views
763
痛い物語を読む「贅沢さ」 堀あきこ
2010.04.15 Thu
<div class="align_left">アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.</div>
<p>日常生活をカラフルにする可能性に満ちたBL――という松葉さんのエッセイを読んで思い浮かんできたのは、「恋愛の遊戯化」と対局にありそうな「恋愛」の存在。胸をえぐり、痛みをもたらすような恋愛だ。<br />BLは男-男の恋愛物語だが、<a href="http://amazon.co.jp/dp/4091885098">『羣青』</a> (『IKKI』連載中)は女-女の関係を描いた作品。女同士の関係を描く“百合もの”と呼ばれるジャンルは、友情以上恋愛未満というような“淡い”ものが多いのだが、この作品は、すこぶる痛い、すこぶる濃い。<!–more–></p>
<div class="align_right">アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.</div>
<p>主人公は「レズさん」と「メガネさん」(作中、彼女たちの名前は出てこない)、ともに30歳。レズビアンである「レズさん」は、裕福な家に育ち、弟夫婦や甥っ子たちに愛され、恋人とも10年という長く親密な関係を築いている。その「レズさん」が高校の時に片思いしていたのが「メガネさん」。彼女は結婚しているが、夫からのDVが激しく、ある日レズさんに夫の殺人を依頼するに至ってしまう。自分が好かれていることを利用し、殺人を依頼したメガネさん。メガネさんの気持ちが自分に向かっていないことを知りながらも、殺人を決行したレズさん。殺人はレズさんの自首で終わるはずだったのだが、映画<a href="http://amazon.co.jp/dp/B001CT6MHS">『テルマ&ルイーズ』</a> を連想させるような逃避行が始まる。</p>
<p>殺した女と殺させた女、二人の関係は「知り合わなきゃ絶対幸せだった」と叫ばずにいられないようなものであり、重なったかと思うとすれ違いっていく。「あなたが男性だったら理想の相手だ」とメガネさんはレズさんに言うが、レズさんが「幸せに恵まれた人」であり「誰でも赦せる余裕がある」ため、メガネさんは彼女を受け入れることができない。<br />レズさんは同性愛者であり、異性愛者のメガネさんから差別される側だ。しかし、「主人にもお父さんにも、いるだけで殴られ」、万引きが日常茶飯事という貧困な家庭に育ち、借金返済のために結婚したメガネさんにとって、レズさんの「余裕」は耐え難いものと映る。「理解と差別は同じだ」というレズさんの言葉は、異性愛者であるメガネさんに向かうと同時に、裕福で人から愛される環境にあるレズさん自身にも向かう刃となる。</p>
<p>メガネさんとレズさんの関係は、一般的な“恋愛”にカテゴライズできないものだろう。それどころか、逆に“恋愛”が高い壁となって、二人の間に距離を作っているかのようにさえ見える。けれど、相手ととことん向き合い、傷つけあいながらも離れられない関係、まるで「一緒に崖から飛ぶ」ような関係は、まさに恋愛という“ハードな対人関係”そのものではないか、と私は思ってしまう。<br />BLが、対等な関係を描くため男同士の設定を選んだ、といわれているように、<a href="http://amazon.co.jp/dp/4091885098">『羣青』</a> もまた、女―女という対等な構造を持っている。しかし、この作品は、女同士であるという対等性以外は、異性愛者と同性愛者、経済、家庭環境、恋愛でのパワーバランス(惚れたもの負け)と、あらゆる面での非対称性に満ちている。「一緒に崖から飛ぶ」関係と、その関係に鋭い杭として突きつけられる非対称性。対等であるということはどういうことなのか、考えさせられる作品でもある。</p>
<div class="align_right">アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.</div>
<div class="align_right">アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.</div>
<div class="align_right">アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.</div>
<p><br class="clearall" /><br /><a href="http://amazon.co.jp/dp/4091885098">『羣青』</a> は、苦しくて、息が詰まりそうなヒリヒリとした女同士の関係を描いているが、男女の関係を描いた<a href="http://amazon.co.jp/dp/4063522598">『モテキ』</a> (『イブニング』連載中)は、また異なった痛み(と笑い)をもたらす作品。男性読者に「俺の許可なく勝手に俺のことを描くな!」と言わせ、ヘタレ草食系男子にダメージを与えている。<br />主人公、藤本幸世(29)職業・派遣社員。メガネ着用、地味な容姿。貯金なし、夢なし、恋愛経験なし。(ほぼ)童貞。ある日、前職場の同僚、女友達、3年間にフラれた一番好きだった人、告白されたことのある高校の後輩、と、次々とお誘いがかかる。これが噂に聞く「モテ期」か! と、藤本は浮かれるのだが……。</p>
<div class="align_left">アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.</div>
<p>藤本は自分に自信がなく、好きになってもらえるのを待っているのがデフォルト。女の子からの誘いにも受け姿勢で、ラブホテルに誘われても、ラブホのシステムに戸惑う姿を見せたくないために断ったり、好意を見せられても「俺のことなんて好きじゃない」理由を探そうとするなど、そのヘタレっぷりは読んでいるこちらを虚脱させるほどだ。</p>
<p>森岡正博は、<a href="http://amazon.co.jp/dp/483871999X">『最後の恋は草食系男子が持ってくる』</a> で、草食系男子を「心が優しく、男らしさに縛られておらず、恋愛にガツガツせず、傷ついたり傷つけることが苦手な男子」と定義している。この本にインタビューイーとして登場する草食系男子のデリケートさは、藤本そのものだ。インタビューでは、女の子とケンカになった時、「一方的に自分を責め、<自分の何が悪かったのか>と黙り込んでしまうクセ」あり、それは「誠実に相手のことを考えているからこその<沈黙>」なのだが、相手には「黙られたら、何を考えているのか分からない」「私のことも見て」と言われてしまう、というエピソードが語られている。<br />藤本はこのエピソードと同じく、女の子の前で「心の鎖国」をし、自分の問題の中に閉じこもってしまう。「俺なんか好きになってもらえるわけがない」という自信のなさにくわえ、「俺が全部悪いんだ」という“最大級自虐モード”に陥ることで、相手を傷つけてしまうのだ。</p>
<p>「死にたい死にたい死にたい死にたい……」(4回過ぎれば言葉も形骸化するらしい)と、過去の恥ずかしい思い出や失敗に囚われる藤本は、差し伸べられる幾本もの手をつかみ損ね続ける。手を差し出す女たちは、藤本の自虐に、時に傷つき、溜息をつく。そして、彼女たちは溜息をつきながら、藤本の不器用さや恋に臆病になっている様を彼女自身の中に見る。彼女たちも順風満帆な恋愛をしてきたわけではない。酒が入ると相手構わず性行為をしてしまう癖があったり、世間一般にイメージされる“女”と自分にズレを感じて自信を持てなかったり……。そして、そんな彼女たちの悩みに、私は頷くのだ。<br />草食系男子にダメージを与えながら、同時に、さまざまな女子にも“痛い”思いをさせる<a href="http://amazon.co.jp/dp/4063522598">『モテキ』</a> は、<a href="http://amazon.co.jp/dp/4091885098">『羣青』</a> とは違う痛みをもたらす作品だといえる。</p>
<p>恋愛と痛み、何度も繰り返し描かれてきたモチーフだが、読んでいる者の心にひっかかりをつくる「贅沢な」テーマだからこそ、取り上げられるのだろう。読み終えた時の「ふうーーーーー」という感覚、いろんな感情がぐるぐると自分の中で渦巻くあの感覚は、たしかに贅沢な体験だ、と思うのだ。</p>
<p> </p>
<p><a href="http://wan.or.jp/book/?p=260">次回「アニメという名の囲い」へバトンタッチ・・・・つぎの記事はこちらから</a></p>
カテゴリー:リレー・エッセイ









