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『エレナの惑い』 一人の女性の業を描いた、ヒューマン・サスペンス 中村奈津子

2015.10.14 Wed

エレナの惑い HDマスター アンドレイ・ズビャギンツェフ [DVD]

販売元:IVC,Ltd.(VC)(D)( )

定価:¥ 4,104

Amazon価格:¥ 3,459

時間:109 分

1 枚組 ( DVD )

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裕福な初老の男性、ウラジミルと2年前に再婚した元看護士のエレナは、モスクワにある豪奢なマンションで何不自由のない、しかし空虚な毎日を送っている。そんな彼女には、郊外のさびれた住宅地に住む、元夫との間の一人息子と、その家族がいた。息子は失業したまま仕事もせず、電車に乗って訪ねてくるエレナから当たり前のように生活費を受けとり、子どもの進学費用の無心までする体たらくだ。エレナは、無遠慮な息子たちに特段腹を立てるでもなく、夫に対して、息子家族へのまとまった資金援助を願い出る。ウラジミルは「赤の他人に金を出す義務はない」と、他人事のように彼女の願いを一蹴するが、エレナは夫の無慈悲な態度に対しても、口答えすることなく無表情でやりすごしていた。

 

 

 

そんなある日、ウラジミルが日課として足を運ぶスポーツジムで体に不調をきたし、入院をすることに。それが引き金となって、彼は自分の元妻との間にもうけていた、いまは離れて暮らす一人娘に、自分の遺産をすべて託すための遺言を書くと言いだした。そのとき、エレナの取った行動とは・・・?

 

 

 

何ひとつつながりの持てない夫婦関係に立つ秋風は乾き、冷たい。エレナが唯一、ウラジミルに期待をかけていたものが失われようとしたときの、彼女の熱量と身のこなしの速さに一瞬息をのむが、物語はすぐに元どおりの静けさを取りもどし、不吉な未来を予感させたまま、曖昧に終わっていく。ラストに見せる、始まりと同じ風景の長回しが、一人の女性の業を映しとっていて実に見事。それを眺めているうちに胸に広がってくる余韻の冷たさに、心がしんとする。愛のない夫との暮らしの中で、子どもへの行き過ぎた献身を愛と思う母親が道を過っていくことを、わたしは咎められないように思うのだ。2011年の第64回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」で審査員特別賞を受賞。物語に伴走する音楽が素晴らしく、静謐な映像の美しさにも目を奪われる。公式ウェブサイトはこちら








カテゴリー:新作映画評・エッセイ / DVD紹介 / 映画を語る

タグ:非婚・結婚・離婚 / 映画 / 家族 / 中村奈津子 / ロシア映画

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