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声明「河野談話」を再認識することで堅持し、「慰安婦」問題の真の解決を!
2012.09.10 Mon
橋下大阪市長、石原都知事の、日本軍「慰安婦」問題に対する侮蔑的発言について、「女性・戦争・人権」学会では声明文を発表しました。
HPアドレスは、以下の通りです。
http://www.war-women-rights.jp/
また、学会では来る10月28日(日曜)に、「フェミニズム・正義・グローバルな連帯――松井やよりの仕事を振り返る――」というテーマで大会を開催します。
2012年は松井やよりさん没後10年になります。本学会発足の1997年に開催されたシンポジウム「女性・戦争・人権をめぐって」に松井さんはパネリストの一人として参加され、本学会の重要性や研究者へ激励と期待についてお話されました。本学会の意義の一つとして、松井さんの一方ならぬ尽力によって実現した「日本軍性奴隷制度を裁く 女性国際戦犯法廷」(2000年)を理論や思想の面から支えていくというものがあり、会員は様々な場所でそれを実践してきました。
松井さんは日本軍性奴隷制度の被害者・サバイバーの方たちが求めた正義の確立に向けて多くの力を傾けただけでなく、沖縄やその他の地域における現代の軍隊と性暴力の問題や、アジアの平和運動家との連帯、フェミニストのグローバルな連帯などの面でも大きな貢献をされました。今年度の大会では、松井やよりさんの活動と思想について振り返り、まだ研究が進んでいない松井やよりさんの仕事について議論したいと思います。
会場●立命館大学 朱雀キャンパス(1階)多目的室
(等持院の衣笠キャンパスではありません)
13:30~17:30 シンポジウム「フェミニズム・正義・グローバルな連帯」
シンポジスト
・武藤一羊(ピープルズ・プラン研究所)
・高里鈴代(基地・軍隊を許さない行動する女たちの会)
・水溜真由美(北海道大学)
・コメント:秋林こずえ(立命館大学) ・司会:岡野八代(同志社大学大学院)
—————以下は、声明文です——————-
橋下徹大阪市長は、8月21日と24日の記者会見で、韓国の李明博大統領の竹島(韓国名 独島)訪問などについて、「従軍慰安婦という大きな課題がある」とした上で、政府の公式見解である「河野官房長官談話」について、「河野談話は日韓関係がこじれた一番の問題」として「単に(当事者の)証言があればいいということではない」と河野談話の信憑性を疑う重大な発言を行いました。さらに24日には、東京都の石原慎太郎知事が、「訳が分からず認めた河野洋平っていうバカが、日韓関係をダメにした」と記者会見で「河野談話」を批判し、さらに「ああいう貧しい時代には売春は非常に利益のある商売だった。貧しい人たちは仕方なしに、しかし決して嫌々でなしにあの商売を選んだ」と暴言を吐きました。こうした流れの中で、国会でも野田首相が河野談話に言及。「強制連行の事実を文書で確認できず、日本側の証言もなかったが、いわゆる従軍慰安婦への聞き取りから談話ができた。わが政権も踏襲する」と語るに及んで、韓国メデイアが猛反発し、この問題は既に世界的にも大きな波紋を広げ、領土問題と一体化して日本国内での偏狭的なナショナリズムに火をつけています。
自ら「大阪維新の会」を立ち上げた橋下大阪市長は、世論を賑わす弁論とパフォーマンスでマスメデイアを取り込んで、閉塞感の漂うねじれ国会に苛立つ民衆の関心を惹き、いまや次期政権の台風の目となり、難題が堆積する政治状況を一気に振りはらっていくかのような勢いにあります。しかし、じっさいの彼の弱者切り捨ての政策は、右よりの保守層を取り込みながら、社会状況をいっそう深刻化させています。人々の絆を分断し、格差社会保障やその他の公的施設に対する支援を打ち切るなど、社会の底辺にあえぐ人たちにさらに追い打ちをかけてきたことを、私たちはつぶさに見てきました。
今回、この橋下市長の発言が、石原都知事のそれと呼応し、さらに彼が安倍元首相とコンタクトを取っていることを見逃すことはできません。
1993年8月4日に発表されたいわゆる「河野談話」は、「慰安婦」問題について、軍の関与を認めた上で、朝鮮半島を含んだ各地での慰安婦の募集や移送などに関し、「甘言や強圧など総じて本人の意思に反して行われた」と述べ、強制性を認めた日本政府の公式見解として世界に示されました。それ以来、「慰安婦」問題を否定する立場の政界、言論界の一部からこの政府見解に対する攻撃が根強く繰り返され、河野談話は撤回の危機に晒されてきました。2006年、その急先鋒の一人である安倍晋三氏が総理大臣になるに及んで、河野談話撤回の危機はいっそう強まりました。
そうした危機の中、アメリカ合衆国では、マイク・ホンダ(マイケル・ホンダ)議員により「慰安婦」問題決議案が下院に提案され、議論が巻き起こりました。同時に、2007年4月、「かつて日本軍による強制性を裏付けるものはなかった」と発言した安倍首相(当時)は、その発言への世界的な抗議の嵐の中での訪米で、ブッシュ大統領(当時)や合衆国議員に会い、河野談話の継承、「慰安婦」問題に対する反省を述べることを余儀なくされました。
しかしその後、河野談話と提案された決議案に反対する日本の政治家や櫻井よしこ氏らがワシントン・ポスト紙(2007年6月14日付)に意見広告、”The Facts(事実)”を出し、「日本軍による意思に反した売春の強制を示す歴史的文書はない」とし、「慰安婦」は、「公娼制度の下で働く女性」だったと宣言。軍が女性たちを「強制的に拉致し、働かせた」ことを示す公式な文書がないことを盾に、「慰安所」内での性奴隷制度の実態や、元「慰安婦」の方々の真摯な訴えを完全に否定しました。
「狭義の強制性」や、「強制連行」に焦点を当てることで、河野談話を否定しようとするこうした日本側の主張が、2007年7月の合衆国下院議会での決議案可決、そしてオランダはじめ各国の「慰安婦」問題解決を求める決議その他の、国際的な運動へと広がっていきます。
安倍氏がその後健康上の理由で政権を投げ出したことはご承知の通りです。今、その彼が、かつて世界の前で自らも否定した「狭義の強制性」を振りかざす政治家とともに、政権を奪取しようとする権力欲が、見え隠れしています。
韓国政府が、韓国の憲法裁判所の判決に従って「慰安婦」問題を外交上問題にせざるをえなかった事情がありますが、今回の野田総理の答弁に見られるように、1965年の日韓条約で解決済み、「国民基金」ですべて解決済み、という一方的な見解だけで、日本政府は真摯に対応して来ませんでした。
私たちは、このように弱者の立場を踏みにじり、不都合なことについては相手の意向を理解せず、歴史的事実を踏みにじり、ひたすら自らの見解を押しつけるやり方で、ナショナリズムを煽動しようとする橋下氏や石原氏のやり方に、心底から抗議すると同時に、日本政府に対して、河野談話を再認識することで堅持し、「慰安婦」問題の真の解決を目指していくことを要望します。
2012年9月7日
「女性・戦争・人権」学会