
ケニアのナイロビで、母(ニニ・ワシェラ)と二人暮らしをしているケナ(サマンサ・ムガシア)は、看護師になりたいという夢を持っている。母と離婚した父(ジミ・ガツ)は再婚し、雑貨店を経営しながら国会議員選挙に出馬中だ。母は父のことを恨んでいるが、ケナは、ときどき父を訪ねて店を手伝うなどして、出馬した彼のことを応援していた。
ある日、ケナは父の対立候補オケミ(デニス・ムショカ)の娘ジキ(シェイラ・ムニヴァ)と出会う。虹色のヘアスタイルに、カラフルなメイクとファッションで自由奔放に振る舞うジキ。彼女が友達とふざけて、ケナの父親の選挙ポスターを剥がしたことから会話を交わすようになり、ふたりは強く惹かれ合うようになっていった。
だが、そんなふたりの関係を、同性愛を禁じるこの国のコミュニティが許すはずはなかった。ジキの母(パトリシア・アミラ)が娘たちの恋愛感情に気づき、慌ててふたりを引き離そうとするが、ふたりは家を飛び出していく。とはいえ向かう当てのないふたりは、ひそかに逢瀬を重ねた場所で「一緒に暮らそう」と決意するが――。
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「ラフィキ」という言葉は、スワヒリ語で「友だち」を意味する。ケニア人の同性愛者は、パートナーを紹介するとき、ふたりの関係をこの言葉でぼかすことが良くあるのだそうだ。そうした事情は、ケニアにかかわらず、世界中のどこでもそうだろう。パートナーとの関係を誰にも祝福されない苦しさは想像できる。わたしたちは社会的な存在であり、特に自分が所属するコミュニティを選べない場合、そこで許容されないことは存在を無にされるのと同じことだ。皆がお互いを知っていて、一人ひとりのプライバシーに無遠慮に踏み込むことも当然とされている保守的なコミュニティでは、他者との関係をオープンにできないことで抱える苦しみは一層深くなる。
カンヌを始めとして、100以上もの映画祭に出品されている本作は、同性愛が違法とされ、禁固刑に処されることもあるケニアで上映禁止となった。その後、米アカデミー賞外国語映画賞へのエントリーの条件である「自国で1週間以上、上映されていること」を満たすため、ナイロビの映画館で1週間だけ上映され、その際には、チケットを求める人の長蛇の列ができたのだという。

ケニア・ナイロビに生まれたワヌリ・カヒウ監督は、『ラフィキ』が長編2作目。脚本家・映画監督として活躍しながら、アフリカンアートの支援・制作・仲介を行うメディア会社の共同設立者もつとめる。彼女は、初の児童書が出版されるなど多彩な才能を見せる、アフリカ新世代のストーリーテラーのひとりである。ケナを演じたサマンサ・ムガシアは、ドラマーでヴィジュアルアーティスト。ジキを演じたシェイラ・ムニヴァは新進監督として活動するほか、キベラのスラムにある非営利学校で少女たちを指導する社会貢献活動にも力を入れる。監督はもちろんのこと、主演の二人が、実生活でも既存の価値観や壁を超えて活躍しているというのも素晴らしい。こんなふうに、新しい風を作る人たちによって、やがて社会は変わっていくのだろうという期待が残る作品だ。
物語は、ケニア社会の多様性をそのまま映し出したように、光明も暗闇も含めてカラフルに描かれている。物語を彩る、鮮やかな色合いの個性的な服装にメイクやネイル、ヘアスタイルなどの装いにも、劇中の音楽にも魅了される。物語の前半には、ふたりの恋に至る心情や、やがて距離が近づいていくところなど心躍る描写が続く。だからより一層、ふたりが人目を盗んで、街の片隅に置かれた廃車の中でしか愛を語れないことや、売店の店主に象徴されるようなコミュニティからの邪推深い眼差しと、コミュニティの規範から逸脱した制裁としてのふたりへの暴力に心が沈む。
本作では、母親世代の女性たちが一様に同性愛に理解がない存在として描かれているが、物語の舞台のような保守的なコミュニティでは、おそらく実際にもそうなのだろうと思う。少なくとも表向きはそうでなければ、力を持たない女性にとってそれしか生き延びの方法がないのだ。だからこそ、若い世代からこうした作品が出てきたことを喜びたい。それこそが、社会が変わりつつあるという証明であり、本作は、社会の変化をいっそう後押しする存在になるはずだ。誰かを好きになることにおいて性別など問われない社会へ。描いた夢は、きっといつか形になる。たとえ、幾世代かを超えたとしても。公式ウエブサイトはこちら。(中村奈津子)
11月9日(土)シアター・イメージフォーラム、愛知・名演小劇場他全国順次公開!
監督:ワヌリ・カヒウ 出演:サマンサ・ムガシア / シェイラ・ムニヴァ / ジミ・ガツ / ニニ・ワシェラ ほか
2018年 / ケニヤ、南アフリカ、フランス、レバノン、ノルウェー、オランダ、ドイツ / 英語、スワヒリ語 / カラー / 82分 / 日本語字幕:今井祥子 / スワヒリ語監修:チェプクオニ・ジャスタス / 配給:サンリス / 原題:RAFIKI
©Big World Cinema.
FB:rafiki.movie Twitter:@rafiki_movie Instagram: Rafiki.jpn URL:http://senlis.co.jp/rafiki/

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