が巧みで、「もしかしたらこんなこともあるのかな?」と思わせる。

貴重な命

 ドンハの故郷は済州島の隣りにある小さな島、牛島(ウド)。畜産業で成功し、いまや大会社ハヌラオンの代表である。だが、5年前に最愛の妻を亡くして以来、そのショックから立ち直ることができず、酒を飲まないと眠れない。妻のスジョンは弟の同級生で、牛島の海女だった。結婚後、海女の仕事をやめたが、年に一度、ドンハの誕生日だけは直接サザエをとりに海にもぐった。5年前のその日も久々に島に戻って海にもぐっていたところを船に衝突され、命を落としたのだった。

  イメージ2このスジョンの心臓を移植されたのがイ・ボミ(写真)である。ボミは子どもの頃、拡張性心筋症という重い病気をもち、死を待つ身だった。ところが、ドナーが現れて心臓移植がかない、新たな生を与えられた。ボミの心臓移植は両親がヘギル病院の理事長と病院長という立場にあったからこそ可能だった。ボミはそんな自分の境遇に感謝し、ドナーの分まで一生懸命に生きようと決心した。すぐに栄養士の資格を取り、ヘギル病院で働き始めた。まだ27歳で幼い面もあるが、入院患者のために良質の食事を提供するためならどんな苦労もいとわない。ドンハとの最初の出会いも、仕入れ用の肉を求めて訪れた店で起こったことだった。

  イメージ 3一方、ドンハの弟であるドンウク(写真)は、ヘギル病院に勤める心臓の専門医である。ボミに移植された心臓がスジョンのものであることは彼だけが知っている。ドンウクにとってスジョンは兄嫁である前に初恋の人だった。病院に運ばれてきたスジョンの命を助けることができないとわかったドンウクは、せめて心臓だけでも生かそうと兄に移植を勧めたのだ。兄は妻の臓器移植に同意しただけで誰に移植したかは知らない。ボミもまたドナーが牛島の出身であるということだけしか聞かされていなかった。ドンウクは心臓移植の過程を見届け、その心臓を守ろうとボミの担当医になった。そのうち、若いボミとドンウクの間に恋が芽生え、結婚を考える仲になる。

揺れる心

 ところが、そんな二人の関係は、ボミとドンハが出会うことによって徐々に変わってゆく。はじめは二人とも相手とドンウクとの関係(ボミにとっては婚約者、ドンハにとっては弟)を知らなかった。二人は牛島での再会をきっかけにどことなく好感を抱くようになる。特にドンハは、ボミの素直な明るさと率直さに心を揺さぶられた。単に世間知らずでミーハーな若い娘と思っていたのが、優しく真面目な性格であることや、自分の子どもたちからも好かれる姿に感じいったのだ。これは中年やもめの邪な思いではないかと自戒もするが、ソウルに戻って度々会ううちにボミへの思いを募らせてしまう。ボミもドンハや子どもたちと過ごす時間がなぜか楽しかった。

 イメージ 4だが、じきにボミはドンハ(写真)がドンウクの兄であることを知る。そしてドンハも間もなくその事実を弟から聞かされた。ドンハは内心ショックを受けるが、弟の恋人を好きになるわけにはいかない。辛いけれども気持ちを整理して、ボミを遠ざけることにした。ところがボミは、ドンハに遠ざけられるのが悲しい。ドンウクが結婚を急ぐのもいやだった。ドンハや子どもたちと一緒に過ごすのは楽しいことなのに、なぜそれがだめなのか納得がいかないのだ。

 ボミはその過程で自分の気持ちがドンウクではなく、ドンハに向かっていることに気づく。そしてドンウクに対して結婚をとりやめたいと告げる。ドンウクとの関係よりもむしろドンハとその子どもたちとの関係を大切にしたかった。そんなボミの態度に再び揺らぐドンハ。見かねたドンウクは、ボミの心臓のドナーがスジョンであることをドンハに告げる。二人が惹かれ合うのはスジョンの心臓のせいなのだと言わんばかりに・・・。

中年男性のロマンス

 私はこのあたりから先の展開が読めなくなった。果たして結末はいかに?一緒に見ていたパートナーは、どうやらドンハのつもりになっているらしい。時々深いため息をついている。そこで私はわざと意地悪なことを言う。「韓国的な感覚でいえばドンハとボミが結ばれるのは難しい。だいたいボミの両親が認めないはず。元恋人の兄、しかも子連れで18歳も年上の中年男性との結婚を許すはずがない。だから、ボミを遠ざけようとするドンハはさすがに大人なのだ」と。

 それはさておき、ドラマの前半ではややロマンチックなムードにひたったが、後半ではむしろ生きていることの尊さや、今を一生懸命生きることの大切さをひしひしと感じた。ドラマのセリフもなかなかしゃれている。俳優たちの演技もうまい。とりわけ主人公ドンハ役のカム・ウソン(1970~)の演技がいい。彼は韓国で大人気を博した映画「王の男」(2005)で主人公の大道芸人(広大)を演じて一躍有名になった。その演技で大鐘賞の男優主演賞を受賞している。ボミ役のチョ・スヨン(1990~)はガールグループ少女時代のメンバーである。その多才さに感心させられる。イメージ 5その他、チーム長ヒョンウを演じたイ・ジェウォン(1986~写真)とドンハの竹馬の友を演じたチャン・ウォニョン(1974~)のコミカルな演技は見ていて実に楽しかった。

 最高視聴率は13.3%(ニルソンコリア・ソウル)。脚本は短編ドラマ「済州島の青い夜」(KBS2TVドラマシティー)でデビューしたパク・チスク。演出は「ありがとうございます」(2007)、「会いたい」(2012-13)などを担当したMBCのイ・ジェドンである。韓国ドラマを見ながら常々感心するのは、ドラマの中によく本(文学作品)が登場すること。このドラマでも、アルフォンス・ドーデの「星」や、クォン・ジョンセンの童話(絵本)『こいぬのうんち』などが出てくる。ちなみにクォン・ジョンセンの絵本(チョン・スンガク画)は韓国のベストセラーで、日本語版もある(平凡社、2000年)。昔、子どもに読み聞かせながら泣いてしまったことを思い出した。

写真出典

http://www.imbc.com/broad/tv/drama/springday/

http://wink123.tistory.com/18255

http://manimo.tistory.com/m/post/1261

http://tenasia.hankyung.com/archives/321666

http://tiworker.tistory.com/1101

カテゴリー:女たちの韓流

タグ:ドラマ / 韓流 / 山下英愛 / 身体・健康