https://motion-gallery.net/projects/call-and-response より


「映画 プリズンサークル」の坂上香監督が、ラップを通して〈少年〉と〈市民〉が〈コール&レスポンスー呼応〉しあう実験ドキュメンタリー映画を、 来年公開を目指して編集中。

完成を目指すクラウドファンディングへの、ご支援をよろしくお願いします! https://motion-gallery.net/projects/call-and-response


日本初となる刑務所内での長期撮影、10年超の取材は本にもなりました。

坂上香監督が手がけた2019年公開の映画『プリズン・サークル』は、取材許可までに6年、撮影に2年。
初めて日本の刑務所にカメラを入れた、圧巻のドキュメンタリーでした。

映画「プリズン・サークル」に続く、坂上香監督の次の作品は、少年院と社会が舞台


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坂上 香監督

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坂上香監督からのメッセージ
https://motion-gallery.net/projects/call-and-response より部分転載

またまた、塀の中と外をめぐる、新たな映画にチャレンジしています。

社会的分断があちこちで進むこの時代、人と人の間に立ちはだかる塀(偏見や無理解、壊れた関係性)を少しでも低くするには、いったいどうしたらいいのかー。そんな問いから出発したドキュメンタリー映画『コール&レスポンス』(仮題)。『プリズン・サークル』の監督が、コロナ禍中に着手し、5年余りの間、大切に進めてきた映画です。

舞台は九州地方の3つの少年院。ラップを歌い、声を聴き合い、ゆるやかに関わり合うことを通して、少年が、市民が、化学反応を起こしていく。今の子どもが生きる現実は?大人の役割は?そんなことを考えるための映画を制作中です。
主な撮影現場は少年院ですが、様々な困難に見舞われ、声をあげられずにいる人は、この社会に多く存在します。そうした声なき声を前に、分断の社会を生き延びる方法を、具体的に考えていく素材になると確信しています。
来年(2026年)の完成・公開を目指して目下編集に励んでいますが、完成までの制作費(編集・取材費)がピンチです!旧作の興行収入やDVDの売り上げ、寄付に加え、個人の持ち出しでなんとかここまでやってきましたが、追加取材、スタジオ編集費、音楽関連費、関係者へのWIP(ワークインプログレス=中間試写)など、完成および公開までにかかる費用のメドが立っていません。どうか皆様、完成に至るまでの制作費のご支援をお願いいたします!

始まりは、国内の刑務所を舞台にした初のドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』。2020年度の文化庁・文化記録映画大賞を受賞したこの作品では、更生プログラムのプロセスを2年間撮影するなかで、罪を犯す背景に何があったのかを探っていきました。罪を犯した人が主人公で、しかもブラー(映像で顔を隠す効果)だらけ。一体誰が見てくれるんだろうと不安でしたが、封切りから6年経つ今も、各地で上映・反響が続いています。
封切り後から各地で聞こえてきたのは、こんな声でした。
――私は、塀の向こう側について何も知らなかった。
――私も、あのサークル(話の輪)に入って、語り合いたい。
――どうすれば、塀の中と外を近づけることができるのですか?

塀の中を知らない。当然です。一般に、日本は「罪を犯した人」に厳しいと言われていますが、そもそもこの国の矯正施設(刑務所や少年院)ではアクセスが極度に制限されているため、市民には彼らのことを知る回路が閉ざされているといえます。それこそが、私たちを無関心にさせている大きな要因だと実感してきました。
「自分も輪の中で話したい」というリアクション、これも実は、わからなくもない。刑務所のみならず、本音で語り合える場が社会のなかになさすぎる。映画が描く塀の中の「対話のコミュニティ」については、開始から15年以上経つ今も、一ヶ所にとどまっています。
塀の中と外をいかに近づけられるのか? これは困難、かつ重要な課題です。
いずれにせよ、映画だけでは、こうした観客からのニーズに応えることはできません。

そこで、ささやかな実験を、観客の皆さんと行ってみることにしました。
2020年3月、横浜で行ったラップ・ワークショップです。話を持ちかけてきたラッパーFUNIに呼応して、観客20名(10代〜70代)と一緒に、それぞれがラップを作って歌うという試みを行ったのです。たった2時間で、初対面の参加者は自らを歌い、なんともいえない「共感」や「連帯感」のような感覚が生まれたこと自体が、私にとっては衝撃でした。
参加者の一人として思ったのは、ラップのハードルの低さと可能性でした。韻なんて踏まなくったっていいし、勇ましくなくたっていい。ぼそぼそつぶやいても、声が震えていたって全然構わない。相手をディスる(ののしる)ことがラップなんじゃない。むしろ、お互いを励まし合うことができるのではないか?
ラップといえば、サグ(ワル)な若者のカルチャー。
フェンスに囲まれた少年院の少年たちが、ラップを作り、歌ったら?
(彼らは、本音を語るだろうか?加害少年としてしか見られない彼らは、今までどんな環境で、どんな思いで、生きてきたのだろう?)
それを、フェンスの外の市民が聴いて、さらに返事をラップで返したら?
(市民は耳を傾けてくれるだろうか? 大人はどんな思いを抱き、どんな風に歌うのだろう?)
で、それを映画にしたら!?
(観客は呼応してくれるだろうか?)
妄想が暴走して、規格外の企画になって(あ、韻踏んでるー笑)、ダメ元で、旧知の少年院長に企画書を見せたら……

「面白い!やろう、やろう!でも、半年待ってほしい」
その言葉どおり、半年後に生まれたのが今回の実験的映画プロジェクトでした。
なぜ実験的?
だって、誰もやったことがないから。結果がわからないから。実は、海外の矯正施設では、ラップを使ったプログラムは数えきれないほど存在します。私自身もそうした現状を取材して原稿や論文を書いてきました。
でも、塀の外の市民と少年院の少年がラップで呼応し合うプログラムなんて、未だ聞いたことがありません。しかも、一般市民(ラップの素人)となんて、たぶん世界初!しかも始まったのは、あのコロナ禍の最中です!

塀の中と外は呼応できるのか!?

映画「コール&レスポンス」では、2020年〜2024年の5年間に、九州地方の3つの少年院で行ったワークショップの様子を描きます。メーン講師は、ラッパーFUNIです。
世間はいいます、非行少年は加害者だと。否定はできません。実際に他者に被害を加えた少年たちもいます。犯罪被害者へのケアは重要であり、十分ではないことはこれまでも指摘されてきました。ただ、非行少年たちの多くも、実は様々な被害にあってきていることも事実です。もちろん、被害を受けた人が、全員加害者になるわけでもありません。
少年院に至った彼らが自らの加害に目を向けるには、時間とプロセスが必要です。まず、自分の被害を受け止めるところからしか始まらない、というのが今までの取材で確信してきたことの一つです。
ラップやワークショップが問題を解決するわけではありません。ただ、様々な制約や問題があるなかで、確実に言えるのは、「悪」として見なされてきた彼らが、ラップを通して、他者との交わりを通して、痛みをさらけだす瞬間や、変わっていく過程の一部を、カメラが捉えているということです。
少年院に限らず、理解されず、葛藤を抱え、声にできない若者たちは、社会の至るところに存在します。分断された社会で、いかに共存を可能にできるのか。それを具体的に考えるための素材になると信じて、現在映像を紡いでいるところです。

市民が関わるということ

本映画のもう一つの特徴は、市民との関わり。これまで社会との接触を避けてきた少年院ですが、今回3つの施設では、それぞれの条件や方法で、市民に門戸を開いてくれました。
各施設で参加者として、サポーターとして、関わってくださった市民は20代から70代で様々な背景を持った、幅広い層です。ラップについても聞いたことがないという人から、ラップ好きまで色々。はたして彼らはどの様な反応を見せるのでしょうか?
私は30年余り、加害と被害について、そしてその連鎖を断ち切る方法についてずっと考えてきました。国内のテレビ番組で、回復共同体(TCー対話ベースの更生プログラム)や修復的司法(RJー被害者を中心に置いた当事者の対話)を紹介したのは1990年代半ばで、私の作った番組が最初だったといえます。
人が変わるためには何が必要なのかと問い、当事者に耳を傾け、考え、模索していく(実験を重ねる)こと。それこそが鍵だと痛感しています。
今回は、非行少年という当事者に注目した一つの実験です。ただし、少年院では会話に関して禁止事項だらけで、話す相手も限定されています。ですから、ラップという手法を使って、様々な背景や経験を持つ大人たちが、彼らに接近していこうというのがねらいです。

対話型編集(WIP)

すでに編集段階に入っていますが、私の編集過程はちょっと独特です。制作段階から、被写体や関係者、そして専門家や信頼できる人々にも開いて、映像を見てもらう場を作るからです。ワークインプログレス、略してWIPと呼びます。中間試写とか、制作過程の試写を意味しますが、これを頻繁に行います。
一つの理由は、編集作業は基本的に私一人で行っているため、他者の目が必要だということ。毎回参加者とディスカッションします。もう一つの理由は、被写体の方を不本意な形で苦しめたくないという思いからです。ワークショップでは、皆パーソナルな話をします。映画になって公開されるわけです。映像は暴力にもなります。だからこそ、自らをさらしてくれた被写体に向き合うことは制作者ができる、せめてものことだと思うのです。
ただ、WIPで出たすべての意見を取り入れるわけではありません。作り手と映される側、そして信頼する関係者が、それぞれどう感じるのかを、話し合いながら作っていく過程自体が大事だと思うのです。もちろんすべての映画にWIPが有効だとも必要だとも思いません。あくまでも私流の対話型編集なのです。
また、これをお読みの方のなかには、映画作りに関心があるけれど、忙しくてどっぷりは無理という方もいらっしゃると思います。「市民プロデューサー」というコレクターの形を通して、WIP参加も可能です。ぜひご検討ください。(詳しくはリターンの欄をご覧ください)
完成は2026年春を目指しています。

坂上 香/監督・プロデューサー・編集・撮影  ドキュメンタリー映画監督/一橋大学客員准教授/NPO法人out of frame代表。高校卒業と同時に渡米、留学。南米でのフィールドワークを経て、ドキュメンタリー番組制作の道へ。HIV/AIDSに母子感染した子ども達の日常を描いた番組でATP新人賞受賞。文化庁優秀賞、ギャラクシー賞大賞等、数多くの賞を受賞。暴力の加害や被害、回復をめぐる番組や著書も多数。2001年TV界を脱し、初の自主製作映画「Lifers ライファーズ 終身刑を超えて」(2004)でニューヨーク国際インディペンデント映画祭海外ドキュメンタリー部門最優秀賞受賞。『プリズン・サークル』は文化庁文化記録映画大賞を受賞。主な著書:『ライファーズ 罪にむきあう』(みすず書房 2012)、『プリズン・サークル』(岩波書店) 『根っからの悪人っているの?被害と加害のあいだ』(創元社)『ジャーニー・オブ・ホープー被害者遺族と死刑囚家族の回復への旅』(岩波現代文庫)など。依存症回復施設や矯正施設などで表現ワークショップを主催し、大学で映像や人権に関する講義も担当。今回はワークショップ全体のコーディネートも担当した。


〜〜WANサイトより〜〜

第56回:wan上野ゼミプリズンサークル上映会 感想 https://wan.or.jp/article/show/10289

<坂上香監督劇場公開3作品>
Lifers ライファーズ 終身刑を超えて(2004)予告編 ▶️ https://youtu.be/SdmAO4GUDQU
トークバック 沈黙を破る女たち(2014)予告編. ▶️https://youtu.be/OR5qE3LCuu8
プリズンサークル(2019) 予告編 ▶️https://youtu.be/6lHlaX7VZA0

<坂上香 主な著作>
ライファーズ 罪に向き合う(みすず書房、2012年8月)
アミティ・「脱暴力」への挑戦 (日本評論社、2002年2月)、坂上香/アミティを学ぶ会編 癒しと和解への旅 --犯罪被害者と死刑囚の家族たち--(岩波書店、1999年1月) プリズン・サークル(岩波書店、2022年3月) 根っからの悪人っているの?: 被害と加害のあいだ (創元社 2023) ジャーニー・オブ・ホープ──被害者遺族と死刑囚家族の回復への旅 (岩波現代文庫 2024/12/17)

プリズン・サークル

著者:坂上 香

岩波書店( 2022/03/24 )