「同一価値労働同一賃金」。これは、職種や職務が異なっていても、労働の価値が同一または同等であれば、性や雇用形態の違いにかかわらず、同じ賃金を払わなければならないという原則です。男女間および正規・非正規間の賃金格差を是正させるには有効な手法ですが、残念ながら日本では、まだ具体化していません。
 本書では、社会政策と労働法を専攻する10名の研究者が、同一価値労働同一賃金原則を日本で実現させるため、以下の二つの課題に取り組みました。  第1は、職務評価を用いた「同一価値労働同一賃金制度」を、個別企業内で設計するという課題です。社会政策グループは、ある家電量販店の販売職とレジカウンター職の職務を分類し、職務評価調査を実施しました。そこで得られた結果を分析して、同一価値労働同一賃金原則に基づく公平な賃金を算定し、それをもとに、契約社員、パートタイマーの公平な年収額と是正に要する賃金原資の増加額を算出しました。加えて、「同一価値労働同一賃金」にもとづく公平でトータルな人事制度も提案しています。
 第2の課題は、この原則を履行するための立法政策的提案です。労働法グループは、同一価値労働同一賃金原則を実現している先進事例として、カナダ・オンタリオ州のペイ・エクイティ法とその実施プロセスを実証的・理論的に研究し、同時に、日本における雇用形態間差別を禁止する法制度と判例を分析しました。その結果、日本で同一価値労働同一賃金を実現するには、当事者からの個別救済申立にとどまらず、事業主に賃金格差を是正させる「プロアクティブな手法」が効果的だと考え、カナダの法制から示唆を得ながら、賃金格差是正のための立法を一つの試案として提示しました。
 現在のコロナ禍で多くの女性短時間労働者がエッセンシャルワークに従事していますが、彼女らの時給は正規労働者の約半分でしかありません。本書は、この現状を変革して、性や雇用形態による賃金格差を是正させるための重要な戦略を提起していると思います。みなさまにお読みいただければ幸いです。
(あさくら・むつこ)

◆目次
はじめに
第Ⅰ部 大手家電量販店における職務評価と同一価値労働同一賃金制度の設計―A社を事例に 
第1章 家電量販店の販売職・レジカウンター職の職務評価システム
第2章 大手家電量販店A社の販売職・レジカウンター職の職務評価と公平な賃金
第3章 大手家電量販店A社における同一価値労働同一賃金制度の設計

第Ⅱ部 カナダにおけるペイ・エクイティ法のプロアクティブモデル
第4章 カナダにおける男女賃金平等法の体系 
第5章 オンタリオ州ペイ・エクイティ法の仕組みと理論
補 論 オンタリオ州ペイ・エクイティ法と労働組合
第6章 USW Local 1998の職務評価制度と賃金―オンタリオ州ペイ・エクイティ法の実践

第Ⅲ部 同一価値労働同一賃金原則に基づく賃金制度と法の設計
第7章 パート・有期雇用労働者に対する均等待遇原則と同一労働同一賃金原則
第8章 変動する賃金環境と同一価値労働同一賃金制度の設計
第9章 同一価値労働同一賃金を実現する法制度の提案―賃金格差是正のプロアクティブモデルをめざして

◆書誌データ
書名 :同一価値労働同一賃金の実現-公平な賃金制度とプロアクティブモデルをめざして
編著者:森ます美・浅倉むつ子
頁数 :288頁
出版社:勁草書房
刊行日:2022年2月5日
定価 :5940円(税込)

同一価値労働同一賃金の実現: 公平な賃金制度とプロアクティブモデルをめざして

著者:森 ます美

勁草書房( 2022/02/12 )