アートの窓

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DV防止啓発ワークショップ「ココロレシピ」/武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科 ココロレシピチーム

2012.04.11 Wed

Ⓒココロレシピチーム

 

武蔵野美術大学の学生たちが、美術を通してDV(ドメスティック・バイオレンス)の問題を広く知ってもらうためのワークショップを行い、その取り組みを一冊の冊子にまとめました。

企画・制作したのは3年生13人。DVをなくすための活動をしている団体パープルアイズ(※1)の高田絵里さんの協力を得て、企画を練り上げました。

デザインの手法を用いた試みは斬新であり、学生が自分の身近にある問題に自ら取り組んだことに意義があると考え、A-WANスタッフのすずきが取材しました。

ワークショップの概要と、学生の皆さんのインタビューをご覧ください。

 

 ワークショップ「ココロレシピ」について

Ⓒココロレシピチーム

ワークショップの目的は、ゲームを通して参加者がふたりの関係のバランスに気づくことと、 DVの問題を知ってもらうための機会を提供すること。

2011年11月23日(祝)代々木公園にて16組、27日(日)には代々木公園で開催されたアースデイマーケットにて33組、合計49組(98人)がゲームに参加した。

カップルの力関係を診断するこのゲームは、まず互いに「相手にしてほしい事」が書かれたカードとおもりを選び「てんびん」にかける。「てんびん」の傾きを見てふたりで話し合いながら、カードとおもりを足したり減らしたりするというもの。「バランスをとること」より「バランスを知ること」が目的。

Ⓒココロレシピチーム

診断結果は数値ではなく、「てんびん」の傾きによって「一晩寝かせた熟成カレー」「舌ピリピリ大辛カレー」など、カレーに例えられる。

ゲームの後にリーフレットを見てもらい、DVの問題を知る機会を提供した。

◎ アースデイマーケット当日の様子はこちらをご覧ください。

http://www.earthdaymarket.com/category/schedule/yoyogi/2011-11-27/

 

 

「ココロレシピ」を制作した学生の皆さんにインタビュー

このワークショップは武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科3年環境デザインAクラスを3つに分け、3つのプロジェクトが同時進行したうちの1つ。13人の制作者のうちの7人に、企画の過程や制作を通して得られたことなどをうかがった。

 

 〜〝言葉〟をとり繕うより、自然に生まれる〝会話〟を引き出すために〜

 

—多くのアイデアから「てんびん」に絞られた経緯は? 関係性をカレーに例えたのはなぜ?

Ⓒココロレシピチーム

武田:取材させていただいたNPO法人女性ネットSaya−Saya(※2)の方が、夫婦間の力関係を「てんびん」に例えて説明してくれた。企画の途中で取材をふり返り、「てんびん」という案が浮上した。

金澤:「てんびんが傾く」というのは見た目でわかりやすい。「DVには言葉によるもの、精神的に追いつめるもの、いろいろなタイプがある」とパープルアイズの高田さんから聞き、「言葉」はいくらでもとり繕うことができるし、「言葉」だけではだめだと思った。

 

田中:いろいろな案が出た中で「言葉のキャッチボールをする」というのがどの案にも入っていた。表面的な「言葉」より、ゲームをしながら自然に生まれる「会話」を引き出すことができるところがいいと思った。

Ⓒココロレシピチーム

渡部:アースデイマーケットの「食と農」にちなんで、野菜をイメージしたおもりにした。  メニューは最初からカレーではなかった。

鈴木:企画当初はいろいろな料理があって、「あなたはカレー、あなたはシチュー、あなたはビーフシチュー」という感じだったが、カレーの案に絞り込まれた。

藤田:カレーはいろんな味、いろんな種類があるので表現しやすい。家庭ごとにカレーの味がちがうように、どんなカレーがあってもいい。「ふたりの関係もそれぞれちがっていい」と伝えられる。

武舍:「てんびんを平衡にするのが目的」になってしまうと、自分の気持ちをごまかすことがあるかもしれない。「話し合うことが目的」なので、参加者が結果を気にし過ぎないよう、てんびんの目盛りを参加者側からは見えないようにするなど、工夫した。

 

〜「これってDV防止の啓発だったの?」って驚く人が多かった〜


Ⓒココロレシピチーム

—ワークショップで気づいたこと、気をつけたことはありますか?

渡部:アースデイマーケットにカップルで来る人は、もともと仲が良くていい方ばかりなのだと思う。繁華街でやってみたら、また違ったかもしれない。

藤田:第三者の私がクッション代わりになって、深いことを話してくれるカップルもあった。私たちが入ることでけんかせずに話し合うことができたのかなと思う。

渡部:人前でけんかしたらみっともないからね。

田中:相手に対する不満は意外とぼんやりしている。このワークショップをやることで不満がはっきりして、「ここは直してほしい」とか「ここは我慢できる」とか優先順位をつけることができたのではないか。お互いの気持ちの整理に役立ったのかな。

武舍:ゲームを通してふたりの関係性が見えてくるように感じた。一方が意見を言いにくそうにしているカップルもあった。互いを思いやり、意見を言い合える関係性を築くことができれば、DVは防げると思う。

鈴木:「ふたりで1部あればいい」と言われても、リーフレットは1人に1部ずつ渡した。もしかしてDVがある関係だとしたら、相談先などが載っているリーフレットを読ませない、ということもあるかもしれないから。

Ⓒココロレシピチーム

金澤:「DVはダメ」とか「DVはこういうもの」ということを伝えるだけでは、他人事と思われてしまうんじゃないかと考えた。ゲームや会話を通して、相手が思っていることや自分の気持ちに気づく。ゲームの後にリーフレットを見てもらうことで、〝気づく〟が〝わかる〟になると感じた。

武田:リーフレットを見て「これってDV防止の啓発だったの?」って驚く人が多かった。逆にDVを表に出したら、参加してくれる人は少なかったと思う。実際にDVは、DVと気づかなくて起こっているので、意図して隠していた訳ではないが、あとからわかるという方がDVの問題に近づけると思った。

 

〜「てんびんが傾いているな」と自分で意識するようになった〜


Ⓒココロレシピチーム

—制作を通して得られたことはありますか?

金澤:DVは身近なもの、私たちの日常の近くに起こりうることであるということがわかった。自分の心の持ちようも変わった。人のため、社会のためと思っていたこの活動が、実は自分のためになっていた。

渡部:僕は人間関係を形成することにあんまり積極的ではなかったので、ちゃんと人間関係をしようと思った。親に対してもずっと反抗期で、まだまだ反抗期だったので、そろそろやめた方がいいんじゃないかと思った。

武舍:親とか友だちとかまわりの人に自分の意見をばーっと言っちゃったとき、「てんびんが傾いているな」と自分で意識するようになった。他の人にも知ってほしいし、気づいてほしいけど、自分自身がそういうことに気づいたことが、私の中では大きかった。

田中:デザインとは華やかな世界だけにあるのではなく、DVなど、社会の問題を解決するためにもあるのだと気づいた。自分自身「聴覚障害」をもっているので、そのような問題に気づきやすい立ち場にあるのではないかと思う。これから、社会の問題に焦点を当てることに関わることができたら、と思う。

藤田:DVのテーマがワークショップの形になると思ってもいなかったので、「なんで美大生がやるんだろう」と思ったが、「デザインの力が関係づくりにも使えるんだ」ということに気づいた。参加者がどのカードを選んだかを集計したところ、「一緒にご飯を食べたい」が2番目に多かった。私は食べ物に興味があり、「食と人間関係」をテーマに作品を作っていきたいと思う。

武田:DVの問題に関わったことでニュースや新聞の記事がよく聞こえてくるようになった。〝知る〟ということとが大事だと思った。端からは〝ノロケ〟に聞こえることも、よくよく話を聞いてみるとちょっとおかしいと気づくことがある。こういう問題に関わったからこそ、言葉に気をつけて、話を聞くとき配慮ができるようになった。

鈴木:DVをなくすために活動している団体がいろいろあることを知った。友だちよりも、知らない人相手の方が話しやすい場合もあると思う。また、自分のことは気づきにくく、まわりの人だから気がつくこともあると思った。「たばこ吸わないで」「お酒飲み過ぎじゃない?」というカードを選ぶ人が多いと感じた。「たばことお酒」に関する問題に取り組んでみたいと思う。

 

——インタビューを終え

 DV相談ナビダイヤル(※3)の電話番号が生理用品の包装に印刷されているのを見たとき、「なるほど、多くの人に知ってもらうためにはいいアイデアかも」と思う反面、違和感があった。「ココロレシピ」の取り組みを知り、この問題を〝日の当たる公園〟に引っ張り出してくれたことがうれしかった。「デザインの力」がフォルムや色彩に限らず、「人と人との関係をかたちづくることに活かせる」ということを実感できた。

 制作を通して「自分の気づきになった」「自分の心の持ちようが変わった」という感想が多く、制作者自身のエンパワメントにもなったと感じた。

取材に応じてくださった学生の皆さん、〝就活〟のご多用中に、貴重なお時間をいただきありがとうございます。

左から武舍 由莉さん、田中 碧さん、藤田 杏子さん、鈴木 有紀さん、金澤 咲也子さん、 武田 美歩さん、渡部 龍司さん

 

※1 パープルアイズとは、参加型のイベントなどを通してDVの問題が身近にあることを広く知ってもらい、多くの人の目がDVの抑止力となることを目指して活動している団体です。

※ 2 NPO法人女性ネットSaya-Sayaとは、DV等の暴力により、困難を抱えた子ども、女性の権利を擁護し、女性も男性も互いに尊重される暴力のない社会を目指して活動している団体です。

3 DV相談ナビダイヤルとは、内閣府が実施している、DV被害者のための相談機関電話番号案内サービス(全国共通0570-0-55210)

(インタビュー・文・写真/A-WAN すずき)

 

  「ココロレシピ」を見守って

 

このワークショップは、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科3年環境デザインAクラスの授業の中で制作された。授業を担当された先生方からのコメントです。

「ココロレシピ」は人と人が対話する契機を含み、カラフルな野菜やカレーなど、色やアイテムの選び方に学生たちの感覚が活かされている。DVについて、自分とかかわりのあることとして気軽に考える機会をつくり出す、ひとつのヒントを提供することができたと思う。

学生が予想していなかった思いがけない領域で、学んできたことを社会的な課題に活かすことができたことは、学生たちにとって得難い経験だ。

高田さん、ありがとう!    花崎 攝(武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科非常勤講師 演劇デザインギルド理事)

 

 

最小単位のコミュニティへの「関係のデザイン」

 

ココロレシピは、コミュニティの課題解決のための「関係のデザイン」の企画・運営・記録・発信について実践的に学ぶ授業の取り組みのひとつです。ところで、ドメスティック・バイオレンスが「なんでコミュニティなの?」と疑問に思われるかもしれません。

そのことに明快に答えてくれたのは、代々木公園のアースデイマーケット事務局の方でした。「この催しは、恋人や家族という最小単位のコミュニティを対象にしているのです」とホームページで紹介してくださいました。ココロレシピをどんな場所で実施するのかは越えなければならない大きな壁だったのですが、代々木公園にやってくる若いカップルに対象を絞り込み、アースデイマーケット事務局にねばり強く交渉し続けた学生に対して、こんな素敵な言葉で応えてくださったのでした。デザインの力で人を動かす。この出来事は、それを実現した最初の一歩でした。

初めはこわれやすいけれどもこの世でいちばん強い絆にもなっていくはずの、愛おしい最小単位のコミュニティに、私たちの試みが届いたら幸いです。                           齋藤 啓子(武蔵野美術大学教授)

 

◎『ココロレシピ』冊子をご希望の方に実費でお分けいたします。(数がまとまり次第、印刷する予定です)

詳細は下記にお問合せください。 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科研究室内 ココロレシピチーム(担当:齋藤啓子)

 〒187−8505 小平市小川町1−736     FAX 042−342−5177

 

「ココロレシピ」へのメッセージ

 

デートDVやDVをなくすための活動をしている団体の方々に「ココロレシピ」の冊子をご覧いただき、メッセージをいただきました。

 

西山さつきさんからのメッセージ

 

カジュアルな気持ちで参加でき、自分の本心を確認できるとっても素敵なワークですね。

何をどんな重さで選ぶかも大事ですが、選ぶときに「これを選んだらまずいかな」などと迷いがあったかどうかも気づきのポイントかもしれません。

その人はなぜそう思うのかを考えてみてください。

もしDVのカップルがこのワークをした場合、被害者は加害者が怒らないようなピースを選ぶことになるかもしれません。

暴力のある関係の中では、本音を話したり、本当の意味で尊重し合って話し合うのはできないからです。

(NPO法人レジリエンス 副代表)

Ⓒレジリエンス

NPO法人レジリエンスとはー

DVや虐待、モラハラ、その他様々な原因による心の傷つきやトラウマについて、情報を広げる活動をしています。書き込み式の資料を使い、安全安心の場で自分を振り返ることができる12回の連続講座「レジリエンス☆こころのcare講座」は毎月都内と横浜で開催を続けています。中学、高校、大学へのデートDV予防活動、支援者向けの講座など幅広い展開をしています。米国からの新しい情報を常に取り入れ、米国へのスタディーツアーの開催も行っています。http://resilience.jp/

 

 

阿部真紀さんからのメッセージ

 

とってもヘルシーで、いろんな人へ紹介したくなっちゃうレシピですね。

一人ひとりの気持ちはみんな違うから、伝えてみなくちゃわからない。

そして、お互いのバランスを大切にして伝えあうこと(=話しあうこと)・・・が何よりも大切。

そのことに気づいて取り組んだ皆さんのキラキラ輝くステキなチカラに拍手喝采!

日本中の人びとに、このヘルシーなレシピを味わってもらえるよう応援しています。

(NPO法人エンパワメントかながわ 理事長)

Ⓒエンパワメントかながわ

NPO法人エンパワメントかながわとはー

暴力のない社会をめざし、一人ひとりの人が「とっても大切な人」だよというメッセージを伝え、人権啓発活動をおこなうNPO法人です。10代のうちにデートDVについて啓発することで、DVや虐待などあらゆる暴力をなくしていきたいと考え、独自にデートDV予防プログラムを開発し、これまでに1万人以上の高校生、大学生に提供してきました。全国に先駆け、デートDVに特化した電話相談「デートDV110番」を開設し運営しています。http://npo-ek.org/

 

 

 

髙山直子さんからのメッセージ

 

「ココロレシピ」という名前とロゴがとても気に入りました。

「パワーとコントロール」が特徴のDVを見事に天秤とカードで表現し、とても自然な形で抵抗なくDVに対する意識を高められる手法に感動しました。

DVに限らず親しい関係の中で陥りやすい相手の心を読むコミュニケーションから生じるギャップを埋め、自分の意思を認知し、相手の考えを理解する道具としても使えることが、まさに〝DV防止〟であると思いました。

ブラボー!

(サポートハウスじょむカウンセラー、お茶の水女子大学セクシュアル・ハラスメント等人権侵害相談室専門相談員)

Ⓒサポートハウスじょむ

NPO法人サポートハウスじょむとはー

2002年の開設以来、女性が心の元気と心からの笑顔を取り戻す過程をサポートすることを一貫してミッションとし、活動しています。女性問題専門のカウンセラーが常駐しており、カウンセリングサービス、自己尊重心の向上のための講座やファシリテーター養成、語り合いのワーク、相談員トレーニング(ACW2と共催)などのサービスを提供しています。 http://jomu.org/

 

 

 

高田絵里さんからのメッセージ

 

「ココロレシピ」の制作過程をすぐ近くで見させていただき、本当に興味深い時間を過ごしました。

DV被害への支援者、相談窓口、そしてDV被害を受けた当事者のみなさんにヒヤリング調査を行い、その調査結果を中心に置いて、現状の課題を抽出し、課題解決のためのコミュニケーション・デザインとして、どんなアウトプットが効果的なのかを、常にラディカルな視点に立ち返って検討していく、みなさんの作業の迫力に接し、デザインの可能性をあらためて感じました。

みなさんの今後の活躍に期待しています。ありがとうございました。           (パープルアイズ 代表)

Ⓒパープルアイズ

パープルアイズとはー

多くの人の目をDVに向けてもらえるように、課題解決にデザインの要素を取り入れ、先ずは、わかりやすい親しみやすい入口をつくることに軸を置き、DV防止啓発活動をしています。さまざまなPRプロジェクトや身近で楽しい企画を計画し、これまでのDV防止啓発活動とは違うスタイルのコミュニケーションを展開していきます。DVを身近な問題として捉えて、暴力の発生や予防を社会的責任のレベルで考えていく人が増えていくことを目指しています。 http://purpleeyes.jp/

 

「ココロレシピ」についてのお問合せやメッセージは、awan@wan.or.jpまでご連絡ください。

(構成 / A-WAN  すずき)

カテゴリー:アートトピックス

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