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映画評:『湖のほとりで』 濱野千尋
2009.09.25 Fri
誰が犯人? というサスペンスならではの面白みも備えつつ、愛とは何かという重厚なサブストーリーを展開する。刑事以外のすべての登場人物が怪しく、かつ全員が善人に思えるというのがこの映画のとても良い特徴だ。死体の状況から、憎しみが動機ではなくむしろ被害者を愛していた者の犯行、と判断した刑事が聞き込み調査を重ねて事実に迫っていく。殺人の謎を解くキーワードが「愛」なので、犯人探しはとても切ない。夫は妻を、妻は夫を、親は子を、皆が互いを愛しているのになぜかうまくいかない、そんな不条理によって事件が起きている。よく考えたらこの状況は、ノンフィクションでもおかしくないくらい現実的だ。 登場人物の設定も充実していて、主人公の刑事には若年性認知症の妻がいたり、部下の女刑事は妊娠していたりと、命の終末と始まりについての喩えがきめこまやかに散りばめられている。
刑事が生真面目すぎて、観てて気詰まりなのは難点。
<あらすじ>
小さな村で殺人事件が起きた。被害者は誰からも愛されていた娘。湖畔に横たわる艶かしい死体には争った跡がなかった。老刑事は徐々に犯人に近づいて行く。事件解明にともなって、隠されてきた悲しい過去が暴かれる。
(はまのちひろ ライター)
(『新潮45』2009年7月号 初出)
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