映画好きを泣かせる台詞が最後に流れる。
「この映画をポルポト政権の犠牲になった
たくさんの映画製作者、
監督、俳優に捧げます」
これにレスポンスしないでは、映画好きの名がすたる?!
1975年からカンボジアを呑みこんだ暗黒の3年8か月。共産主義クメール・ルージュ
(カンボジア共産党―ポルポトとは、その首謀者名)の圧政により、三百万人もの国
民は命を失い、空前の悲劇が生み出された。その特別法廷は現在なお続いているはず
である。
さて、開写しばらくは、主人公である女子大生ソポンの、親に反抗的な不良グループ
に入った言動が
続き、いささか冗長で緊張感を欠く。日本などに知られていないカンボジアの若者
の一部は
こうなんだな(というか「欧米風」をおいかけているらしい)、という理解は得られ
るが。
ところが、ソポンが親の決めた将軍の息子との結婚話から逃げ回って、たまたま入り
込んだ廃墟の映画館で、
自分によく似た少女が映し出され、それがかつて女優であった母の出演した映画であ
ることがわかる。
このあたりから、映像=物語はかつての圧政時代にさかのぼり、緊迫感をおび、たち
まち引き込まれていく。
映画内の主人公は、寝たり起きたりで体調の悪い、それこそ
ソポンの知らない若い母、ディの姿だった。
ソポンは、母の体調の悪さを抑圧的な父の
せいだと思っている。
映画はクメール・ルージュがカンボジアを支配する前の1974年に作られ「長い旅
路」と題されたクメール王国のおとぎ話のラブ・ストーリーであり、未公開のまま、
最終巻(原題The Last Reel)が紛失したと、元映画館主人のソカは言う。
当時の
ディと愛し合ったソカは、クメール・ルージュによって引き裂かれ、彼女の面影を追
う彼は、残ったリールを廃墟の館で写し続けているのである。
この後、物語はドンデ
ン返しのような展開をみせる。ソポンは友人たちの協力で、最終巻を新しく作ろうと
する、父はかつてクメール・ルージュに関与した、父は母を抑圧するのではなくむし
ろ救っている、ディと恋人であった兄がソカと入れ替わっている等々。
かなり複雑に
入り組んだ物語が展開されるが、これ以上は詳細を控えよう。
ラヴストーリでありながら、悲劇の歴史を伝えようとする壮大な意図をもった、見逃
せない作品といえよう。
7月2日(土)~29日(金)まで東京、神田神保町 「岩波ホール」にてロードショー
監督について一言。彼女は1973年生まれ、クメール・ルージュの政権下、およびその
崩壊後の
混乱と内戦時代に育った女性。
インタビューで、彼女は「自分の国が何を経験してき
たかわからず、
私の国ってなんなのと考え続けていた」と語っている。
ハリウッドでの撮影体験を持
ち、
将来有望な女性人材。
第27回東京国際映画祭 国際交流基金アジアセンター特別賞を受けている。
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タイトル:シアター・プノンペン(原題:The Last Reel)
監督:ソト・クォリーカー(女性)
主演女優:マー・リネット(ソポン)
主演男優:ソク・ソトゥン(シアター・プノンペンの元主人)
その他:ディ・サヴェット(ソポンの母)、ルオ・モニー(ソポンのボーイフレン
ド)、トゥン・ソーピー(ソポンの父)
コピーライト:(C)2014 HANUMAN CO.LTD