詩人の高良留美子さんが1997年に個人で創設された「女性文化賞」を2017年の第21回から引き継ぎ、毎年1回「志を発信している女性の文化創造者」に手づくりの賞をさし上げてきました。
出来ることなら後1年生き延びて「第30回(米田の10回目)」を出したいと思っていますが、できるかどうか。来年は平塚らいてう生誕140年です。「米田佐代子の生きた道と平塚らいてう」を書き残すしごとも残っています。国内外ともに戦後の平和主義は何であったかと歯ぎしりする思いですが、声を上げ続けて行きたいと思っています。
2025年12月10日世界人権デーに
米田佐代子

第29回女性文化賞決定のお知らせ
第29回女性文化賞は、松原文枝さんに決まりましたのでお知らせいたします。
松原さんは、1991年テレビ朝日入社後ドキュメンタリー番組の分野で活躍してこられましたが、2019年放送の「史実を刻む―‟戦争と性暴力“」をベースに、2025年映画監督2作目になる映画『黒川の女たち』を公開、同年著書『刻印 満蒙開拓団黒川村の女性たち』(角川書店)を出版されました。
岐阜県の黒川開拓団は、1930-40年代に国策によって満州の地に送り込まれた開拓団の一つです。開拓というが、内実は現地住民の住まいや耕作地を強制的に安く買い上げるという「侵略」でした。1945年ソ連の満州侵攻と日本の敗戦、そして日本の軍隊は開拓民を守らずいち早く撤退してしまうという状況の中で略奪や暴行が横行、開拓団のなかには「集団自決」を迫られるところもありました。黒川開拓団は「生きて帰国するために」とソ連軍に護衛を依頼し、引き換えに「女性を提供」したというのが「性接待」の実態です。15人の女性が差し出され、病気で4人の女性が帰国できずに亡くなりました。帰国した女性たちは「口外しない」ことを要求され、開拓団幹部からの謝罪もありませんでした。1982年、亡くなった4人の女性の慰霊のために「乙女の碑」と書き添えた地蔵菩薩が建立されましたが一言の説明もないままでした。
松原さんは「性接待」という名の性暴力の実態と、被害を受けた女性たちの帰国後の苦しみとともに、「絶対に公表するな」と言われても沈黙せず、「なかったことにはできない」と手を取り合って事実を語り続けた苦闘を経て、戦後73年の2018年、開拓団の次世代にあたる方がたの努力で事実と反省を記した碑が建立されるまでを克明に取材し記録しました。それは被害を受けた女性たち自身が「人間としての尊厳」を回復する過程であり、戦争に対する反省と告発の意思表示でもあったと松原さんは受け止めています。「この過程を取材できたことに立ち会えたこと」を「戦後80年を迎えて記憶が風化していく中で、いかに歴史に向き合い、継承していくか」が問われた経験だった、と。悲痛な体験を「なかったことにしない」ために訴え続けた女性たちの真摯な姿勢があり、それを「歴史認識の在り方」として受け止めた松原さんの共感と連帯の精神があって生まれた映画『黒川の女たち』と著書『刻印』を高く評価したいと思います。同時に、苦しみながらも「同志やで」「戦争は駄目」と語り合う女性たちを支えたご家族の方がた、さらに現在黒川分村遺族会会長の藤井宏之さんをはじめとする戦後世代の方がたがこの認識を共有し、4000字に及ぶ「碑文」を刻んで歴史を継承されたことにも大きな意義があると思います。
さまざまな困難がありながら、女性が声をあげることで地域に生まれた連帯と平和を求めるこころざしを「人と人のつながり」のなかに見出していった松原さんに女性文化賞をさし上げる次第です。
なお副賞として竹内美穂子さんのリトグラフを松原さんのほか藤井宏之さん藤井湯美子さんご夫妻にも記念として1点ずつさし上げたいと思います。映画に登場された女性の方がたはもうお会いできない世界に行ってしまわれた方が殆どですが、彼女たちの歴史を決して「忘れない」という思いを込めて。
2025年12月10日
米田佐代子(女性史研究者)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女性文化賞は、1997年に詩人・女性思想家の高良留美子さんが個人で創設され、2016年まで20回にわたってお一人で続けてこられた手づくりの賞です。「文化の創造を通して志を発信している女性の文化創造者をはげまし、支え、またこれまでのお仕事に感謝すること」を目的とし、賞金50万円、記念品としてリトグラフ作家の竹内美穂子さん(高良さんの娘さん)によるリトグラフ一点を贈呈してきました。2016年第20回をもって最終回にされるとき、高良さんの「志を継ぐ方を」というよびかけに応じて、米田が2017年の第21回から上記の趣旨と「一人で決める」というスタイルを引き継ぎました。

松原文枝(まつばら・ふみえ)プロフィール
1991年テレビ朝日入社。政治部・経済部記者。「ニュースステーション」、「報道ステーション」ディレクター。政治、選挙、憲法、エネルギー政策などを中心に報道。2012年にチーフプロデューサー。経済部長を経て現在、ビジネスプロデュース局ビジネス開発担当部長
2019年「独ワイマール憲法の教訓」で緊急事態条項に警鐘を鳴らす。ギャラクシー賞テレビ部門大賞
2019年「黒川の女たち」のベースとなったドキュメンタリー番組「史実を刻む-‟戦争と性暴力”」放送。国際フィルム・ビデオ祭で銀賞。
同年放送ウーマン賞
ドキュメンタリー番組「ハマのドン-‟仁義なき闘い”」(2021、22)でテレメンタリー年度最優秀賞、放送人グランプリ優秀賞、World Media Festival銀賞など
2023年、初めての監督作品となるドキュメンタリー映画『ハマのドン』公開
2025年、監督2作目の映画『黒川の女たち』公開
同年『刻印 満蒙開拓団黒川村の女性たち』(角川書店)刊行
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『黒川の女たち』案内(オフィシャルサイトより引用)
解説・あらすじ
戦時下の満州で黒川開拓団の女性たちに起きた「接待」という名の性暴力の実態に迫ったドキュメンタリー。
1930~40年代に日本政府の国策のもと実施された満蒙開拓により、日本各地から中国・満州の地に渡った満蒙開拓団。日本の敗戦が濃厚になるなか、1945年8月にソ連軍が満州に侵攻し、開拓団の人々は過酷な状況に追い込まれた。岐阜県から渡った黒川開拓団の人々は生きて日本に帰るため、数えで18歳以上の15人の女性を性の相手として差し出すことで、敵であるソ連軍に助けを求めた。帰国後、女性たちを待ち受けていたのは差別と偏見の目だった。心身ともに傷を負った彼女たちの声はかき消され、この事実は長年にわたり伏せられることになる。しかし戦争から約70年が経った2013年、黒川の女性たちは手を携え、幾重にも重なる加害の事実を公の場で語りはじめた。
そんな女性たちのオーラルストーリーを、「ハマのドン」の松原文枝監督が丁寧に紡ぎ出す。俳優の大竹しのぶが語りを担当。
2025年製作/99分/G/日本
配給:太秦
劇場公開日:2025年7月12日
オフィシャルサイト
第29回女性文化賞 米田・竹内プロフィール
米田 佐代子
1934年東京生まれ。東京都立大学人文学部(史学専攻)卒業後、同大学助手を経て1990山梨県立女子短期大学教授、2000年3月定年退職。専攻は日本近現代女性史。平塚らいてうを中心に近代日本の女性運動と女性思想を研究。
退職後NPO法人平塚らいてうの会会長として信州上田に平塚らいてう記念施設「らいてうの家」建設に全力投球し、2006年オープンと同時に同館長に就任、「人と自然の共生」をモットーに「平和・協同・自然のひろば」をめざし活動、2022年会長と館長をともに退任。一人の自由人として、らいてうの平和思想を中心に新しい視点から研究したいと努力中。主な編著書に『平塚らいてう―近代日本のデモクラシーとジェンダー』(吉川弘文館)『金いろの自画像―平塚らいてう ことばの花束』(大月書店)『満月の夜の森で―まだ知らないらいてうに出会う旅』(戸倉書院)『女たちが戦争に向き合うとき』(ケイアイメディア)『子どものとき憲法に出会った』(かもがわ出版)『平塚らいてうと現代―女性・戦争・平和を考える』(吉川弘文館)など多数。近刊予定 共著「行き着くところまで行ってみる―米田佐代子が語る人生とらいてう」(ドメス出版)。
2016年12月、詩人高良留美子さんが1997年独力で創設した「女性文化賞」を引き継ぎ、2017年12月第21回から「個人の手づくり」で継続中。第21回(2017年)は釜石市在住の千田ハルさん、22回(2018年)は平塚市在住の久郷ポンナレットさん、23回(2019年)は旭川市在住の高橋三枝子さん、24回(2020年)は広島の『木の葉のように焼かれて』編集委員会、25回(2021年)は飯田市在住の相沢莉依さん、第26回(2022年)は東京出身で現在山梨県忍野村在住の吉峯美和さん、第27回(2023年)は東京の高麗博物館朝鮮女性史研究会、第28回(2024年)は珠洲市在住の坂本菜の花さんに贈呈。
竹内 美穂子
多摩美術大学絵画科油画専攻卒業。フランスへスケッチ旅行を経てリトグラフ制作の道へ。
第80回(2003)、第83回(2006)春陽会奨励賞受賞。スペイン美術賞展、東京国際ミニプリントトリエンナーレ、CWAJ現代版画展、版画協会展、FEI PRINT AWARD、山本鼎版画大賞展(2015)など出品。2015年からギャルリー志門「文学と版画」展―文学へのオマージュへ毎年出品。個展、グループ展多数。 「光や空間、あるいは人間の温かい情景を表現したい」と制作に取り組んでいる。
1997年に母の高良留美子が創設した「女性文化賞」に毎回副賞として作品を提供し。2017年に米田佐代子が継承してからも続ける。2021年12月高良留美子死去後、2022年「高良留美子全詩上下巻」土曜美術社販売を刊行、装丁用作品「Thinking in the shade of a tree」を提供。同年「高良留美子資料室」を開設、著作をはじめ収集された文献や資料等を公開中。2025年から留美子の姉故 高良真木が画家であり、娘 美穂子も長くリトグラフという版画を発表してきたことから、資料室のテーマを<「ことば」と「絵」>に。月一回オープンデー開催。HP高良留美子資料室https://korarumiko.wordpress.com/ 。
現在日本美術家連盟会員、春陽会版画部会員。
********************
WANサイト関連記事:
高良留美子さん追悼―「女性文化賞」を引き継いだわたしから ◆米田佐代子 (女性史研究者・ミニコミ図書館運営メンバー)
https://wan.or.jp/article/show/9909
今年の女性文化賞が決まりました 最終回です
https://wan.or.jp/article/show/7015
引き継がれる女性文化賞の志 ちづこのブログNo.111
https://wan.or.jp/article/show/7034
第21回女性文化賞は千田ハルさん(釜石在住)
https://wan.or.jp/article/show/7625
第22回女性文化賞は久郷ポンナレットさん
https://wan.or.jp/article/show/8148
第23回女性文化賞を高橋三枝子さん
https://wan.or.jp/article/show/8760
第24回女性文化賞は、「『木の葉のように焼かれて』編集委員会」
https://wan.or.jp/article/show/10495
第25回女性文化賞は、長野県飯田市在住の相沢莉依さん
https://wan.or.jp/article/show/10495
第26回女性文化賞 東京出身の吉峯美和さん
https://wan.or.jp/article/show/10440
第27回女性文化賞 高麗博物館朝鮮女性史研究会が受賞しました
https://wan.or.jp/article/show/11642
第28回女性文化賞は、坂本菜の花さんに決まりました
https://wan.or.jp/article/show/11631
慰安婦
貧困・福祉
DV・性暴力・ハラスメント
非婚・結婚・離婚
セクシュアリティ
くらし・生活
身体・健康
リプロ・ヘルス
脱原発
女性政策
憲法・平和
高齢社会
子育て・教育
性表現
LGBT
最終講義
博士論文
研究助成・公募
アート情報
女性運動・グループ
フェミニストカウンセリング
弁護士
女性センター
セレクトニュース
マスコミが騒がないニュース
女の本屋
ブックトーク
シネマラウンジ
ミニコミ図書館
エッセイ
WAN基金
お助け情報
WANマーケット
女と政治をつなぐ
Worldwide WAN
わいわいWAN
女性学講座
上野研究室
原発ゼロの道
動画





