物語の舞台は、郊外に建つレトロな洋館「毬子(まりこ)アパート」。このアパートには、69歳から91歳までの7名の女性たちが、それぞれに部屋を借りて住んでいる。ある冬のこと、81歳の戸塚さん(目黒幸子)が亡くなり、空いた部屋に一人の男性が入居してきた。20年前に妻を亡くしたという、75歳の三好さん(ミッキーカーチス)だ。

ダンディな雰囲気を漂わせ、女性へのリップサービスも欠かさない三好さんに、毬子アパートの住人たちはおろか、大家の毬子さん(正司歌江)までが、すぐに魅了されてしまう。夫に先立たれ、つつましく暮らしている主人公・宮野さん(吉行和子)も、三好さんに流し目を送られると心穏やかではいられない。ふと、周りを見わたせば、昔バーのママだった横田さん(白川和子)は三好さんに速攻アタックをかけているし、里山さん(中原早苗)も三好さんに手を握られてまんざらではないようだ。いつも猫を抱いている最年長の北川さん(大方斐紗子)にいたっては、三好さんとすれ違いざま、衝動的に股間をわしづかみ(!)してしまう始末。一方で並木さん(原知佐子)だけは、女性たちが浮足立つようすを、ひとり斜に構えて眺めていた。

数日後、宮野さんは思いがけず、三好さんに言い寄られたはずみに彼とセクシュアルな関係をもってしまう。その瞬間に、仏間に飾っていた白百合が、音を立てて咲いた。この出来事が、宮野さんの心を晴れやかに愉しくする。しかし、これまた周りを見わたすと、なぜか皆、いつの間にか並木さんまでが、自分と同じように<キラキラ>しているではないか!やがて、三好さんの意外な過去や「人となり」が徐々に明らかにされていく。そして、彼を歓迎するささやかなパーティ―の席上で、三好さんの告白に女性たちがとった行動は、物語を予想外の方向へと運んでいくのだった――。

桃谷方子の同名の小説『百合祭』(2000年、講談社)をもとに作られた本作は、浜野佐知監督と脚本家・山崎邦紀のタッグによって、物語の結末が大胆に変更されている。『源氏物語』の光源氏のように振る舞う一人の男に女性たちが群がり、つぎつぎと「手玉に取られていく」ものの、最後は女性たち自らが大きく人生の舵を切って、自由なセクシュアリティを手にしていくラストは爽快だ。全編にただようユーモアにも、浜野監督の登場人物たちへの愛が感じられる。登場人物たち(つまり、高齢の女性たち)の性とセクシュアリティの自由を、監督自身が100%肯定しているからだろう。

わたしは、白雪姫のイメージにニヤリとし、大方斐紗子演じる北川さんの奇声や恍惚とした表情に大笑い。宮野さんの衝撃的な「肉球」発言には吹き出してしまった(と、書いていても思い出し笑いをしてしまう。肉球、忘れられません・・・)。むしろ、性とセクシュアリティは、年を重ねるごとに自由になるもの。この映画からは、そんなメッセージも受け取ることができる。

『百合祭』は、2001年の作品である。浜野監督は原作を読み、「これ(老女たちの性愛)は私が撮る映画だ」と感じたのだという。既存のモラルと、日本の映画界を含む社会の性規範や思いこみ、表層的な性の価値観に挑戦をいどんだ浜野佐知監督と本作に対して、国内外から高い評価が送られ続けている。2002年3月、第9回トリノ国際女性映画祭準グランプリ受賞を始め、2003年7月、フィラデルフィア国際L&G映画祭最優秀長編レズビアン映画賞、同年11月ミックス・ブラジルグランプリ(ベスト長編ドラマ賞)など。これまでに何と世界30か国以上で上映され、今も上映が続き、静かにファンを広げている作品だ。未見の方はぜひ、機会をつかまえてご欄いただきたい(下記リンク先の公式HPからDVDの購入もできます)。「浜野ワールド」入門編としてもオススメの作品だ。(中村奈津子)

映画についての公式HPはこちら

-原作-
桃谷方子『百合祭』(北海道新聞文学賞受賞作 講談社刊)

-製作-
株式会社 旦々舎
企画:鈴木佐知子 脚本:山崎邦紀 撮影:小山田勝治
照明:上妻敏厚 美術:奥津徹夫 音楽:吉岡しげ美
編集:金子尚樹

-後援-
株式会社 北海道新聞社/財団法人北海道文学館

-助成-
日本芸術文化振興会芸術団体等活動基盤整備事業

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現在、浜野佐知監督は新作映画『雪子さんの足音』の制作に取りかかっています!(WANでの紹介記事はこちら)。この作品へのご支援も、引き続きよろしくお願いいたします。