
よくぞ、ここまで語ってくれた! 『虐待被害者という勿れ 虐待サバイバーという生き方』が発売され、本になって読み返してみて、改めてそう感じる。
本書は、親からの虐待を受けて育ったが生還し、今はそれぞれの生き方を全うする虐待生還者【サバイバー】たちの赤裸々な被虐経験の証言集だ。驚くのは、写真と文章に現われる虐待生還者たちの今である。柔らかな笑顔。幼少時に受けた虐待は、子どもの心に傷を残す。それは「大人になってからも、フラッシュバックや感情調節の困難、慢性的な自己否定観」という後遺症になる。生きづらさは、変わらずそこにずっとある。
本書は、四人の女性と一人の男性のインタビューと、サバイバーたちの写真でできあがっている。常に「世間体」の定規で計り、不満足ならその定規と言葉の暴力で殴打する母親に育てられた聴覚障がいの女性。ヤングケアラーとしての重圧で、人格障がいを背負うことになった女性。行政、そして自身で求めた保護を受けた被虐経験を発信する女性。保護が叶わず、親族から社会的救済の途を断たれた女性。経験を未だ語れない、男性。
虐待被害者という勿れ。本書のタイトルは、「誰からも虐待被害者と言われることのない、虐待のない社会」を希求してつけた。しかし、虐待サバイバーたちの思いは深く、真剣だ。自分たちが受けてきた虐待を、決してなかったことにはさせない、させられない。そのリアリティが、本書の随所で読者の胸をえぐるはずだ。
「児童虐待」の暴力が、すぐ目の前にある人たちへ。今、そこにある暴力をどう食い止めるか。考えるために、必ず、読んでもらいたい。
◆書誌データ
書名 :虐待被害者という勿れ 虐待サバイバーという生き方
著者 :嶋守さやか・著 田中ハル・写真
頁数 :236頁
刊行日:2023/10/4
出版社:新評論
定価 :2200円(税込)
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