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映画評:『ずっとあなたを愛してる』   上野千鶴子

2010.08.03 Tue

・・・長く続く愛だけが、傷んだ心を再生していく。

 
監督・脚本:フィリップ・クローデル
出演:クリスティン・スコット・トーマス、エルザ・ジルべルスタイン、セルジュ・アザナヴィシウス、ロラン・グレヴィル、フレディリック・ピエロ
配給:ロングライド

 子殺しの罪で収監され、15年の刑期を終えて出所したジュリエット。連絡が途絶えていたたったひとりの妹、レアが空港に迎えにくる。そのあいだに、娘との関係を絶った両親は亡くなっている。

 過去を隠して社会復帰しようとする姉。姉はいないものと思え、と両親に言われて育った妹。この映画ではだれもが傷を負っている。妹は姉の犯罪のトラウマから子どもを産むことを選択せず、ベトナムから来た養子を育てている。離婚歴のある保護観察官の男は、地球の裏側にある南米オリノコ川への個人的な夢を面接の場面で語りつづけ、ある日とつぜん自殺する。大学教師を職業とする妹の同僚は、刑務所教員だった過去があり、姉に関心を抱く。 なにかを隠しながら生きているひとたちの、もろくて壊れそうな日常のはりつめた緊張が伝わる。8歳と2歳のふたりの養女が無垢と純真の象徴だが、この子たちだって、外国へもらわれていかなければならない事情を抱えている。その上の子プチ・リスだけが、奇妙になじまない「おばさん」にずけずけと関心を示す。

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 『ずっとあなたを愛してる』って、なんてまあ、甘ったるいタイトルだろうと思った。それだけで腰がひけたが、この愛は男女の愛よりは、絶ちがたい絆で結ばれた家族の愛が主題だ。繊細なレアの姉への長く続く愛でもあるし、手にかけた息子へのジュリエットの決して弁解しない強い愛でもあるし、養女へのあふれるような愛でもある。このタイトルは同名のフランス民謡からとったというが、どことなく古雅なアコースティック・ギターの音楽もよい。

 それにしてもこの養女が、両親からなめるように愛されていることには感心する。監督フィリップ・クローデルの実生活上の養女を映画出演させたというが、自分が親から愛されていることを少しも疑わない子どもの大胆さがよく出ている。親とは似ても似つかないアジア人の少女は、フランスの社会でも平坦な道を歩むとは思えないが、これだけの「愛された自信」があれば、どこでも生きていけるだろう、と思えてくる。

 ジュリエット役のクリスティン・スコット・トーマスは『イングリッシュ・ペイシェント』にも出演したずばぬけた美女なのに、この映画では翳のある訳あり女をすっぴんで好演。各種映画賞の主演女優賞にノミネートされている。

 監督はちょいと知られた現代フランスの作家。原作を映画化したものではない。作家が映画をつくるというのは、小説にとって敗北なんだろうか…。

(初出 クロワッサンPremium 2010年2月号)








カテゴリー:新作映画評・エッセイ

タグ:映画 / 上野千鶴子

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