マガジン9 https://maga9.jp/ の定期掲載コラム「雨宮処凛がゆく!」第776回 https://maga9.jp/260923-2/ を許可を得て転載

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マガジン9「雨宮処凛が行く!第776回」:
「身を切る改革」と政治家が言うたびに、こっちが切られる謎〜初心者でもわかる、「議員定数削減」のヤバさ。の巻
By 雨宮処凛 2026年9月23日
https://maga9.jp/260923-2/ より転載
「国会」を擬人化したら、それはどんなヴィジュアルだろう?
頭に浮かぶのは、高そうなスーツに身を包んだ高齢の男性だ。背景は国会議事堂とかよりも赤坂の料亭とか、世襲に欠かせない「知名度のある父親の顔・名前」だろうか。
そんなヴィジュアル、国会の実態と決して遠くないはずだ。何しろ国会議員における男性の割合は約8割。今年2月に当選した衆議院議員の平均年齢は54.7歳。
平均年齢は想定していた以上に低いが(もっと高いと思ってた)、国民を代表する存在として、それはだいぶ偏っていないだろうか。
何より女性が少なすぎる。若者の割合もだ。ちなみにこの国の平均年齢は国会議員平均より少し若く、約50歳。
庶民との生活実感もまったく違う。例えば民間給与実態調査によると、民間の平均給与は500万円弱だが、国会議員の平均所得は衆参合わせて3000万円ほど。
また、厚労省の調査によると日本の障害者は推計で人口の9.3%だが、少し前まで国会議員に障害者はほぼゼロ。
世襲に関しては、今年2月の衆院選に立候補した約1300人のうち、124人が世襲。うち92人が自民党だったという。この30年ほどの自民党歴代総理を振り返っても、世襲ではないのは菅義偉氏と現在の高市早苗首相のみ。
突然そんなことを書いたのは、自民党と日本維新の会が、衆議院の議席定数を削減する法案を共同提出、秋の臨時国会での成立を目指しているからだ。
その内容をものすごく簡単に言うと、比例の45議席を減らすというもの。
このことについて、あなたはどう思うだろう?
「国会で居眠りばっかりしてる議員なんかいらないから賛成」
「国会議員の給料は高すぎる、コスト削減は大歓迎」
そう思う人も少なくないかもしれない。実際、さまざまな世論調査を見ても半数以上が「賛成」という結果になっている(読売新聞の6月の調査で賛成67%、時事通信の調査で賛成53%など)。
「そもそも日本の国会議員は多すぎる」という声もある。が、果たしてホントに日本の国会議員は多いのだろうか?
ここにデータがある。『i女のしんぶん』2026年9月25日号に掲載された「議員定数削減は『棄民』の象徴 切られるのは私たち」と題された三浦まりさん(上智大学法学部教授)へのインタビューだ。
それによると、人口100万人あたりの国会議員は日本は5.7人で、193カ国中172位。OECD諸国の平均は27.9人だという。ちなみにイタリアは10.2人、フランスが13.9人、イギリスは21.1人。
しかも小選挙区は現職議員が有利なのに対して、比例は女性を含む新人が擁立されやすい。今年2月の衆院選で当選した女性の衆院議員は68人だが、そのうちの40人が比例選出。
そんな衆議院議員だが、現在、女性比率はわずか14.6%。比例議席が45も減らされてしまったら、女性議員がさらに減らされる可能性大、なのである。
女性議員だけではない。さまざまなマイノリティや小さな政党の議員が減ることが予想される。結果、「世襲」「高齢」「男性」という偏った属性の議員ばかりが誕生し、「多様性」の真逆をひた走ることになるのではないか──。
そんな危機感に駆られた女性たちが声をかけあい、「議員定数削減反対」の声を上げようと模索し始めたのが7月末頃。私もお声がけ頂き、議員定数削減反対の「呼びかけ人」に加えて頂いていた。そうして9月15日、40人の呼びかけ人のうち20名以上が参議院議員会館に集結。「議員定数削減反対! 緊急アクション」の記者会見が開催されたのだ(サイトはこちら。記者会見はこちらからご覧頂けます)。
記者会見場は、「圧巻」の一言だった。何しろ議員会館のテーブルには、「泣く子も黙る」と言いたくなるような錚々たる面々がズラリと並ぶ。以下、この日集まった呼びかけ人だ(敬称略、五十音順)。
浅倉むつ子、雨宮処凛、池田香代子、上野千鶴子、加藤陽子、斎藤正美、杉浦ひとみ、高井ゆと里、田中優子、勅使河原真衣、林陽子、久道瑛未、菱山奈帆子、福田和子、前田佳子、三浦まり、山崎摩耶、山下泰子、和田静香。オンラインで登場したのは小川公代、平井美津子(他にも何人かオンラインで参加されていましたが、すみません、お名前が確認できず……)。
各界の重鎮であり、この国の「モノ言う女」たちが勢揃いした議員会館には時空が歪むような独特の「圧」が発生。漫画だったら「ゴゴゴゴゴ……」という地響きの効果音が描かれそうなほどに全員がラスボス並み。集まっただけで天変地異さえ起きそうな磁場を生み出しているではないか。
そんなところに私などがいていいのか? という思いがありつつも、こういう運動って高学歴女性に偏りがちなので、高卒・バンギャ・職歴はフリーターのみという私が加わることで、多様性が広がると思うことにした。
そうして杉浦ひとみさんが開会の挨拶を述べたあと、三浦まりさんがなぜ反対するのかを説明。議員定数削減は「身を切る改革」でもなんでもないことを話した。
「無駄の削減であるという誤解もありますが、国会議員は私たちの多様な声を代表する存在です。それが45人、少数意見が代表しやすい比例代表で削減されれば、切られるのは私たち主権者の側です。比例が減れば、女性を含むマイノリティが議席を得にくくなります」
そこから呼びかけ人たちが、それぞれの立場からなぜ議員定数削減がいけないかをスピーチ。時間はなんと、1分。これだけ著名な女性たちを集めて1分しか喋らせないという、眩しいほどの「贅沢使い」だ。
口火を切った福田和子さんは緊急避妊薬の薬局販売などの実現に向けたアドボカシーを取り組んできたことに触れ、「高齢男性に偏る政治によって、女性、若者、障害者、LGBTQ+はじめ個人の切実な声がいかに政治に届きにくいか」を指摘。
「クオータ制を推進する会」代表の山崎摩耶さんは、有権者の52%が女性なのに、国会議員に30代以下の若者と女性がいかに少ないかに触れ、上野千鶴子さんは「身を切る改革というなら、政党助成金の削減とか企業献金の廃止をやってくれ。何より裏金問題を解決してほしい」とスピーチ。
私はと言えば、19年以降に誕生した重度障害がある国会議員について触れた。いずれも比例で当選した舩後靖彦議員、木村英子議員、天畠大輔議員だが、当選後の3人がどれほど障害者をはじめとしてマイノリティの受け皿となってきたかを近くで見てきたからだ。
受け皿となるだけでなく、3人は着実にその声を国会に届け、現実を変えていった。
変わったことはいろいろある。例えば木村英子議員の質問によって、新幹線の車椅子席が増設されたことは多くの人が知っているだろう。東海道、北陸、東北、西九州、山形新幹線で車椅子席が1〜2席から4〜6席に増設され、また多目的トイレの設置基準も変わった。
それだけではない。この7月にも、木村議員の質問を受けて厚労省から障害者の入院支援に関する新たな通知が出ている。
日常生活に介助が必要な障害者が病気で入院する際、その人を熟知した介護者の付き添いが必須である。人によって障害が違うので、熟知していない人に介助されるとコミュニケーションが取れずに病気が悪化したり、最悪、命を落としてしまうこともあり得る。
よって長年にわたり、障害者団体などが介護者の付き添いを認めるよう要望。16年には厚労省から通知が出され、入院時の介護者付き添いが認められた。が、その通知ではフォローされない部分について木村議員が6月の決算委員会で質問。すると、7月1日に厚労省が新たな通知を出したである。
これこそが、マイノリティの声が国を動かしているという実例ではないか。
一つひとつは小さなことかもしれない。しかし、当事者によっては命に関わることである。そして障害当事者である木村さんが議員にならない限り、おそらくここに光が当たることはなかった。比例議席の削減は、こうした多様な、そしてかけがえのない声を奪うことに直結するだろう。
さて、どの呼びかけ人のスピーチにも深く頷かされたが、この日驚いたのは、大阪からオンラインで登壇した歴史教育者・平井美津子さんのスピーチ。
ご存知、維新の会が与党の大阪府だが、そんな大阪府議会ではひと足先に「身を切る改革」と称して定数削減が行われている。2011年から段階的に始まり、109人が88人となり、今や79人。維新の会は「日本一スリムな議会」と強調するが、議会の中で維新にモノを言える議員は圧倒的少数。ちなみに23年の府議選で維新が得たのは全有権者の26.7%の票だが、70%近くの議席を獲得しているという。
一人区の拡大と定数削減が強行された結果、「大阪府議会の中では、首長が提案したことが、ほとんどなんの議論もないまま通されています」(平井さん)
結果、万博にあてこんでさまざまな大型開発がされる一方で、公立高校は30校以上廃校に。それだけでなく、国民健康保険料は日本一高くなっているという。維新の会の議員は「国保逃れ」をしているというのにだ。
定数削減によって、府民の声が政治に届きにくくなっている大阪。
話を聞いて、コロナ禍、大阪府は死者数が全国最多だったことを思い出した。その背景には2000年から保健所が減らされてきたことがあるとも言われている。
「身を切る改革」。耳に心地よい言葉だ。しかし、その実態は「身を切られる改革」。切られるのは私たちの声であり、政治への回路に他ならない。「自分たちが身を切る」という政治家のパフォーマンスに拍手喝采を送っていたら、あとで莫大なツケを払わされるのは私たちだ。
ここまで読んで、その危険性がほんの少しでもご理解頂けただろうか。
集会の翌日、世界経済フォーラムがジェンダーギャップ指数を発表した。結果はご存知の通り、145ヶ国中117位。
女性初の首相がもてはやされるその裏で順位は一位しか上がらず、女性首相のもと、選択的夫婦別姓の実現は遠のいていくばかり。
それだけではない。4年以上にわたる物価高に苦しむ庶民を差しおいて、国会では国旗損壊罪成立や皇室典範改正など、「今それやる?」的なことばかりがまかり通る。最近では、内閣広報室が27年の概算要求で26年度の10倍となる72億円を要求したことも大きな非難を浴びた。
このような中、さらに女性議員が減らされ、小さな声が潰されるような議員定数削減に、私は断固、反対する。
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10月6日には緊急院内集会が開催されます。
詳しくは以下。
「議員定数削減反対! 緊急アクション 院内集会」
日時:10月6日(火)17〜19時
場所:参議院議員会館 講堂・オンラインで参加可
参加申し込み先:https://forms.gle/G6zrNTvRh4LwpawZ6
雨宮処凛
あまみや・かりん:1975年、北海道生まれ。作家。反貧困ネットワーク世話人。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)など50冊以上。24年に出版した『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)がベストセラーに。









