
第27回女性文化賞決定のお知らせ
米田佐代子
2023年10月4日
第27回女性文化賞は、東京都新宿区所在の高麗博物館を拠点とする高麗博物館朝鮮女性史研究会に決まりましたのでお知らせいたします。
高麗博物館は、日本と朝鮮韓国の歴史を学ぶとともに、日本の侵略と植民地支配の罪責を反省し、民族差別のない共生社会の実現をめざす目的をもって2001年に開館した博物館です。これまでに数多くの展示を手掛け、関東大震災100年にあたる今年(2023年)は、新発見の「朝鮮人虐殺絵巻」などを公開する「関東大震災100年―隠蔽された朝鮮人虐殺」の展示を行っています。
高麗博物館朝鮮女性史研究会はここでボランティア活動をする方がたによって2012年発足、日本であまり知られていなかった朝鮮女性史を学び、同博物館の「詩と絵でつづる女性抗日独立運動家」展や『ひたむきに生きた朝鮮・韓国の女性たち』展などに取り組んできました。さらに2017年同博物館の『朝鮮料理店・産業「慰安所」と朝鮮の女性たち』展にあたって調査研究に尽力、2021年にその成果を同名の単行本として刊行しました。
本書では産業「慰安所」を、戦時体制のもとで植民地朝鮮から大量に動員された朝鮮人労働者を「性的に慰安するため朝鮮人女性が集められた施設」としています。それは、日本の植民地政策によって貧窮化した朝鮮農村から連れてこられた若い女性たちであったという点からも、日本の植民地化によって「植民地公娼制」が導入されたという点からも、日本の植民地支配の産物であることは論を待ちません。しかしその実態は、これまでほとんど知られておらず、資料も乏しく、生存者が名乗る機会もありませんでした。高麗博物館朝鮮女性史研究会は、資料探索と北海道から九州に至る全国をフィールドワークを重ね、「事実と確認されたこと」「資料で証明された内容」をもとに本書を編み、自らの意思に反して「性」を収奪され戦争に利用された朝鮮人女性たちの苦しみを、「日本軍『慰安婦』の女性たちの苦しみと根底で相通じる」ととらえています。
女性の性が戦争に動員された歴史については国際的にも取り上げられ、「日本軍『慰安婦』」をはじめ、これまで埋もれてきた「日本人慰安婦」、ソ連の対日参戦後満蒙開拓団で行われた「性接待」、さらにアメリカ占領軍進駐後日本政府が推進した「RAA」や米軍による強姦・性売買などさまざまな掘り起こしが始まっています。「産業『慰安所』」の研究も、歴史をジェンダーの視点で読み直すことによって、戦時下日本の植民地支配の過酷さを浮き彫りにした点で評価したいと思います。
高麗博物館朝鮮女性史研究会の取り組みが、埋もれた記憶に光を当てることによって歴史の真実を明らかにし、日本と朝鮮の歴史的和解と、戦争も差別も憎しみもない平和な世界への歩みにつながることを期待し、女性文化賞をさし上げる次第です。なお、『朝鮮料理店・産業「慰安所」と朝鮮の女性たち』には故人となられた方や研究会メンバー以外の方も執筆しておられます。その方がたを含めて感謝の意を表明したいと思います(追記 高麗博物館朝鮮女性史研究会は、同書改訂版をを2024年11月刊行、引き続き研究を続けておられます)。
米田佐代子(女性史研究者)
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女性文化賞は、1997年に高良留美子さんが個人で創設され、2016年まで20回にわたってお一人で続けてこられた手づくりの賞です。「文化の創造を通して志を発信している女性の文化創造者をはげまし、支え、またこれまでのお仕事に感謝すること」を目的とし、賞金50万円、記念品として竹内美穂子さんによるリトグラフ一点を贈呈してきました。2016年第20回をもって最終回にされるとき、高良さんの「志を継ぐ方を」というよびかけに応じて、米田が2017年の第21回から上記の趣旨と「一人で決める」というスタイルを引き継ぎました。
関連情報:
朝日新聞デジタル記事
朝鮮女性史研究会が産業慰安所の調査で女性文化賞 新宿の高麗博物館
2023年11月7日 17時00分
https://www.asahi.com/articles/ASRC741XHRBRUTIL027.html
東京新聞 WEB版
産業「慰安所」で「女性の性は戦争に利用された」 朝鮮人女性の暗い史実を地道に発掘、研究会に女性文化賞
2023年10月26日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/285910
高良留美子資料室サイト:
Kora Rumiko Reference room
https://korarumiko.wordpress.com/joseibunkasho/
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WANサイト関連記事:
高良留美子さん追悼―「女性文化賞」を引き継いだわたしから ◆米田佐代子 (女性史研究者・ミニコミ図書館運営メンバー)
https://wan.or.jp/article/show/9909
引き継がれる女性文化賞の志 ちづこのブログNo.111
https://wan.or.jp/article/show/7034
今年の女性文化賞が決まりました 最終回です
https://wan.or.jp/article/show/7015
第21回女性文化賞は千田ハルさん(釜石在住)
https://wan.or.jp/article/show/7625
第22回女性文化賞は久郷ポンナレットさん
https://wan.or.jp/article/show/8148
第23回女性文化賞を高橋三枝子さん
https://wan.or.jp/article/show/8760
第24回女性文化賞は、「『木の葉のように焼かれて』編集委員会」
https://wan.or.jp/article/show/10495
第25回女性文化賞は、長野県飯田市在住の相沢莉依さん
https://wan.or.jp/article/show/10495
第26回女性文化賞 東京出身の吉峯美和さん
https://wan.or.jp/article/show/10440
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