2012.10.30 Tue
わたしは、東京生まれ、東京育ち。わたしの母は、関西育ち。おかげで私は、東京の真っ黒なおつゆのうどんが食べられない。この間、ちょっと冷え込んだ日があって、あったかいおうどんを作った。きのこと、昆布でおだしをとって、ニンジン、三つ葉、買ってきた春菊の天ぷらをのっけて、最後に卵を落とす。さあ食べるぞと、ようやくテーブルについて、おつゆを飲んだ時、「!!!お母さんの味だ!」27歳になった日、母の味のうどんが作れるようになったのです。
私にとっての「おふくろの味」と言えば、トマトソースなんかもそう。幼い頃、父が長期出張でイタリアに行っていたことがあり、帰国後、すっかりイタリア料理にはまった父のため、以来、うちの家では、頻繁にトマトソースが出るようになった。小さい私にとって、そんなに美味しいものではなかったのですが、今では自分が食べたくて作るのです。例えば、ある日、ヒヨコマメ、ズッキーニ、ニンジン、玉ねぎを、少しだけカレー風味で、トマトソースと煮込みました。上にのっけた緑は、宮城県の自由農法で育てられたインゲン豆。近所でいつもお世話になっている、自然食のカフェが、にわか八百屋さんになって売っていたのです。このラタトゥイユ風に、カッテージ・チーズと、クスクスを添えて食べました。クスクスは、お湯に浸せばすぐに食べられるので、とっても便利でおいしい。フランス留学以来、大好きな食材です。
が、こういう食べ方は、カナダで出会ったモロッコの友達にすれば、そんなのはクスクスじゃない!そうです。そういって、クスクスの食べ方を見せてくれました。時間をかけて蒸らし食べるのですが、確かにその方が、水っぽくなくておいしい。
ヒヨコマメもフランスで出会った食材の一つで、カッテージ・チーズを食べるようになったのは、カナダ留学をしていた時。当時、フランス人の友達といつも一緒にいました。色々一緒に作って食べたけど、朝食にクレープを焼いて食べるなんてこともあった。
日本でイメージする豪華なフランス料理とは違って、彼女たちが作るものは、とってもシンプル。ワインビネガーとオリーブオイルをかけたサラダ、チーズ、パンというのが、普段の食事です。でもそれで、十分幸せ。彼女たちのそういう食習慣は、今ではわたしの食習慣になっている。パンと、ジャガイモ、カッテージ・チーズ、豆苗にパプリカ。ワインビネガーのかわりに、パプリカは、福島県の「かーちゃんの力プロジェクト」で買った、「いも床」で漬けたもの。ほんのり塩味、優しい甘味。飯舘村のカーちゃん、渡邉とみ子さんの知恵から生まれた、いも床。ここのところ、とっても重宝しています。
この日も、とってもおいしく食べさせてもらった。さっとゆでた宮城県のインゲン豆は、刻んで、いも床を少しだけ入れて、つけておいた。それと、岩手県山田町の「あかもく」という海藻の佃煮をあえた。隣は、母からおすそ分けの、切り干し大根。そのお隣は、「おつりはいらねーよって、言って!」とチャーミングなことを言うおじちゃんがやっている、近所の八百屋さんの糠漬け(きゅうりとカブ)。煮物は、ジャガイモ、ニンジン、ベジミートを、お醤油と昆布だしで甘辛く煮たもの。ベジミートは、煮物で食べるのが一番おいしい気がする。
関西風の母の味で育ったわたしの食卓には、色々な人たちの美味しい知恵が並んでいます。そして、あちこちで出会った懐かしい大切な人達の顔や声、一緒にいたテーブルの光景が浮かびあがります。それ全部をひっくるめて、わたしの味になっています。母の味!と思ったあのうどんつゆも、昆布とキノコだけでだしをとった。それは、フランス留学以来、お肉も魚も食べなくなった、わたしの味です。ありがたいことに、豪華ではないけれど、十分満ち足りています。
連載「晩ごはん、なあに?」は、毎月30日に更新の予定です。本連載の以前の記事は、以下からお読みになれます。
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