2012.11.25 Sun
無職になった私は夫にとってどうやら邪魔者らしい。
「亭主元気で留守がいい」とは、ひところ流行ったことばだが、その逆も言えるようだ。
私より3年前に定年退職し、フリーな生活を楽しんでいた夫は、「女房元気で留守がいい」と思っていた節がある。
私が定年退職し、家にいるようになると、夫は自分のペースを乱されるようで、何だか調子が狂ったみたいだ。
私たち夫婦は決して仲が悪いわけではないが、日常は基本的に別々の行動をとってきた。
お互い干渉もしない。というか、正確にいえば私は忙しくて干渉している暇がなかった。
ところが無職生活ともなると、一緒に家にいる時間が長くなり、互いに相手の行動が気になってくる。
「アンタはいちいちうるさいなぁ・・・」と夫は言うが、私だってそう思うのは同じこと。「アンタこそうるさい!どうやって草取りをしようが、私の勝手でしょうが・・・」と庭の草取りを巡って口論になる。きれい好きな夫は草取りの仕方を私に指南するが、いまさら「あーせい、こーせい」と言われても、「ウザイけど・・・」という気持ちしか湧いてこない。
リタイア後は夫婦一緒に仲良く優雅に質素に年金生活を楽しみましょう・・・なんていう高齢者向け雑誌の記事にあるような生活は、私たち夫婦には縁遠いようだ。
やっぱり、私たちは基本的に別行動だ。幸いにして家は古いながらも広さだけはあるので、日常的にはそれぞれの部屋を居場所にし、出かけるときは声をかけること、夕飯は一緒に過ごすこと、他はフリーにしようと約束し、半年くらいでなんとか落ち着いてきた。
家庭内別居とまではいかないが、「家庭内別行動」を選択し、私たち夫婦はバランスを保つことができそうだ。夫婦といえどもそもそも別個の人間。無理せずゆるやかにつながっていれば、それで充分である。
そんな調子の日常のなか、夫は陶芸教室へいったり畑仕事をしたりと、気ままな生活をそれなりに楽しんでいる。
さて、私は何から始めたらいいだろうか。
多忙なあまり後回しにしてきたことや、途中で辞めたことがたくさんある。
まずは、体力づくりとダイエットだ。
体重オーバーを放置してきた結果、38年間で15㎏も太ってしまった。年に400gずつ増えたことになる。ちりも積もれば山となるとはこのことだが、ダイエットするより、体の疲れを取ることの方が先だったからいたしかたない。
私は自分の家の周りをウオーキングすることにした。これならすぐできる。何回かまわっているうちに回数を忘れてしまうので、ビー玉を38個もち、1周すると1個ずつカゴにいれていく。全部済むと40分だ。これと食事制限でなんとか3㎏落ちた。
そして、歴史の勉強。大学の専攻は日本史だったが、38年間働いているうちにすっかり忘れてしまった。地元の郷土史研究会に入っていたが、子どもが産まれてからはやめてしまった。職場の仲間といっしょに勉強する「女性会」も立ち上げたが、これも続けられなかった。忙しくても続けていればよかったが、私は激務の部署に配属されるのが多く、毎日ヘトヘトだった。
何も続けられなくても仕方がなかったと自分を慰め、私は古典や歴史の講座へ通うことにした。
しかし、何だかかったるい。
私のような生活をしてきた女は、リタイア後優雅な生活を送るのは無理かもしれない。
何かをしていなければ気が済まない。達成感がないと、かったるい。夫のように気ままな生活を楽しむことがどうもできない。
質素な暮らしを心掛けていれば経済的には成り立つが、体にしっかりインプットされた多忙な日常の感覚がなんだか抜けきらない。
この感覚はいつまで続くのだろう。1年後、数年後、余生があるとすればだが、どう変化が現れるか、自分で自分を見守りながら生活していくより仕方がないだろうと、私は思うことにした。
連載「女の選択」は、毎月25日に掲載の予定です。以前の記事は、以下でお読みになれます。
カテゴリー:女の選択
タグ:老後