本書は、イギリスの社会学者アランによる現代家族への入門書である。
フェミニズム以来、ジェンダー、多様化する家族(離婚、ひとり親家族、ステップ・ファミリー)、高齢者、福祉、ケアと、家族をめぐる諸問題が次々と社会問題化した。家族解体といおうか家族の体をなさないというべきか、「家族」の概念を使うことさえもはや不適切に思われる昨今では、家族をメンバーごとに(女性、高齢者など)とりあげ、一つ一つの問題を個別に論ずることはできても、現代家族の全体像を論ずることはきわめて困難となっている。本書の特徴は、個別に論じられてきた諸問題を十分に踏まえながら、それらを統合する体系的統一的な家族論を展開していることである。
鍵は「生活」の視点にある。家族についての言説は、イデオロギーも加担して、ともすれば一面的自己欺瞞的になりやすい。現代の結婚も女性の職業も、トータルに生活の局面で把握することに力点が置かれることにより、通説に含まれる欺瞞、さらには構造的な矛盾が明らかにされる。
本書は、現代家族をバランスよく把握するテキストとしてきわめてすぐれている。そして何よりも現代の家族に問題を感じながらも家族と格闘し、家族生活に向き合い続けている人々に対して、抱えているわだかまりの一部なりとも溶解する感覚をお届けすることができればと願っている。(訳者 天木志保美)
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