2010.02.12 Fri
マーサ・ファインマンというアメリカのフェミニズム法学者の本を初めて手にしたころ、working poorの訳し方に悩んだ。訳書『家族、積みすぎた方舟―ポスト平等主義のフェミニズム法理論』 (学陽書房)が出たのは03年。世の中では、「勝ち組、負け組」という言葉が流行っていた。やがてワーキング・プアという言葉が日本社会に広まっていった……言葉だけでなく、過酷な現実とともに。
ここで紹介するファインマンの2冊目の本に取り組んでいたのは、そんな期間である。彼女が示すアメリカの窮状が私たちには日本と重なって見えて仕方なかった。豊かさのなかの貧困、肥大する自律とやせ細っていく絆。ついこの間まで、日本は豊かだと思っていたはずだ。しかし政権が代わるまで、15%という高い貧困率が伏せられていたように、届かない情報、見えない仕組みが私たちを取り囲んでいる。それに迫るファインマンの筆致は鋭く、人への眼差しは優しい。
1冊目で試みた、ケアし、ケアされる関係を家族の核として法的保護の対象とし、それ以外の家族関係(一対の男女からなる性関係など)は法的保護からはずそうという大胆な提案に続き、この2冊目では、より現実に即して、市場、国家、家族を俯瞰する視点から「ケア」する関係を保護する体制を整えるべきだと訴える。おりしも、 アメリカでは、オバマ政権が長年の民主党の悲願であった、国民皆保険の法制化にとりくんでいる。年間2万人が、治療可能な病でも医者にかかれないがために亡くなっていく世界で一番豊かな国。
そして日本では、鳩山新政権のもと、子どもへの現金給付の公約を来年度の予算に組み込めるかどうかの瀬戸際に立たされている。世界的金融危機のもと、09年7月には5.7%という日本としては空前の高い失業率を記録しながら、介護分野での人手不足は深刻である。
このアンバランス……。
また、国民皆保険をすでに実施していても08年時点で国民健康保険加入世帯2割は保険料滞納状態にあり、3万人以上の子どもたちが保険からもれている。追い討ちをかける失業率の高さによって、この数字は上がりこそすれ下がることはない。
子ども、病人、高齢者、障がい者……生きている限りだれしもが経験するであろう「弱くあること」へのケアを「家族」といういまや 脆弱となった受け皿に頼り続けるふたつの経済大国。
「ケア」を制度的にどう支えるべきか、国家レベルで話合う正念場をむかえた日本にとっても必ず参考になる一冊であると信じる。 (訳者:穐田信子・速水葉子)
従来の政治思想、とりわけリベラリズムが前提としてきた「自律・独立・自活した個人」のあり方とは異なる人間のあり方への認識と、それに即した「平等」「正義」など諸価値の見直しが、いま求められています。この問題に対して、ファインマンは本書で一つの回答を与えています。このような時宜にかなった本の編集に携わることができた幸運に感謝しています。ぜひご一読ください。 (岩波書店学術書編集部 藤田紀子)
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