
上野千鶴子氏 最新エッセイ集 刊行!
NHK出版より10月28日、上野千鶴子さんの最新エッセイ集が刊行されました。以下に、本書のエッセンスが織り込まれた「あとがき」(抜粋)を掲出します。上野さんの知られざる来し方、趣味嗜好、それぞれの時代の経験と感慨が綴られた『マイナーノートで』は、上野ファンのみならず、「人生の夕景」を思う全てのひとの心に響く一冊です。
あとがき
音楽に長調と短調があるのはご存じだろう。英語で言うとメジャーとマイナー。ノートには調べ、という意味がある。
人格にもメジャーノートとマイナーノートがある。
「上野さん、どうしていつもそんなに元気で活きいきしてるんですか」と訊かれる。
「秘訣を教えてください」とも言われる。
「なに、簡単です。そうじゃない部分を他人さまには見せないだけです」と答える。
そうじゃない部分。自分のなかにゆっくりとマイナーノートで流れる時間。
それを汲み上げてそっと差し出すようなエッセイを、書いてみたいと思った。
いや、正確に言うと、ひとりの編集者が、そんなエッセイを読みたい、と言ってきた。
(…)それまでもそれからも、求められてさまざまな媒体で時局発言をしてきた。文字どおり、『時局発言!』(WAVE出版、二〇一七)というタイトルの著書もある。社会の不条理に怒り、災厄に巻きこまれた人びとのゆくえに心を痛め、政府の無策に腹を立て、世の中の無関心を嘆いた。それが自分の役割だと思った。時局発言は、時局が変われば用済みになる。そのように自分のことばも使い捨てられていく運命だと感じた。
だがその表の顔の背後に、うずくまった小さな声があった。
(…)この本はそんな注文の多い「最初の読者」に宛てて書いた、マイナーノートのエッセイ集である。そしてこの最初の読者を通じて、あなたのもとへも、小さなつぶやきは届く。
本書はNHK出版のウェブマガジンに「マイナーノートで」と題して連載したエッセイをもとに、他の媒体に書いたものを含めて収録した。初出時から書き換えたものもある。
〈わたくし〉というものをつくった「通奏低音」から始まって、転調の「インテルメッツォ」がはさまり、「リタルダンド」とゆっくり降りてゆき、最後に「夜想曲」のなかにいくつもの挽歌が響く。
いつのまにか人生の多くが過去になった。いつのまにか多くのひとを見送った。
いつか、わたしもまた、見送られる側になるのだろうか。
わたしのために誰かが挽歌を歌ってくれるだろうか。
下り坂の風景は、なぜだか、なつかしい。これをわたしは知っている、という気分になる。
昔から夕景が好きだった。わたしが見たのと同じ夕景をわたし以前にも誰かが見て、わたし以後にもほかの誰かが見るだろう。そのときに、これがあの夕景なのね、と気がついてくれたらいい。
そんなあなたに、このマイナーノートがひっそり届けばよい、と祈りながら。
秋立つころに
上野千鶴子
◆書誌データ
書名:マイナーノートで
著者:上野千鶴子
頁数:256頁
刊行日:2024/10/28
出版社:NHK出版
定価:1980円(税込)
慰安婦
貧困・福祉
DV・性暴力・ハラスメント
非婚・結婚・離婚
セクシュアリティ
くらし・生活
身体・健康
リプロ・ヘルス
脱原発
女性政策
憲法・平和
高齢社会
子育て・教育
性表現
LGBT
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