◎ 財産分与の対象財産は、別居時のものですか、それとも離婚時のものですか。
ケース1夫が自宅を出て行ってしまってから5年経ちました。今夫から離婚したいと言われています。5年前はそれほど夫には収入もなく、貯金もありませんでしたが、その後昇進して収入が増え、財産も蓄えているようです。財産分与ができるときいていますが、別居時の財産か現在の財産かで大きな違いがあります。現在の財産が基準になるといいのですが…。
ケース2別居する数年前には一時期夫婦で数百万円の財形貯蓄や積立保険もしてきました。ところが、別居時には全く財産がなくなってしまいました。夫が不貞をしたためにその示談金として500万円支払うことになったり、夫が勝手に300万円の車を購入したり、ゴルフ代等に浪費したりしたためです。車は夫が今も保有しています。別居時にゼロである以上、財産分与の請求はできないのでしょうか。
撮影:鈴木智哉
◎ 一般的には別居時が基準
財産分与に関する現在の実務は、分与対象となる財産は、一般的には別居時に存在した財産で、別居後離婚時までの事情はむしろ「その他一切の事情」(民法768条3項)として考慮されるかどうかの扱いになっています。
夫が請求し、妻からも離婚の反訴請求をし、離婚時を基準とする財産分与をも請求した事案につき、「清算的財産分与は、夫婦の共同生活により形成した財産を、その寄与の度合いに応じて分配することを、内容とするものであるから、離婚前に夫婦が別居した場合には、特段の事情がない限り、別居時の財産を基準にしてこれを行なうベきであり、また夫婦の同居期間を超えて継続的に取得した財産が存在する場合には、月割計算その他の適切な按分等によって、同居期間中に取得した財産額を推認する方法によって、別居時の財産額を確定するのが相当である。」とした上で、妻の離婚時を基準とする清算的財産分与の主張を「独自の見解」として斥け、その事案では、「特段の事情を認めるだけの証拠もない」とした判断があります(名古屋高判平成21年5月28日判時2069号50頁)。
ですから、ケース1では、「特段の事情」がない限りは、残念ながら、5年前の別居時の財産を基準にすることになるでしょう。「特段の事情」とはたとえば何でしょうか、と気になるところでしょうが、申し訳ございませんが、「特段の事情」を認めた裁判例が見つかりませんでした。
なお、1回目(5-1)で取り上げた扶養的財産分与については、別居時ではなく、口頭弁論終結時(分与時)の財産状態が検討の対象とされます(当然ですね)。
◎ 義務者が専ら浪費した場合
さて、そうなると、別居時に財産がゼロであれば、どんな場合であろうとも、財産分与を請求できないのでしょうか。
ケース2のもとになった事案は、別居前の一時期、被告である夫名義の定期性預金300万円~350万円があったこともあるのに、夫の不貞による示談金500万円の支払い、車の購入(支払額約300万円)、ゴルフ用品等の夫の浪費、同居中から夫が婚姻費用を分担しなかったことなどから、別居時点では全くなくなってしまったものです。他方で、妻には浪費は全くありませんでした。この事案では、別居に存在する財産がなくても、夫から妻に財産分与として500万円支払うことが相当とされました(浦和地判昭和61年8月4日判タ639号208頁)。
そこで、ケース2でも請求してみてはどうでしょうか。ただし、「義務者の浪費、権利者の浪費なし」がくっきりと明らかにできることはあまりなく、実務上、主張しても、裁判所からは頑として「別居時にないなら、ない」と斥けられることが多いような気がします。チャレンジングな主張と覚悟して臨む、というところでしょうか。
財産分与に関する問題はまだまだたくさんあります。次回以降も続けます。