なぜこんなにも面白く パワフルで魅力的なのか。その謎を解くキーは「戦争」にある。
なぜ『82年生まれ、キム・ジヨン』は韓国で130万部、日本で23万部のベストセラーになり、フェミニズムの教科書になったのでしょうか。なぜアジア人初のマン・ブッカー国際賞が韓国文学から生まれたのでしょうか。
韓国の文学、映画、韓流ドラマ、K-POPなど、文化面での日韓交流は、ますます広がりを見せています。韓国文学でいえば、チョン・セラン「フィフティ・ピープル」は渋谷のスクランブル交差点で構想されていますし、パク・ミンギュ「ピンポン」は「銀河鉄道の夜」にインスパイアされています。
世界の歴史が大きく変わっていく中で、新しい韓国文学がパワフルに描いているものはいったい何なのか。その根底にあるのはまだ終わっていない朝鮮戦争であり、当然ながらその戦争と日本人は無縁ではありません。
ブームの牽引者でもある著者が、日本との関わりとともに、詳細に読み解き、その面白さ、魅力を凝縮しました。
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最近日本で、韓国文学の翻訳・出版が飛躍的に増えている。この現象は、読者の広範でエネルギッシュな支持に支えられたものだ。読者層は多様で、一言ではくくれないが、寄せられる感想を聞くうちに、読書の喜びと同時に、またはそれ以上に、不条理で凶暴で困惑に満ちた世の中を生きていくための具体的な支えとして、大切に読んでくれる人が多いことに気づいた。(中略)韓国で書かれた小説や詩を集中的に読む人々の出現は、ここに、今の日本が求めている何かが塊としてあるようだと思わせた。それが何なのか、小説を読み、また翻訳しながら考えたことをまとめたのが本書である。(「まえがき」より)
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■目次
まえがき
第1章 キム・ジヨンが私たちにくれたもの
『82年生まれ、キム・ジヨン』の降臨
キム・ジヨンは何を描いていたか
みんなの思いが引き出されていく
「顔のない」主人公
キム・ジヨン以前のフェミニズム文学のベストセラー
大韓民国を支える男女の契約、徴兵制
冷戦構造の置き土産
キム・ジヨンのもたらしたもの
第2章 セウォル号以後文学とキャンドル革命
社会の矛盾が一隻の船に集中した
止まった時間を描くーーキム・エラン「立冬」
キャンドル革命に立ち会うーーファン・ジョンウン『ディディの傘』
当事者の前で、寡黙で
傾いた船を降りて
無念の死に贈る鎮魂の執念
第3章 IMF危機という未曾有の体験
IMF危機とは何か
危機の予兆ーーチョン・イヒョン「三豊百貨店」
IMF危機が家族を変えたーーキム・エラン「走れ、オヤジ殿」
「何でもない人」たちの風景ーーファン・ジョンウン「誰が」
生き延びるための野球術
セウォル号はIMF危機の答え合わせ
第4章 光州事件は生きている
五・一八を振り返る
光州事件はなぜ生きているか
詩に描かれた光州事件
体験者による小説
決定版の小説、ハン・ガン『少年が来る』
遺体安置所の少年
死者の声と悪夢体験
死を殺してきた韓国現代史
『少年が来る』は世界に開かれている
アディーチェの作品との類似性
さらに先を考えつづけるパク・ソルメ
歴史の中で立ち返る場所
第5章 維新の時代と『こびとが打ち上げた小さなボール』
「維新の時代」が書かせたベストセラー
タルトンネの人々
都市開発と撤去民の歴史
『こびと』は一つのゲリラ部隊
物語を伝達する驚くべき構成
若者たちの心の声が響いてくる
生き延びた『こびと』
石牟礼道子とチョ・セヒ
興南から水俣へ、また仁川へ
『こびと』が今日の日本に伝えること
第6章 「分断文学」の代表『広場』
「分断文学」というジャンル
朝鮮戦争と「釈放捕虜」
南にも北にも居場所がない
批評性と抒情性溢れる『広場』
四・一九学生革命がそれを可能にした
韓国文学に表れた「選択」というテーマ
堀田善衛の『広場の孤独』
絶対支持か、決死反対か
終わらない広場
そして、日本で終わっていないものとは
第7章 朝鮮戦争は韓国文学の背骨である
文学の背骨に溶け込んだ戦争
苛烈な地上戦と「避難・虐殺・占領」
イデオロギー戦争の傷跡
朝鮮戦争を六・二五と呼ぶ理由
金聖七が見た占領下のソウル
廉想渉『驟雨』の衝撃
したたかに生き延びる人々
自粛なき戦争小説
望郷の念を描く自由がないーー失郷民作家たち
韓国社会を見すえる失郷民のまなざし
子供の目がとらえた戦争ーー尹興吉『長雨』
戦争の中で大人になるーー朴婉緒の自伝的小説
私にはこれを書く責任がある
文学史上の三十八度戦
越北・拉北文学者の悲劇
日本がもし分割されていたら
パク・ミンギュも失郷民の子孫
ファン・ジョンウンの描くおばあさんたち
なぜ朝鮮戦争に無関心だったのか
世界最後の休戦国
第8章 「解放空間」を生きた文学者たち
一九四五年に出現した「解放空間」
李泰俊の「解放前夜」
「親日行為」の重さーー蔡萬植「民族の罪人」
中野重治の「村の家」と「民族の罪人」
済州島四・三事件
終わりなきトラウマーー玄基栄「順伊おばさん」
趙廷來の大河小説『太白山脈』
パルチザンという人々
次世代に受け継がれる仕事
終章 ある日本の小説を読み直しながら
あまりにも有名な青春小説『されど われらが日々ーー』
朝鮮戦争をめぐって激しく論争する高校生たち
ロクタル管に映った朝鮮戦争
朝鮮戦争の記憶はどこへ
「特需」という恥
十代、二十代の目に残った朝鮮戦争
なぜ韓国の小説に惹かれるのか
傷だらけの歴史と自分を修復しながら生きる
韓国の文芸評論家が読む『されど われらが日々ーー』
時代の限界に全身でぶつかろうとする人々の物語
良い小説は価値ある失敗の記録
あとがき
本書関連年表
本書で取り上げた文学作品
主要参考文献
◆書誌データ
書名 :韓国文学の中心にあるもの
著者 :斎藤真理子
頁数 :328頁
刊行日:2022/7/10
出版社:イースト・プレス
定価 :1650円(税込)