エッセイ

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<女たちの韓流・41>「産婦人科」(SBS2010)~両性平等放送賞歴代受賞作③ 山下英愛

2013.06.05 Wed

産婦人科を舞台にした初めてのドラマ

イメージ 1 ドラマ「産婦人科」(全16話)は、2010年の男女平等放送賞で奨励賞を受賞した作品である。メディカルドラマはいろいろあるけれども、韓国で産婦人科を扱ったものはこれが初めてだ。普通、産婦人科といえば“既婚女性が通うところ”と思われがちだが、このドラマを見れば、それが単なる先入観や偏見であることがわかる。産婦人科に対する認識を新たにさせられるドラマである。

 脚本チェ・ヒラ、演出はイ・ヒョンジクである。チェ・ヒラはこれがデビュー作である。昨年(2012)は応急医療の現場を舞台にした「ゴールデンタイム」(MBC)を書いた。両作品とも、これまで外科の世界が中心だった韓国のメディカルドラマの地平を広げたものだと高く評価されている。制作陣は病院のみならず、妊婦とその家族の協力を得て、帝王切開の場面や手術の様子などをカメラにおさめた。ドラマにはその生々しい映像がひんぱんに取り入れられている。

 主演は、産婦人科の科長ソ・ヘヨンを演じたチャン・ソヒ(張瑞希1972~)、小児科医でNICU(新生児重患者室)科長のイ・サンシクを演じたコ・ジュウォン(1981~)、そして、不妊クリニック担当のワン・ジェソクを演じたソ・ジソク(1981~)である。また、産婦人科レジデントのアン・ギョンウ役をソン・ジュンギ(1985~)が演じているほか、毎回多くの俳優たちが患者や家族の役で特別出演している。他の話題作(「チュノ(推奴)」)におされて平均視聴率は11%ほどだったが、見応え満点のドラマである。

カリスマ女医、ソ・ヘヨン

 イメージ 2ドラマの舞台は、ある私立大学病院分院の産婦人科。そこに本院から女医のソ・ヘヨンが科長として赴任してくる。ヘヨンは子どもの頃から秀才で、医師としての腕も並大抵ではない。出勤初日から、救急の手術を陣頭指揮し、断固としたリーダーシップと判断力、見事な手術の腕前を見せる。大学病院の有力な教授候補でもある。ヘヨンを演じるチャン・ソヒは小柄だが、その演技はカリスマに満ちている。

 そんなヘヨンは、同じ大学病院の元教授で、今は本院で室長をつとめるユン・ソジンとつき合ってきた。ヘヨンはシングルだが、ユン・ソジンは妻子のある身。そんなある日、ヘヨンは妊娠し、そのことをソジンに告げる。ソジンは平静を装うが、内心のとまどいを隠せない。ヘヨンもソジンの態度からその心の内を敏感に察してしまう。シングルマザーになることが、大学病院での昇進に決定的に不利であることも知っている。それでヘヨンは、中絶しようと決心する。

 イメージ 3そこへ、ヘヨンの妊娠を知って温かく励まし、好意を寄せるイ・サンシクと、幼馴染の域を超えて、二人の距離を縮めようとするワン・ジェソクの二人がヘヨンにラブコールを送るのである。とりわけ小児科医のイ・サンシクは、ヘヨンの身体をいたわり、料理もうまく、仕事上の能力も高い。「こんな人がいるだろうか」と思ってしまうほど、ヒューマニズムに溢れる好人物として描かれている。

二つの命

 だが、こうしたラブラインはこのドラマの付属的なエピソードに過ぎない。ドラマのメインはやはり、産婦人科をめぐって毎回繰り広げられる多様なエピソードである。例をあげれば、妊婦の子宮が破裂したケースやHIVポジティブの妊婦の緊急手術、前置胎盤の妊婦の出産や妊娠中毒症による緊急手術、お産の後で子宮が収縮せずに緊急手術を要するケース、出血が止まらず産婦の命が危機に直面するケースなどである。産婦と子どもの二つの命を助けるために、産婦人科のスタッフたちが奮闘する様子が描かれる。

 この二つの命が常に助かるとも限らない。妊婦が胎児を放棄しなければならない時もある。妊婦の血小板の数値が低いため帝王切開できず、状態の悪化した胎児を救うことができなかったり、心臓疾患をもつ女性が妊娠したものの、中絶しなければ妊婦が助からない場合、癌を発病した妊婦が、その治療のために子どもをあきらめなければならないケース、また、脳死した妊婦の体から月の足りない胎児を取り出すか否かを家族が迫られる場面もある。

“条件”がきめる出生

 このドラマの日本語字幕版には、「愛の選択」という副題がついている。たしかに、人はときとして自己犠牲的で愛に満ちた選択をする。自分の命よりも胎児を生かすことを優先して、癌の治療を拒否する妊婦の話などである。しかし、妊婦の体内に宿った子どもがこの世に生まれるか否かは、決して“愛”によって決まるわけでないということもこのドラマは描いている。

  たとえば胎児に障害があることがわかった時の反応である。胎児がダウン症であることを知ったある妊婦は、出産の際に子どもを死産させてくれと主治医に頼んだりする。また、主人公のヘヨン自体、お腹の子を産むべきか堕ろすべきかと悩む様子も、子どもの出生が愛だけではなく社会的条件によって左右されていることを物語っている。

 未婚の母に対する偏見、高校生が妊娠・出産することへの風当たりの強さ、障害をもつ人の生きづらさ、そして、経済的な支えがなければ産み育てることができないという諸々の条件が、愛以上に出生を左右しているのだ。このドラマを見ながら、未曾有の少子高齢化社会に突入した日本社会の歩むべき道を考えることもできる。少子化対策に「女性手帳」を導入しようなどとの動きがある昨今だが、このドラマを見れば、その発想がいかに的外れの政策かがわかるかも知れない。

俳優チャン・ソヒ

 主人公ヘヨンを演じたチャン・ソヒは、ペ・ヨンジュンと同じ1972年生まれである。子役タレント出身で、下積み時代が長かった。2000年代初めまで彼女は端役や助演の役しか回ってこなかったという。普通ならそれで演技を辞めてしまいそうなものだが、チャン・ソヒは主演になる日を夢見て頑張った。本連載④で紹介した「彼女の家」に、主人公ヨンウクの先輩役として登場している。

  イメージ 4彼女を一躍有名にしたのがイム・ソンハン脚本の日日連続ドラマ「人魚姫」(MBC2002~03、全246話・写真)である。この役があたってMBC演技大賞を受賞した。その後スランプにおちたが、2008年から翌年にかけて放映されたSBSの日日連続ドラマ「妻の誘惑」(全129話)で再び主役を演じた。妻である自分を徹底的に踏みつけて殺そうとまでした夫を、劇的に生まれ変わって復讐するというドラマで、チャン・ソヒの演技変身ぶりが光った。この役でもSBS演技大賞を受賞している。その次作である「産婦人科」では、髪をバッサリ切って芯の強いヘヨンのキャラクターを演じて見せた。2000年代中頃からは中国に進出し、今では中国で大人気を博しているという。努力家のチャン・ソヒをこれからも応援したい。

写真出典

http://blog.naver.com/PostView.nhn?blogId=chocochip17&logNo=140100769047&viewDate=&currentPage=1&listtype=0

http://talk.imbc.com/news/view.aspx?idx=10571

http://blog.naver.com/PostView.nhn?blogId=temptation16&logNo=90080620519

http://doctorcall.tistory.com/category/%EB%93%9C%EB%9D%BC%EB%A7%88%EB%A6%AC%EB%B7%B0?page=11

カテゴリー:女たちの韓流

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