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世俗化の行方 内藤葉子
2011.09.02 Fri
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カナダのゲイ・レスビアンたちによるトランス・マーチ、ダイク・マーチ、プライド・パレードについて書かれた岡野さんの文章をうけて。ダウンタウンが見物客で埋め尽くされるなんて、華やかでにぎやかなお祭りなんだろうなあと、想像するとなんだか楽しい気分になりました。写真でその片鱗がうかがえますね。とはいえトロントも保守化の波にさらされているということが、少し気になりました。
性的マイノリティの権利獲得運動は、欧米各国・各州では同性結婚の承認という形で序々に制度化され始めています。つい最近(2011年6月)、ニューヨーク州で同性婚を認める州法が成立したとのニュースがありました。ヨーロッパでもオランダ、ベルギー、スペインなどで同性婚が認められているし、フランスのPACS(連帯市民契約)やドイツのライフ・パートナーシップ法なども、夫婦に準じる権利を同性カップルにも認めるものとなっています。こうした動きは21世紀にはいってとくに顕著になってきたものですが、欧米における「世俗化」の一つの展開として見ることができるでしょう。
世俗化とは、簡単にいえば、政治や社会など世俗に関わる事柄から宗教の介入や宗教的要素を排除していこうとする動きのことです。「寛容」や「政教分離」といった考え方もこれに関係してきます。
自由・平等・人権・民主主義等々、とくにヨーロッパを発信源とする近代的理念とそれを求めての解放運動は、その根底においてヨーロッパを精神的に支配してきたキリスト教との闘争でもありました。ほんのつい最近まで、宗教のくびきから離れ「世俗化」していくことは「近代化」とイコールだと考えられてきました――論者によって、それを肯定的に捉えるか悲観的に捉えるかの違いはありましたが。そしてこの動きは「普遍的」で、ヨーロッパを起点にどこにおいても広まっていくものだとも考えられてきました。
しかし、最近この「世俗化」に異を唱える議論が登場してきているのです。ヨーロッパの急激な世俗化は一般的・普遍的であるというよりもむしろ「特殊」であり、世俗化と近代化(さらに民主化)が同時に進展するものとも限らないという見方です。こうした議論が登場する背景には、グローバリゼーションの進展とヨーロッパ社会における変化があります。とくに90年代以降移民大陸ヨーロッパにおいて、「イスラムの可視化」が進んだことが大きく関係していると考えられます。
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先々月(2011年7月)、ノルウェーで極右的志向をもつ男による無差別発砲事件が起きたというショッキングなニュースが飛び込んできました。最初多くの人がイスラム過激主義によるテロではないかと疑いましたが、容疑者はヨーロッパのイスラム化を食い止めるための十字軍的行為であると主張するノルウェー人の男でした。さらにその暴力はムスリム移民にではなく、多文化主義を政策として掲げる現政府(しかも将来の担い手である若者)へと向けられた点で、複雑なねじれを感じさせます。
この事件の背景には、現在のヨーロッパがイスラムという新しい「他者」に苛立ちを募らせていることが挙げられるでしょう。例えば、政教分離を共和国の原理として掲げるフランスでは、2004年に「スカーフ禁止法」が成立して物議を醸しました。ムスリムの女性がかぶるスカーフを「イスラム原理主義」の象徴とみる見解があります。しかしむしろそれは、ムスリム系移民たちに国籍を与え法的・政治的に国民統合させようとしてきたにもかかわらず、西欧的価値観に彼らを統合しきれないというヨーロッパ側の苛立ちの象徴でしょう。人種的・民族的・宗教的・文化的に最強度の「他者」としてイスラムが立ち現れているのが、現代のヨーロッパなのです。
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ヨーロッパ社会のなかに可視化されてきたイスラムとどう向き合うのか、EUの東方拡大に伴い、ヨーロッパを統合する精神的な理念とは何なのか、さらにこの点で、キリスト教という遺産を考慮しないですむのか――こうした問いに見られるように、ヨーロッパの公的領域に再び宗教が表舞台に登場しはじめています。左派リベラルの代表であるハーバーマスがローマ教皇ベネディクトゥス16世(当時は枢機卿)と対話をしたり、宗教や信仰の問題を公共圏の議題から外すべきではないと主張したり、なかなか興味深い動きとなって現れているのです。この問題については、当分注目していきたいと思っています。
次回「語りかける証言」へバトンタッチ・・・・つぎの記事はこちらから
カテゴリー:リレー・エッセイ