2009.12.11 Fri
女性労働研究の第一人者である竹中恵美子の50年余の研究軌跡の集成で、戦後女性労働は何を問題提起し、論争してきたかを、ジェンダー視点から、論争に切り込んだ書となっている。1960年代から2009年の現在までを4期に分け、各時代の情勢の規定と研究の軌跡、さらに、ディーセントワークをめざす日本の課題と提言を提起している。本書は2004年8月に上梓された『竹中恵美子が語る「労働とジェンダー」』(関西女の労働問題研究会・竹中恵美子ゼミ編集員会/ドメス出版)の姉妹編で、本の装丁も統一されていて、前回がすがすがしい青、今回は鮮やかな赤。この2冊で、竹中理論が集大成されていると言える。
第1部は竹中執筆の「50年の研究軌跡」、第2部は、「女性労働運動との交流はどう紡がれたか」で、関西女の労働問題研究会が中心となって編纂しており、付論として「竹中恵美子への聞き書き」の構成となっている。第1部が、戦後女性労働論を学ぶ最適の書であることは言うまでもないが、本書を親しみやすくしているのは、「私と経済学との出会い」から書き下ろされ、研究者・働く女性として、「妻・母」としての自分自身の葛藤を理論化することを追求された姿勢にある。つねに現実が提起する課題を鋭く捉え、ピラミッドの頂点ではなく底辺、つまり圧倒的多数の女性労働者に軸足を置いた視点で、課題と具体的な提言を提起してきたことにある―男女差別賃金の構造と撤廃への道筋、男女雇用機会均等法における「機会の均等論の落とし穴」の批判、アンペイドワークへの視点、生産と再生産がフェアでトータル化した社会システムづくりの政策提言等―その理論と思想、生き方そのものが、多くの女性たちを魅了し、深い影響を及ぼしている。
第2部では、サブタイトルの通り、運動との相互交流が時代を追って記述されている。運動現場が何を求めているか、運動現場の資料や意見に注目して理論化し、女性グループのリーダーたちとのネットワークを大切にし、どんなに忙しくても、運動が必要としているのならと、要請に応えてきた、相互関係がリアルに浮かび、その写真や実証的な資料も、歴史的に貴重である。そして、「竹中理論と私の出会い」も何人かの運動家や次代に続く研究者らが、生き方や研究に大きな影響を与えられたことをユニークに語っている。
個人史の「聞き書き」は8頁の短い記述だが、研究実績と家族生活とが時系列に追われていて、人間竹中恵美子の葛藤と魅力に踏み込み、背筋がピンとする思いにさせられる。
本書は、他の学術的な研究軌跡回顧にとどまらない、女性運動の仲間たちと共に紡いだ竹中恵美子ならではの示唆深く豊かな書となっている。
11月27日には「出版記念と傘寿を祝う集い」が準備されている。
エル・ライブラリーで閲覧できるが、販売もしている。
(関西女の労働問題研究会・伍賀偕子)
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