叔母の右手首骨折で急遽、熊本に飛んで40日後の8月6日。真夏の暑さの中、95歳の母と91歳の叔母を京都に迎えるため、娘と小2の孫娘と私の総勢女5人で、京都への家族大移動となった。

 とにかくこの夏は暑い。京都も格別の暑さだったようだ。

 西南戦争の戦火が家から見えたという、古い、古い家の箪笥や長持ちから、とりあえず京都へもっていく荷物の整理におおわらわ。洋服屋をしていた叔母が縫った服や浴衣地でつくった夏物のネグリジェやネルのパジャマが、あきれるほどある。

 木箱の中には、33年前に亡くなった祖父がしたためた遺言書や家系図が入っていた。和紙に墨色も鮮やかに達筆の文字で書いてある。風流な俳句や、時々に記した「想い出」の記もあった。

 重要書類や医療関係の紹介状などはボストンバックに。当面の衣類や下着、必要なものを詰めこんで、ダンボールに10箱ほど送る。どうでもいいものなのに大切にとってあった不用品は、思い切って処分することにした。あとは冷蔵庫の中の食料品や乾物類を最後に片づけて。

 いつでも我が家に帰れるようにと、叔母の家と画津湖のほとりの母の家も、そのままにして、時々、風を通しに従姉妹にきてもらうことにした。季節ごとの植木の剪定も知り合いの植木屋さんに頼む。お世話になったご近所や魚屋さん、お医者さん、民生委員の方々にご挨拶にいくと、みなさん丁寧に応対してくださった。裏のお墓と仏壇にもお参りを済ませる。

 市役所へ委任状をもって転出届を出しにゆく。それに伴う医療保険や介護保険、障害福祉関係など、手続きに2時間かかったけれど、無事に終了。

 8月3日、叔母が術後の診察を受けて退院。母と2人、体調を崩さず、移動できるように細心の注意を払わないといけない。

 京都からやってきた娘と孫といっしょに久しぶりに街へ出る。本物の「くまモン」を見に「くまモン」スクウェアで遊ぶ。孫は「くまモン」とハイタッチして大喜び。小学館版学習まんが「Kumamon」を買ったら偶然、抽選にあたり、後日、サイン入りの本が送られてきた。とびきりのお誕生日プレゼントとなった。

 8月6日朝9時、みんなで新幹線に乗り、岡山乗り継ぎで京都へ午後1時に着く。熊本と京都で駅員さんに車椅子のお世話になる。これから2人で暮らしてもらう部屋へ無事、到着。すぐその足で私は転入届に区役所へ走る。2人分のさまざまな手続きに2時間かかったが、すべて終了。ああ、ややこしい。

 翌7日、御池地域包括支援センターのケアマネジャーさんと訪問看護師さん、生活指導員の方が、午前中、自宅にカンファレンスにきてくださる。介護保険関係の書類や医療関係のデータなど、いただいたものを全部揃えていたので、思いがけず、翌日8日には早速、2人でデイサービスにいく手筈を整えてくださった。

 デイ初日、御池デイサービスセンターへちょっとお邪魔する。御池中学校の一角につくられた、ゆったりとした広いスペースに、たくさんのスタッフの方々が働いている。窓の向こうに校庭で遊ぶ生徒たちの姿も見えて、いいところだなと思った。帰ってきた2人は、「久しぶりに歌を歌って楽しかった」と言ってくれた。つくりたてのお食事もおいしくいただいたそうで、入浴もしていただき、ほっと一安心。

 予約済みの介護ベッドも介護用車椅子も、すぐ届いた。数日後、ケアマネさんが2人のケアプランをつくってくださり、開業医の先生とも連携をとって、訪問看護師さんも翌週から入ってくださった。改正された介護保険総合事業の仕組みや問題点についてもいろいろと教えてもらう。

 なんとも慌ただしい1週間だったが、テキパキと進めてくださるチームのみなさんに目をみはる思いがする。

 かかりつけ医への診察と整形外科へのリハビリ、母の心臓ペースメーカーの紹介状を添えて第二日赤に診察の予約。「暑苦しか」という2人を近くの美容院へつれていき、ヘアカットをしてもらう。すっきりと気持ちよくなったらしい。その合間に娘と2人で部屋の荷物を手分けして片づける。

 右手に三角巾をかけて手が不自由な叔母と認知症が進む母と、足りないところを互いに協力しあいながら、こちらが少し手伝うことで何とか2人でやっていけそうだ。食事や身の回りの世話も、娘との二人三脚で、だんだんと日常のこととなりつつある。夕食は同じフロアの私の自宅で5人いっしょに。2人ともよく食べてくれるので助かる。

 母は戦前と戦後、中国の北京や大阪に住んだことがあるが、独身の叔母は90年間、生まれた家から出たことがない。京都への移動はちょっと気がかりだったが、何とかスムーズに受け入れてくれているようだ。

 それに小2の孫娘が、びっくりするほど優しい。かなり自己主張の強い孫なのだが、進んでお薬カレンダー係を務めてくれて、かいがいしくお世話をする。彼女の賑やかなおしゃべりが、90代から8歳まで世代をつないでくれるのが、ほんとにうれしい。そして、とっても助かる。

 ちょっとご褒美にと、8月12日、予約してあった「Disney ON ICE」に大坂城ホールへ孫と娘と3人でゆく。焼けつくような暑さの中、場外でのミッキーのご挨拶の後、会場に入ると、中は氷のような涼しさ。最前列に座り、ディズニープリンセスのアナ、エルサ、ラプンツェル、ベル、ムーラン、アリエル、ジャスミンたちの歌とダンスに夢中。彼女たちと目があい、手を振ってもらって、もう大興奮だった。

 8月16日は大文字の送り火。そろそろ夏も終わりかな。これからの長い日々、孫が七夕の笹に吊るしたお願いごとの短冊のように、「みんな元気で過ごせますように」と、心からそう思う。